再びクエストへ
皆様の応援に助けられ、なんとか日間ランキングに滑り込むことができました!
いざランクインしてみると、上位で一日数千ポイントを稼いでいる作者さんがどれだけ化け物かを改めて実感させられますね。
引き続きよろしくお願いします!
僕はヨーグさんを見送ったあと、受け取ったクエストの内容をじっくりと読み込んでいた。
クエスト内容…山賊の捕縛。
・場所…ベルク山の洞窟。
・捕縛が望ましいが、自己防衛のために止むを得ず殺してしまった場合でも罪には問われない。
・山賊の詳しい人数は不明。目撃情報によると、土魔法の使い手がいる可能性が高い。
※犯罪者の処罰についてはギルドの管轄外なため、捕縛した山賊は騎士団に引き渡すこと。
……最後の補足説明を読むと「どうして最初から騎士団が捕縛に向かわないのか?」と疑問に思うかもしれないが、ベルク山はモンスターが多数出没するため、基本的には冒険者ギルドのテリトリーとなっているのだ。
町の中は騎士団が守る。
町の周辺のモンスターは冒険者が間引く。
長い歴史の中で、騎士団と冒険者ギルドの間では、このような暗黙のルールが形成されていた。
(期限は今日を含めて3日間。その間に山賊が拠点を移す可能性も低くは無い。それならば……)
僕は改めて地図を凝視する。
山賊のアジトがあると推測されている洞窟は、今日クロウさんと行った麓の少し上の方にあった。
今からそこに向かうとしたら、大体30分もかからないくらいだろうか?
日が完全に沈むには、あと少しだけ時間がある。
……行こう。
僕は依頼表と地図を【収納】にしまい、ベルク山の方向へと駆け出した。
……ついさっき、クエストでクロウさんに案内されたばかりの道のりだ。
当然ながら道を間違えることもなく、僕は想定より早い20分ほどですんなり洞窟まで辿り着くことができた。
(なるほど、確かに大きな岩が入口を塞いでいる)
入口は僕の身長の2倍ほどの高さがあるが、不自然なほど細長い岩によって完全に塞がれていた。
……ここまで都合の良い形をした岩が、自然に形成されたとは思えない。
この岩は、情報通り土魔法によって人為的に生み出されたと考えていいだろう。
……問題は、この洞窟に出入り口が複数あるかどうか、という点。
もしあるとしたら、全員は捕らえられない恐れがある。
僕は【収納】から秘密兵器を取り出し、岩の前に立った。
(まさか、これに使い所があるとは。眠らせてしまえば、いくら逃げ道があろうと逃げようがないからね!)
「【収納】!」
巨大な岩を収納して退かし、すかさず僕は数年間温めていた秘密兵器「眠り玉」を洞窟に投げ入れた。
投げ入れた後は、再び岩を【収納】から出現させ、煙が僕の方向に来ないようにする。
僕は昔から、道具を作るのが好きだった。
……いや、元から好きだったのではない。
僕が道具の製作を始めるようになったきっかけは、固有スキル【収納】が持つ唯一のアドバンテージが、飛び道具などの武器やポーション類を、他の冒険者より遥かに多く持ち運ぶことができるという点にあったからだ。
この「眠り玉」も、僕が独自に製作した道具だ。
「ネムリクサ」という植物がある。
ネムリクサの葉には睡眠を促す成分が入っており、その匂いを嗅ぐと、たちまち不眠が解消されるという。
……僕はこれをお香のように用いることで、煙幕の要領で周囲に散布させることを思いついた。
葉を嗅ぐだけで睡眠が促されるのなら、燃焼させれば更に高い効果が得られるのではないか?
そんな安易な考えから出来上がったのが、煙を吸った者を眠らせるという非常に凶悪な兵器「眠り玉」である。
外部から刺激を与えると、組み込まれた火属性魔法の魔法陣が発動。
それにより内部でネムリクサの葉が燃焼し、元々入っていた煙幕に混じって溢れ出すという仕組みだ。
……しかし、残念ながら試したモンスターには尽く効果がなかった。
そのため、作ったまでは良かったが、今までずっと使われないままお蔵入りしていた品の一つだったのだ。
対人でしか使えない上、密閉空間や風向きの悪い場所で使おうものなら自分も眠ってしまうという、使い所に苦労する僕史上最大の失敗作。
そんな失敗作が今、クエストで役立った。
……人生、何があるか分からないなぁ。
僕はネムリクサの煙が完全に霧散するのを待ってから、洞窟内部へと突入した。
◆ ◇ ◆ ◇???視点 ◆ ◇ ◆ ◇
「今日はツイてるな、まさか、この山でこんなお宝を拾うなんて。ギャハハハハハ!」
……お宝。
確かにこの人たちからすれば、私は「お宝」なのかもしれません。
「俺らがたっぷり可愛がってやるから、光栄に思えよ? どれ、少し味見を……」
「……やめろ。価値が下がるだろうが」
「いいじゃないですか、頭。ちょっとくらいならバレやしませんって!」
「吸血鬼の奴隷がいくらで売れるかを考えたことがあるか?……まして、まだ誰にも汚されていない上玉なら。貴族の豚が食いつくに決まってる」
……この方たちは、私をどうするつもりなのでしょう。
犯されるか、売られるか。
いずれにせよ、私に暗い未来が待ち受けていることに変わりはありません。
疲労と空腹で弱った私は、運悪く鉢合わせてしまった山賊に拘束され、アジトへと連れ込まれました。
あぁ、私に「操血術」が使えたら。
今まで、一体何度そう願ったでしょう。
私は今までずっと、モンスターや人間たちから逃げ回って暮らしてきました。
吸血鬼は本来、モンスターの上位に立ち、人間から恐れられるべき存在だというのに。
…でも、それも仕方ありません。
操血術が使えない吸血鬼など、翼をもがれた鳥のようなものなのですから。
人間からは討伐対象として、モンスターからは良い餌として、更には同族の吸血鬼からも「吸血鬼の恥」と言われて追い回されました。
私に一体、何の罪があるというのですか?
たまたま吸血鬼として生きているだけなのに。
私にできることは、ただ神に祈るばかりでした。
この絶望的な状況から私を救い出してくれる、神の使いが現れる。
そんな、御伽噺のような展開を願って。
半分モンスターである私が、人間の信仰する「神様」に縋っているのは、誰の目から見ても滑稽なことに違いありません。
でも、祈らずにはいられなかったのです。
「もう我慢ならねぇ!頭、すんません!」
山賊の手が私の方へと伸びてきます。
その手つきはどこかいらやしくて、山賊の表情は下衆びたものに溢れていました。
私は、目を瞑りました。
体を奪われても、心までは奪われまいと思って。
…しかし不思議なことに、いつまで経っても山賊に体を触れられた感触は訪れません。
恐る恐る目を開くと、その山賊は私の足元に倒れていました。
「……え?」
周りを見渡すと、倒れているのは私を襲おうとした山賊一人ではありませんでした。
「かしら」と呼ばれていた男以外は、皆地面に倒れ伏しています。
山賊達が倒れた原因は、どうやら入口から溢れ出ている煙のようでした。
私には、その煙は効かなかったようです。
……吸血鬼は人間よりもあらゆる耐性が高いですから、それも当然かもしれません。
こういう時だけ、自分は本当に吸血鬼なのだと実感することができます。
「随分とナメた真似をしてくれるじゃねぇか!隠れてねぇで出てこい!」
「……一網打尽にしたかったけど、そう上手くはいかないか。全員眠ってくれれば楽だったのになぁ」
…それが、私とアイラ様との出会いでした。
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