少女の回想
ここまでの11話が全て作中では1日の出来事。
だというのに執筆にはニ週間以上かかってます。
割に合わない……
私は、ベッドの上で物思いにふけっていました。
考えているのは、いつの間に私はこの部屋まで来たんだっけ?……ということではなく、勿論アイラ様のことです。
……不思議な人だ。
山賊のアジトでアイラ様を一目見た時、私は失礼ながらもそんな感想を抱きました。
山賊の頭と対峙したアイラ様は、どこか余裕な表情を浮かべていました。
……にも関わらず、そのとき、私はアイラ様から何も感じ取れませんでした。
吸血鬼は人間よりもあらゆる感覚が鋭いので、戦わずとも相手の強さをある程度察することができます。
放たれている殺気は弱々しい。
魔力量が多いわけでもない。
見るからに体格が大きいわけでもない。
……あの人が山賊の頭に勝てるはずがない。
私は、そう結論付けました。
しかし。
体格、武器は共に不利。
魔力量も、明らかに山賊の頭の方が優れている。
そんな圧倒的なハンデを背負った中で、アイラ様は山賊の頭を圧倒してみせました。
【収納】が戦闘に向かないスキルだということくらいは、吸血鬼の私でも知っている常識です。
だというのに、アイラ様の洗練された身のこなしは、今まで私を追ってきた冒険者達とも遜色の無い、あるいはそれ以上のものでした。
ここに至るまで、アイラ様は一体どれだけの努力を重ねたのでしょう?
……【収納】と、全く使えない【操血術】。
あるもので戦う術を生み出したアイラ様と、ないものをねだり続けた私。
私も諦めずに努力を続けていたら、あんな風に堂々と戦えるようになっていたのでしょうか?
(いつか私も、アイラ様と肩を並べて戦えるようになりたい。……いや、ならなきゃ)
私は胸の中で密かな決意を固めました。
……とはいえ、今日のところは大人しく睡魔に身を委ねることにします。
まともな布団で寝るのは、一体何ヶ月ぶりでしょう。
今夜は、よく眠れそうです………
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ん…」
暖かい日差しに照らされ、私は目を覚ましました。
外を見ると、日は随分と昇っています。
……少し、寝過ぎてしまったでしょうか?
隣の部屋からは、微かに物音が聞こえてきます。
アイラ様は、既に目を覚ましているようです。
私はそぉ〜っとアイラ様の部屋のドアを少しだけ開き、中の様子を覗き見てみました。
「……なんだ、シアルか。おはよう」
「! ひゃい、おはようございます」
バレないようにこっそり覗くつもりが、一瞬でバレてしまいました。
音は立てていないはずなのですが、どうして気付けたのでしょうか?
「ところで、何をなさっているのですか?」
「あぁ、これ? ちょっと道具の開発中。今度『火炎のダンジョン』っていうところに行くから、その対策をしておこうかなって」
アイラ様の手には、昨日山賊を相手に使っていた玉が握られています。
あれで、ダンジョンにいるモンスターを眠らせるのでしょうか?
残念ながら、私にはアイラ様が作っているものがさっぱり理解できません。
……まだまだ、勉強不足ですね。
「それより、一晩寝たら酔いはすっかり覚めたみたいだね。僕の血を吸うたびにああなるなら、ちょっと考えものなんだけど……」
「酔い?……あっ」
昨日はふわふわしていて思い出せなかった記憶が、今はしっかりと思い出せます。
私は昨晩、酔っていたのでしょうか?
『アイラ様と一緒に寝るのはダメですかぁ?』
確か、そんな事を言っていた気がします。
これは……酔ってますね、完全に。
……はぅぅ。
「シアル、大丈夫? 顔赤いけど」
「だだだ大丈夫です!」
「ダメっぽい……」
「すみません、少し1人にしてください」
「……?…うん」
私は再び自分の部屋に戻り、静かに枕に顔を埋めました。
時間が経って少し冷えた枕が、私の顔の熱を冷ましてくれているように感じます。
…それでも、顔の火照りはまだ引きそうにありません。
(どうして……どうしてあんなこと言っちゃったんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)
……しばらくして、シアルを呼びに行ったアイラが見たのは、シアルがベッドに突っ伏したまま足をバタバタとさせている可愛らしい光景だったとか。
これにて一章は終了です!
二章からはアイラの元所属ギルド「赤い不死鳥」視点の話が入ってきます。
引き続きよろしくお願いします!
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ものの数秒で終わる作業ですので…!




