謎多き吸血鬼
またしばらくアイラpartです。
※マイルスはこの頃死の淵を彷徨っています。
僕はいつも通り、ギルドのクエストボードでクエストを吟味していた。
今日は、モンスターとの戦闘が極めて少ない、素材収集クエストを受けようと思う。
……というのも、今日のクエストには本人の希望でシアルも同行することになっているので、いつもの調子で危険を伴うクエストを受注するわけにはいかないのだ。
どのクエストがより安全だろうか?
僕は普段の数倍ほどクエスト選びに時間をかけ、結局【魔力草の採取】というクエストの依頼票を手に取った。
魔力草は、ベルク山の麓から山の東側まで広がっている「フリース平原」という草原地帯で多く見つかるらしい。
この平原に生息するモンスターはそこまで強くはないので、最悪モンスターが襲ってきても、僕だけで十分対応できる。
僕はクエストボードから依頼票を剥がしとり、それを持って受付へと向かった。
「今日は【魔力草の採取】を……あれ?」
受付は空いていた気がしたのだが、いつの間にか他の冒険者に先を越されてしまったようだ。
仕方なく他の列に並び、クエストの受理を済ませる。
「じゃあ、行こうか」
「はい。足を引っ張ってしまわぬよう、全力を尽くしますね」
「そんなに固くならなくてもいいよ。今日やることはただの草むしりだからさ」
……とは言ったものの、魔力草は結構見つけるのに苦労するんだよなぁ。
あんまり時間がかからないといいんだけど。
僕達は、軽い足取りで「フリース平原」へと向かった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うーん、中々見つからないなぁ……」
僕は辺りの草を片っ端から収納し、頭の中で【魔力草】と念じながら草を取り出す。
「これだけ探して5本かぁ……」
魔力草はその他の雑草と非常に形状が似ているため、見分けるのがかなり困難なのだ。
そのため、このクエストは本来魔力草の持つ微量な魔力を感じ取れる魔道士や、スキル【鑑定】を持つ冒険者に推奨されている。
肉眼で見分けるのも不可能ではないが、これだけ沢山ある草の中から魔力草を見つけ出すのはかなり厳しいものがある。
そこで僕は、辺り一面の草を片っ端から収納し、スキルによる分別で魔力草のみを取り出すという力業を用いているのである。
ちなみに、この辺りにある草は殆どが際限なく生えてくる雑草らしく、間引いても特に問題はないとのこと。
一方、その頃シアルはと言うと。
「あ、ありました。これで13本目、納品は50本なので、目標まではアイラ様の分を合わせてあと32本ですね!」
……何故か、物凄い才能を発揮していた。
シアル曰く、近距離ならば魔力草の魔力を感じ取れるらしい。
僕は、吸血鬼という種族の恐ろしさを再認識せざるを得ないのかもしれない。
そりゃ、強いわけだよ。
近い将来、僕とシアルの力の上下関係が逆転しててもなんら不思議ではない。
そうならないように、僕も頑張らないと。
「【収納】……【魔力草】……残念、外れか。【収納】……【魔力草】……よし、1本。【収納】……【魔力草】……」
延々と続く地味な作業。
だんだんと口数は減っていき、僕もシアルも自分の作業を黙々とこなすようになっていった。
(これで12本目……ん? 急に体が軽く……)
考えるより先に、僕は地面を強く蹴る。
体が軽くなる感覚がしたということは、僕のスキル【回避】が発動したということ。
即ち、敵襲にあったということだ。
先程まで僕が居た空間を、草陰から飛び出して来たスライムが横切る。
ちょっとだけ、危なかったかな。
背丈の低いモンスターに草の中に隠れられると、かなり接近されたことに気づきにくい。
「ピギィィィィィ!?」
僕に体当たりを仕掛けたモンスター……スライムは、最大にバランスを崩して地面を跳ねる。
「ピギィィィィ!」
……まるで、「避けるなよ!」とでも言っていそうな剣幕だ。
怒ったスライムは、再び僕に体当たりを仕掛けようと、思い切り体を縮める。
僕は【収納】から短剣を取り出し、スライムを攻撃しようとして、少しだけ思いとどまる。
……スライムが相手なら、シアルに経験を積ませるチャンスなのでは?
