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クエスト受注

実際の狼の群れは比較的少数らしいですね。

まぁ、モンスターなので。


クエストボードには、FからSまでのクエスト依頼がびっしりと貼り付けられている。


本来なら僕はFランクからのスタートだったが、ミシャルさんの好意でBランクから受けることができるのは本当に幸いだった。



クエストによっては、月末の給料とは別に、その場で受け取れるボーナスが発生するものもある。


僕はついさっきマイルスに全財産を奪われたので、実質的にこのボーナス付きのクエストを受けなければならない状況まで追い込まれていた。



(えっと、今あるBランクのクエストは……)



クエストボードを覗き込むと、今受けられるBランク推奨クエストは5つ貼り出されている。


少し悩んだ末、僕は「ホワイトウルフの討伐」という討伐クエストを受けることにした。



……討伐クエストというのは、その名の通り町や村に被害をもたらすモンスターを駆除するクエストである。


クエストには他にも「納品」や「一般」などの種類があるが、Cランク以上の冒険者は基本的に討伐クエストがメインとなってくる。



僕がこれから受けるホワイトウルフの討伐クエストは、ホワイトウルフを10体()()倒し、証明部位である爪を10個()()納品することで達成となる。


討伐証明部位である爪は素材としても重宝されるため、納品した際に数に応じて素材ボーナスが発生するのが、今の僕にとっては非常に嬉しかった。


ホワイトウルフとは既に何度か戦ったことがある上、ホワイトウルフの戦術と僕の持つスキル【入れ替え(チェンジ)】は非常に()()()()()ので、10体程度なら荷物持ち(ポーター)の僕でもどうにかなる、と考えたのも、このクエストを受けようと思った理由の一つだ。



僕が依頼表に手を伸ばすと……


同時に、逆方向からも手が伸びてきた。



(しまった、バッティングか!)



基本的に、クエストの受注は早い者勝ちとなっている。

クエストボードに張り出された依頼表を剥がして受付に持って行き、それが受理されて初めて、正式にクエストを受注したこととなる。


そのため、狙っていた依頼表が他の冒険者と被ってしまうことも珍しくなかった。



反対側から手を伸ばした冒険者は僕を一瞥すると、手を引いて軽く頭を下げた。


……僕の方が、一瞬早かった。


相手もそれを察していたからこそ、大人しく手を引いてくれたのだろう。


中には力づくで依頼表を持っていこうとしたり、バッティングした相手を脅してクエストを譲るように働きかける物騒な人もいるので、ひとまずこの人に常識があって良かったと思う。



「悪い、バッティングした」



「いえ、こちらこそすみません。……一人ですか?」



「……?あぁ、一応俺は三人で『黒い雷』というパーティーを組んでいるが、今日はソロで受けに来てるな。それがどうかしたか?」



その返事を聞いて、僕は内心でガッツポーズを決める。


荷物持ち(ポーター)」なりに戦う手段を模索しているとはいえ、支援職である以上は共に戦ってくれる仲間がいるに越したことはない。



「そちらさえ良ければ、臨時パーティーを組んで一緒にこのクエストを受けませんか?一応、僕は荷物持ち(ポーター)なので」



「……へぇ、お前荷物持ちなのか。良いな」



冒険者はそういうと、僕に向けて手を差し出す。



「……交渉成立だ。俺はクロウ。よろしく頼むぜ」



「アイラと言います。こちらこそ、よろしくお願いします」



僕は差し出された手を力強く握り返して答える。

お世辞かもしれないが、荷物持ち(ポーター)を「良い」と言われたのは初めてだった。


僕はどこか、胸の奥が熱くなるような感覚を覚えた。



「早速だが、今すぐに行けるか?もし何か準備があるなら……」



「いえ、行けます!」



荷物持ち(ポーター)は、絶対にパーティーの足を引っ張ってはならない。

「紅き閃光」に所属していた時から、いかなる時も出撃準備だけは整えておくよう心がけていた。



「……そうか。なら、行くぞ」



クロウさんはそう言うと、すぐに受付でクエストの受注を済ませ、時間が惜しいとばかりに早足でギルドを後にした。


勿論、僕もその後に続く。



……正直、助かった。


間抜けな話だが、僕はまだメリーズの地理に疎いので、迷ってホワイトウルフの生息地に辿り着けない可能性もあったと思う。



ギルドを出てからは、クロウさんを追いかけるようにひたすら真っ直ぐに歩いた。


……しばらく直進すると、やがて足に伝わる地面の感触が変化してくる。

整備された道ではなくなった、と言うべきだろうか。


周囲の風景もだんだんと木々が多くなってきて、徐々に視界に入る建物が少なくなってきた。



クロウさんは少しだけ歩くペースを落とし、僕の方を振り返る。



「……この先に『ベルク山』という山があって、ホワイトウルフはその麓に出没する。気を引き締めろ、もうすぐ山に入るぞ」



クロウさんは背中に背負っていた大剣を抜き、臨戦態勢を整える。


……流石は、Bランク冒険者といったところか。

構えにほとんどスキが無い。



一方の僕はというと、【収納】から短剣を取り出しただけ。

側から見れば、スキだらけの構えだ。


……だが、相手がホワイトウルフなら、()()()()()()()

油断させた方が、僕としては都合が良いのだ。



「アイラ、ホワイトウルフが出たら、すぐに俺の後ろに隠れろ。荷物持ち(ポーター)に怪我させたとなりゃ、冒険者の恥だからな」



「……?いえ、自衛くらいはできるのでお構いなく」



……冒険者の恥?


