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決着はあまりに呆気なく

Q.この世界にゴムはあるんですか?


A.合成ゴムを製造する技術はまだありませんが、天然ゴムならあります。



「任せろ!」


キースさんが僕たちの前に飛び出し、ヘルサラマンダーの炎を受け止める。



「あれ、意外と強くねぇな。これは【火球(ファイアーボール)】……初級魔法か?」



「その初級魔法が、とんでもねぇ数連射されてきそうだが」



「うわぁ……マジかよ」



キースさんが苦笑いを浮かべる。

ヘルサラマンダーの周囲に無数の魔法陣が浮かび上がり、そこから大量の【火球(ファイアーボール)】が撃ち出された。



「う、うぉぉぉぉぉ! 【鋼鉄の盾(アイアンシールド)】!」



「【飛空剣(エアスラッシュ)】!」



「【紫電】!」



【黒い雷】の三人が必死に技や魔法を発動し、何とかヘルサラマンダーの最初の攻撃をやり過ごす。



「ひとまず絶対に防げないほどの攻撃では無いってことが分かったが、恐らく向こうは今のを半永久的に撃つことができるな……」



初級魔法は殆ど魔力を消費しない。

それ故、敵への牽制としてはもってこいなのだ。

クロウさんの読み通り、ヘルサラマンダーは間髪入れずに追撃の魔法の準備に取り掛かった。


並の魔道士では難しいとされる魔法の重複を、いとも簡単ににやってのけるヘルサラマンダー。

流石は、Aランクモンスターと言ったところだろうか。



「クロウさん、このままこの距離感を保たれると、不利になる一方です。それに、この熱気の中での長期戦闘は望ましくありません」



ボス部屋は、道中とは比べ物にならないほどの熱気で満ち溢れていた。

それは恐らく、ヘルサラマンダーの存在自体が外気を温めているせいだろう。



「勝負は短期決戦だ。パーティーで一番火力の高い、ミラの魔法を軸に作戦を組み立てる。キース、お前はミラを守れる位置に居てくれ。 アイラは……」



「遠慮は無用です」



一人加勢するだけでも、ヘルサラマンダーの魔法がいくらか分断され、その分楽に立ち回れる。

クロウさんだって、分かっているはずだ。

こんな状況で荷物持ち()に気を遣うのは、仲間をより死の危険に近づける行為だと。



「悪い、お前の力を頼る。一緒にミラの魔法が完成するまでの時間を稼いでくれ」



「勿論です」



「ビィァァァァァ!」



「……来たぞ、掻い潜れ!」



クロウさんの合図で、僕は続けて放たれた【火球(ファイアーボール)】を凝視する。


……魔法にも、「核」がある。

レッドスライムの時と同じように、【火球(ファイアーボール)】の核を探し出せ!


(見えた。ここだ!)


僕は進路を塞ぐ魔法だけを打ち払いながら、最短距離でヘルサラマンダーに迫る。



「ビィィィィィィ!」



ヘルサラマンダーは「近寄るな」とばかりに、今度は一回り大きな火球を放つ。

中級魔法【大火球(メガファイア)】だろうか。


……魔法が大きくなっても、僕がやることは変わらない。

「核」を見極め、そこを渦巻く魔力の間に剣で介入してやればいい。



(よし、間合いに入った……!)



これで、ヘルサラマンダーは僕に注目せざるを得ない。

僕がヘルサラマンダーの注意を引き付け、少しでも魔法の形成を阻害できれば、クロウさんがいくらか楽に立ち回れるだろう。


……しかし、そう思い通りにはいかないのが高ランクのモンスター。


ヘルサラマンダーは、その巨体からは想像できないほどの瞬発力で僕の斬撃を回避し、お返しとばかりに炎のブレスを吐き出す。


(【回避】!)


僕もそれを余裕を持ってかわしたが、その間にヘルサラマンダーは後退し、その位置から再び【大火球(メガファイア)】を放ってくる。


……近づかれるのを嫌がっている?

だとしたら、接近戦に活路があるかもしれない。



「アイラ、挟み込むぞ!」



「はい!」



僕とクロウさんの挟撃。


前後から挟まれたヘルサラマンダー。


最初の攻防から、こいつは瞬発力を生かして左右どちらかへ逃げ、振り向くと同時に炎を吹きつけてくることが予想できる。


……どっちだ?