多数のスライムの集合体であるメガスライムや、亜種であるキングスライムでない限り、スライムによって人が殺されるケースはほとんど無い。
それに、魔法を発動させるのに大切なのは、その魔法をはっきりとイメージをすることだと聞く。
最初に受けた冒険者研修でも、魔法の訓練をするには、実際のモンスターを的としてイメージを固めた方が遥かに効率が良いと言っていた。
僕は魔道士ではないので、その説明をされた時は気にもとめなかったが、こんなところで知識が役に立つとは思わなかったな。
尤も、操血術と魔法がどこまで通ずるのかは定かではないが……
「シアル、このスライムで少し操血術を練習してみよう」
「え……でも、まだ一度も成功したことは無いですよ?」
「だからこそ練習しないと。それに、僕の前でやるのは初めてでしょ? 客観的に見れば、何が問題なのかがわかるかもしれないし」
「わかりました。では……」
僕はスライムの攻撃を引きつけ、軽くいなしながら、彼女の様子をじっと観察する。
シアルは軽く目を瞑ると、周囲に赤い水滴を浮かび上がらせた。
それは徐々に大きな血塊となり、やがて、巨大な血の鎌を形成し始める。
(これは、ひょっとして成功したのか?)
……最初はそう思ったのだが、一向に鎌が完成する気配はない。
血の塊はまだふよふよと宙を漂っていて、いつまで経っても形が固定されないのだ。
「……ごめんなさい、やっぱりできません。血を固められないんです」
「うーん、少し魔力が不安定だね。血に魔力が均等に通っていないから、血に結束が弱いところが出来ちゃってるんだ」
「魔力?」
「そう、魔力。操血術は血を直接操っているんじゃなくて、血に溶け込んだ魔力を媒体として血を間接的に操っているみたいだから」
……なんて、吸血鬼ではない僕が偉そうに説明できることではないのだけれど。
これはどこかの偉い人が研究した情報らしいので、恐らく信憑性は高いと思う。
吸血鬼は血と魔力がほとんど同化しており、魔力を放出するという行為を非常に苦手とする。
その代償として得た力が、血液ごと魔力を操る「操血術」なのだと。
いや待てよ、なら、どうしてシアルが出した血塊は、魔力が不安定だったんだ?
あれ?
吸血鬼の魔力は血液に同化しているんじゃ……
「ピギィィィィ!」
「うおっと! ごめん、忘れてた!」
僕は今度こそスライムを一刀両断し、ドロップアイテム【粘液】を収納する。
一つだけ言えることは、シアルは吸血鬼の中でもイレギュラーな存在だということだ。
魔力が血液に同化していないのでは、魔力を媒体に血を操るなどという行為は到底できそうもない。
シアルの血が少し特殊だということが分かっただけでも、一歩前進したと思うべきか。
「魔力……意識したこともなかったです」
「いや、普通の吸血鬼は特に意識してないんじゃないかな。シアルの血は、何故か他の吸血鬼とは違って魔力と同化してないみたいだし……」
(あれ? 魔力が血液と分離してるってことは……あっ!?)
……僕は【操血術】に拘るばかり、大変なことを見落としていたのかもしれない。
吸血鬼である彼女に、【操血術】を習得させなければならないという思いが先行しすぎて。
「あの、アイラ様? 何か……?」
「シアル……もしかしてだけど、魔法使えるんじゃない?」
「…………………………え、えぇ!?」
主人公より先にヒロインがチート化しそうで自分の作品に軽く恐怖を感じている作者です。
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