クロウさんの言葉選びに違和感を感じつつも、僕はその申し出をやんわりと断った。



荷物持ち()を庇ったばかりに、クロウさんが本来のスペックを発揮できないのでは困る。



「……ならいいが、本当に無茶はするなよ?帰りに重い素材を持って帰るのはごめんだぜ。あいつらの爪、見かけによらず重……っと、早速きやがったか」



僕たちの足音を聞きつけたのか、茂みの奥からホワイトウルフが3匹ほど姿を見せた。


基本的に、ホワイトウルフは群れで行動する。

そのため、この3匹は斥候で、本隊は別でいると考えるのが妥当だろう。



「まず一体!オラァッ!」



クロウさんは大剣を振り下ろし、ホワイトウルフの一体を真っ二つに斬り裂く。

そして、クロウさんはすかさずもう一体の方へ斬りかかるが…


その脇から逃れるように、三体目のホワイトウルフが僕の方へと駆けてきた。

スキだらけな構えを取っている僕を見て、クロウさんより僕の方が楽に倒せると考えたのだろう。



「チッ! 一体そっち行ったぞ、大丈夫か!?」



……これでも、僕は元Sランクパーティーの一員だ。

たかだかBランクのモンスター相手に苦戦しているようでは、僕の面子が立たない。



「お構いなく! クロウさんはもう一体の方をお願いします!」



僕は短剣を()()で握り、ホワイトウルフに斬りかかる。



僕は剣士ではないし、動きや威力を強化できるスキルも何一つ持っていない。

そのため、ホワイトウルフは僕の斬撃を容易に避けることができるだろう。



……もし、このまま僕が何もしなければ、の話だが。



ホワイトウルフが斬撃を避ける瞬間、僕は短剣を収納し、代わりにしまっていた長剣を【収納】から取り出す。


「【入れ替え(チェンジ)!】」



「ワォォォン!?」



当たる直前に剣の間合いが伸びたことに気づけず、ホワイトウルフは僕の長剣の餌食となる。




……荷物持ちは戦えない。


……スキルが【収納】では戦えない。




そう言われるのが悔しくて、僕は毎日どうすれば【収納】を活かして戦うことができるかを考えていた。


試行錯誤を続けること数週間、ついに僕は、持っているものと収納しているものを瞬時に入れ替えられるというスキル…【入れ替え(チェンジ)】を習得した。


大袈裟かもしれないが、そのとき僕は【収納】の新たな可能性にたどり着いたのだと思う。



今までは、手に持った物体Aと収納されている物体Bを入れ替えたいと思った時、まず物体Aを収納してから物体Bを取り出す必要があった。

しかし、このスキルを使えば、手に持っている物体Aと収納されている物体Bを、文字通り瞬時に入れ替えることができるのだ。



……そして、このスキルを用いて編み出したのが、先程の半ば騙し打ちのような斬撃。



相手の攻撃を寸前でかわし、自分が攻撃を仕掛けるという極端なヒット・アンド・アウェイで戦うホワイトウルフの戦術は、僕の奇襲策【入れ替え(チェンジ)】の格好の的だった。



僕の斬撃で弱ったホワイトウルフに、クロウさんが止めを刺す。

……クロウさんはもう一体のホワイトウルフを既に倒し終えていた。



「今のは、一体どういうカラクリだ? 短剣が突然伸びたように見えたが……」



「伸びたのではなく、あらかじめ収納してあった長剣と入れ替えたんですよ。ホワイトウルフは当たる寸前で攻撃をかわそうとする習性があるので、こうするだけでも結構当たってくれます」



僕がそう答えると、クロウさんは驚いたような表情を浮かべた。



「……アイラ、お前すげぇな。戦闘スキルじゃない【収納】を、見事に戦闘用に昇華させてやがる。そこまで戦えるなら、別に荷物持ちじゃなくてもやっていけるんじゃねぇか?」



「いえ、確かに僕はモンスターを倒すことはできますが、一体倒すのに時間をかけすぎなんですよ……」




……そう、それこそが、僕が「紅き閃光」で足を引っ張っていた最大の理由。


Bランクのクロウさんが一撃でホワイトウルフを倒していたのに対し、僕は切り傷を負わせただけ。


そこから分かる通り、戦闘系のスキルを持っていない僕は、とにかく全ての攻撃が軽すぎたのだ。



【回避】で敵の攻撃を避けることはできるし、【収納】を生かした攻撃手段もある。

……しかし、高ランクの冒険者にとっては最も重要ともいえる「攻撃力」というステータスが、僕には足りなかった。


「……悪い、余計なことを言ったな。さっさと本隊見つけて終わらせるぞ」



「……はい!」




その後、僕はクロウさんと共に、合計18体のホワイトウルフを討伐したのだった。




もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思って頂けたら、ブクマ、並びに下にある評価ボタンをポチっと押してやって下さい。

ものの数秒で終わる作業ですので…!


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