クエストを終えて
ギルドに戻った僕とクロウさんは、ホワイトウルフの爪×18を納品し、素材ボーナスとして18000Gを受け取った。
どうやら、「蒼い彗星」ではホワイトウルフの爪は1000Gで買い取りされるようだ。
……というのも、素材の買い取り金額は各々のギルドによってかなり異なる。
参考までに言っておくと、「赤い不死鳥」ではホワイトウルフの爪は500Gで取引されていた。
「ほら、9000Gだ。クエストを共有してくれてありがとな。助かったぜ」
「いえ、こちらとしてもクロウさんが居てくれて、凄く心強かったです。……というか、クロウさんの方がホワイトウルフを多く倒しているのに、きっちり等分して良かったんですか?」
まして、僕は所詮「荷物持ち」なのに。
喉元まで出かけたその言葉を、僕は必死に押し戻す。
「臨時とはいえ、同じパーティーでクエストを受けたんだ。等分するのは当然だろ。それにアイラの【収納】のお陰で、奴らのやたらと重い爪を抱えて歩く必要が無くなったから、かなり助かったぜ。遠慮せずに貰えるもんは貰っとけや」
クロウさんはそう言うと、僕の手の中に半ば強引に9000Gを握らせた。
例え荷物持ちでも、対等な仲間として扱ってくれる。
僕は、クロウさんの優しさに感激した。
……加えてクロウさんは、僕の【収納】は確かに役に立っていたと言ってくれた。
クロウさんのなんでもないようなその言葉は、僕の中ではボーナス報酬の9000Gよりも遥かに価値のあるものだった。
僕は涙腺が緩みそうになるのを悟られぬよう、平静を装って無理矢理笑顔を繕う。
「そう言って頂けて嬉しいです。次もしご縁があれば、せめてホワイトウルフくらいは一撃で倒せるように頑張ります」
「そのことなんだが、一つ頼まれてくれるか?」
「はい? なんでしょう」
「実は、一週間後に俺たちは『火炎のダンジョン』の攻略に挑むつもりなんだが、同行してくれる荷物持ちがまだ決まってないんだ。もし良ければ、臨時メンバーとして『黒い雷』に入ってくれないか?」
……クロウさんの申し出は、僕にとっては願ったり叶ったりだった。
戦力的な面で、荷物持ちである僕が1人でダンジョンに潜るのは自殺行為と言える。
しかし、冒険者が手っ取り早くランクを上げるためには、ダンジョンに潜るのが一番効率が良い。
連れて行ってくれるというなら、むしろこちらから頼みたいくらいだ。
何より僕は、またクロウさんとクエストに行ける機会を貰えたことがたまらなく嬉しかった。
「では、その時はよろしくお願いします!」
「……おお、受けてくれるか!」
クロウさんは表情を輝かせる。
普段、荷物持ちは居れば便利、程度の扱いだが、ダンジョンだけは例外的に荷物持ちをパーティーに組み込むのが必須レベルとなってくる。
ダンジョンは地上に比べてモンスターに遭遇する確率が非常に高いので、パーティーに【収納】持ちがいないと、持ちきれなくなったモンスターの素材をダンジョンに捨てて行くことになるのだ。
……それゆえ、ダンジョンを主戦場とする「紅き閃光」は、荷物持ちのスペックに固執していたわけで。
「今日から一週間後の朝10時頃にギルドに顔出してくれ。その時に他のメンバーも紹介するからよ」
「わかりました。今日はありがとうございました」
「おう。次もよろしく頼むぜ」
クロウさんはそう言うと、ギルドから去っていった。
パーティー、か。
僕も、いずれは自分でパーティーを結成してみたい。
しかし、荷物持ちである僕が呼びかけたところで、そう都合よくメンバーが集まるとは思えないんだよなぁ……
当分の間は、臨時の荷物持ちとして様々なパーティーを巡ることになると思う。
……どんなパーティーと組んでも、僕がすることは精一杯サポートするだけなのだが。
物思いにふけながらぼんやりとギルドの様子を眺めていると、僕に気づいたヨーグさんが歩み寄ってきた。
「初クエストは上手くいったみたいだね。ひとまず、おめでとうと言うべきかな?」
「ありがとうございます。僕の中では色々と収穫の多いクエストになりました。……少しだけ、ヨーグさんが言った言葉の意味が分かった気もします」
ーーアイラ君は、「蒼い彗星」の冒険者の態度に驚くかもしれないね。
言われた時はさっぱり理解できなかった。
けれど、今ならなんとなくわかる。
臨時パーティーを組んだクロウさんの態度が、「紅き閃光」のメンバーとはまるで違っていたから。
今までパーティーの誰かに守られた経験なんて無かったし、ましてや「後ろに隠れろ」なんて指示を出されたのは、今日が初めてだった。
「それは良かった。アイラ君の価値観は、随分と『赤い不死鳥』に偏っているようだったからね。……それはそうと、アイラ君の家が用意できたみたいだ。案内するようにミシャルに頼まれているんだけど、今は都合が悪いかい?」
「いえ、とんでもない! というか、僕なんかよりヨーグさんの方がよっぽど忙しいでしょうに……」
ヨーグさんは、スカウトとして毎日のようにギルドからギルドへと飛び回っているような人だ。
どう考えても、貴重な時間を頂いているのは僕の方な訳で。
「まったくだよ、ミシャルは本当に人使いが荒い。……まぁ、あの人が本当に忙しいのは知っているから、僕もこうして協力しているんだけどね。さて、それじゃあ早速行こうか」
僕はヨーグさんに連れられ、少し暗くなったメリーズの町へと歩き出した。
……今日は、やたらと誰かの後について歩く機会が多いなぁ。
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