よく見ると、ヘルサラマンダーの重心は、若干だが右へ偏っている。



(よし、もらった!)



僕はヘルサラマンダーが右に逃げると踏み、そこに向けて剣を振るった。

しかし、ヘルサラマンダーは僕の読みを嘲笑うかのように、クロウさんに向けて突進を繰り出す。


(げ、あいつ、肉弾戦もできるのかよ……!)



「【重い斬撃(ヘビースラッシュ)】!……ぐぅ!?」



剣技で勢いを殺したクロウさんだったが、徐々に力で押し負け、弾かれてしまう。



「……クソ、不覚を取った!」



クロウさんの腕からは、若干だが流血が見られる。

恐らく、内蔵を打ちつけないようにするため、飛ばされた時に腕を下にして着地したのだろう。



「【上級回復薬(ハイポーション)】です! 少しの間、引き付けます!」



「悪い、助かる!」



僕はクロウさんに【上級回復薬】を投げ渡し、それとほぼ同時にヘルサラマンダーに【ウォーターボム】を投げつける。


【ウォーターボム】などと大層な名前は付いているが、要するにただの水風船だ。

しかし、ヘルサラマンダーのように全身に炎を纏っているモンスターにとっては、「ただの水」ですらダメージを負わせる立派な武器。


……我ながら、ふざけた武器だとは思う。

しかし、人間の敵意や殺気を頼りに攻撃を回避するモンスターに対しては、「敵意の薄い攻撃」が有効となる場面がある。

今がまさにそれだ。


ヘルサラマンダーの高温の外皮で、水を包んでいた袋が燃える。

 


「ビィ!!?!?」



クロウさんに追撃を仕掛けようとしていたヘルサラマンダーは、一瞬、何が起きたのかがわからず面食らったような様子を浮かべる。

しかし、次の瞬間には自分が攻撃されたことを理解し、僕の方を振り返った。



(そうだ。こっちに向かってこい!) 



突進に備え、僕はいつでも左右どちらかに動けるように構える。

ヘルサラマンダーは炎を身に纏い、僕に突進攻撃を仕掛けようとする。

……だが、ヘルサラマンダーは、直前になってその足を止めた。


理由はよく分からないが、好都合だ。

僕の役目はこいつを倒すことではなく、クロウさんが復帰し、ミラさんが大魔法を放つまでの時間を稼ぐこと。

敵が待ってくれるというなら、このまま何秒睨み合っていても良い。


……しかし、妙だ。

クロウさんが離脱した今、僕とヘルサラマンダーは一対一。

どう考えても、ここは様子見をする場面ではないはずなのだが。



「ビ、ビィィィィィ!?」



「……?」



何故か、怯えたような声を出すヘルサラマンダー。

お茶を濁すように放たれた【大火球(メガファイア)】を剣で打ち消しながら、考える。


どうして、ヘルサラマンダーはあの時、クロウさんに突進することを選んだのか。

どうして僕には同じ技を使ってこないのか。


……何か、あるはずだ。

分かれば、それが勝機になるかもしれない。


魔力切れを起こしたのか?


いや、それにしては早すぎる。

魔力の塊のような存在である精霊が、モンスター化しただけでそんなに弱体化するとは思えない。


……待てよ、精霊?



多分、それだ。



ヘルサラマンダーは僕に近づこうとしない。

どういうわけか、僕に対してだけは頑なに遠距離魔法に徹しているような気がする。


それだけじゃない。


最初に【黒い雷】のメンバーが攻撃を防いだ時、僕はほとんど何もしていない。

何もしていないのに、無傷だった。


僕のところに来た【火球(ファイアーボール)】は、全て僕の頭上を通り過ぎていった。

ヘルサラマンダーの魔法の練度を見るに、偶然狙いが逸れたとは考え難い。

そして今も尚、ヘルサラマンダーの視線は、僕よりも若干上の位置を向いている。


その理由は。

そこに、居るのは。



『……下級とはいえ、精霊には気づかれるのね。実体化も良い事ばかりじゃないなぁ』



そうか、彼女(ネフィル)か。


あの時ヘルサラマンダーが恐れていたのは、僕ではなく、同じく精霊であるネフィルの存在。


見えない、しかし只者ではない気配は感じる。


得体の知れない本能的な恐怖に侵され、ヘルサラマンダーはネフィルのいる方向に突進することができなかったというわけか。


ヘルサラマンダー。

無詠唱で魔法を同時展開する上、近接戦闘では、クロウさんの剣でも止めるのが精一杯なほどの突進攻撃を繰り出してくるモンスター。


普通に戦えば、かなり手強かったのだろう。



……だが、今回は相手が悪かった。

僕ですら、彼女の底は計り知れないのだから。



(ネフィル)



(あら、戦闘中に念話なんて、どうしたの?)



(頼みがあるんだ。ミラさんの魔法の完成に合わせて、そこから、()()()()()()飛んでみて欲しい。あいつ、さっきからネフィルしか見ていない)



(……なるほど、いいわよ)



「クロウ、アイラ、そこを離れて!」




どうやら、ミラさんの魔法が完成したらしい。

ネフィルが浮遊を始めると、ヘルサラマンダーの視線もまた、ネフィルを追って一瞬上を向く。

その隙に、僕は【回避】を発動させ、全力で後退する。


【回避】は、味方の攻撃に対しても発動する、発動条件がかなり曖昧なスキルだ。

普段は僕もこのスキルの扱いに苦労させられているが、今回はそれが功を奏した。



雷魔法の最大の強みは、発動から着弾までの速度。

他の魔法より威力に欠けるが、迅速に敵を処理することに長けた魔法。

ヘルサラマンダーが僅かに目を離した一瞬でも、仕留めるには十分な時間だった。



「【渦巻く雷(ツイスターボルト)】!」



ミラさん渾身の魔法が放たれ、ヘルサラマンダーは避ける間もなく、雷の餌食となる。

魔法が直撃したヘルサラマンダーは、そのままピクリとも動かなくなった。



「え、一撃……?」



思わず、声が出た。

ヘルサラマンダーに追撃する気満々だった僕は、拍子抜けして剣を落としてしまった。



「……ひとまず、難を逃れたようだな。どうした、アイラ。腰が抜けたか?」



「い、いえ……てっきりまだ倒せないと思ってたので。あまりにも脆くてびっくりしたというか」



「はは、やっぱりお前は考えることが違うな。俺はもう、ミラの魔法で倒せなかったらどうしようもないと思ってたよ」



「俺もクロウに同意だね。今のところ、ミラが魔法を溜め切った時に倒し損ねたモンスターは居ないからな」



「キース、あんまり持ち上げないで。にしても、やっぱり()()しんどいわ……」



「ミラさん!?」



「大丈夫、軽い魔力切れよ。じきに治るわ」



……たった一回の魔法で、魔力切れ?



「そんなに強力な魔法だったんですね」



「いや、魔法自体は中級魔法だが、ミラのスキル【増幅】の効果が上乗せされている。魔力を長く込めれば込めるほど、魔法の威力が半永久的に上がるんだ。それで、いつもこいつは限界ギリギリまで魔力を込め続けて、最後にはぶっ倒れる」



「あら、()()()倒れてないじゃない」



クロウさんの言葉からは、所々から悔しさが滲み出ていた。

ミラさんに無理をさせないと勝てないような敵がいることに、自分で納得が行かないのだろう。


僕も同意見だ。

魔法で一撃だったとはいえ、僕たち前衛はヘルサラマンダーに殆ど有効打を与えられていない。


それも、僕があの時、ヘルサラマンダーがネフィルを避けていることに気づかなければ、ミラさんの魔法だって外れていたかもしれない。


本当に、紙一重だった。

ネフィルの力を借りても良いという前提なら、話はまた変わってくるが……



「まぁ、勝ったしいいんじゃねぇか? アイラはともかく、Bランクの俺らからすりゃ大金星だぜ」



「そうね。まずは、生き残ったことを喜びましょう」



「あぁ、そうだな。……この戦い、俺たちの勝利だ!」



クロウさんが勝ちどきを上げ、僕と【黒い雷】は意気揚々とダンジョンを引き上げたのだった。



見せ場が少ないキースさん(笑)

個人的にはシアルの成長を早く投稿したくてたまらないんですけど、その前に紅き閃光とネイの話を挟まないといけない……

ぐぬぬぬぬ(虚空を睨む音)


執筆頑張るので面白かったら評価・ブクマ等よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 赤い不死鳥ざまぁルートも微妙だし。なんというか中途半端な要素が多いかも。
[一言] Twitterのおすすめユーザー経由で、知りました。 すごく研究して書いていらっしゃるようで、とても読みやすいです。
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