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第67話 過去編〜完〜

 娘の進学については深く考えてはいなかった。小学から私立大学附属の学校へと通わせていたから、進路もそのまま付属の高校へと上がっていくものだと思っていた。



 棗が他校の高校への進学を希望している事を、棗本人の口からではなく学校側からの連絡で知ることになる。すぐに察した。私が娘を避けているのと同じく、娘も私を避けている。



 このような遠回しなやりとりが、今も続いている私達親子の関係の溝を表していた。






「聞いたよ。進路のこと」



「そうですか」



 久しぶりに帰る我が家は馴染みがなく居心地が悪かった。我が家というよりは、役所や図書館といった公共施設のようで落ち着かない。それでも、子供の進路について向き合うのが親としての義務だ。




「良いのかい?知らない生徒と交じる学校生活は大変だと思うよ。それにすぐに財閥の娘と知れ渡って好奇の目に晒されるかもしれない」



「構いません」




 その一言だけで、固くて巨大な岩みたいな娘の意志を内心で悟った。




「今までの友達ともなかなか会えなくなるんだよ」



「問題ありません。友達はいませんから」



「そ、そうか」




 友達がいないという事実を告げられるよりも目の前で起こった娘の感情の無い表情のリアリティが強いあまり、そっちの方を驚いてしまう。後から、告げられた言葉の意味が追いついてきくる。




「・・・条件がある」




 真っ白な思考を巡らせ、その中にある滲んでみえた文字をとりあえず読み上げたような感覚だった。条件。条件とは?自分で言っておいてその条件がまったく思い浮かばない。



 棗が強い目で私が提示する条件を待っていた。ふと、妻が入院中にテストの解答用紙を持ってきた光景が浮かんだ。




「テストの成績で学年1位を取ること。皇家として1位以外は認めない」



 我ながら無茶だなとすぐに思った。守れても守れなくてもどっちでも良い。こうした条件でさえ、歪なりに親と子として成り立つ材料になる気がした。




 それから、当たり前の事として素行に問題が生じた場合も付け加え、そしてもうひとつ付け足した。




「卒業後は外国のある大学へ進学すること」




 私はイギリスのとある有名な学校名を口にした。海外留学は妻が希望していた。



 とは言っても、娘の将来を考えてというわけではなく海外生活でえらく気に入ったのがその大学の周辺らしく、いつか娘と暮らしてみたいという妻らしい私欲な我儘なだけだが。




 「自然がいっぱいですっごく良い所なんだよ!数年だけでもみんなで一緒に住みたかったなぁ」病室のベッドの上で妻が言っていた声が、そのまま肉声として蘇ってきそうだった。




 素行以外は承諾しかねる内容と思ったが娘は二つ返事をした。私も子供を付属大学の学校へ通わせる理由もなければ固執もない。世間体なんてもうどうでも良い。




 高校はとある進学校を受験した。調べてみると超難関というわけではないが、それなりの高校であるためこの高校で学年のトップを維持できるわけがないと思っていた。




 初めての試験の結果は見事にトップで、相変わらず感情の読めない娘の顔を伺いながら渡された成績表を眺める。書かれた文字と数字が、私に「これで文句はないだろう」と言ってるようだった。



 それからも、ことあるごとに1位の成績表を涼し気な顔で渡す娘には驚かされた。一体、どれほどの努力をしているのだろうか。私は、高校2年に進級した娘の学校生活の様子を何も知らない。今後も聞かされはしないし、こちらから聞くこともないかもしれない。





 一度狂った歯車は、噛み合うことなく続ける。私達親子のように。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆





 雄一は頭を悩ませながら様々な言葉を取捨選択し過去を綴り、棗は静かに耳を傾けた。そして、これまでの記憶と雄一の行動を照らし合わせると、それが嘘でないと頭では理解できた。しかし、気持ちが否定していた。



 室内は再び静寂が訪れた。時折強い風が沈黙に耐えかねたようにガタガタと窓を鳴らす。





「すまなかった」



「・・・今更じゃない」



 視線は床に刺さったまま雄一は口にした。抽象的な謝罪の言葉を前にして棗もそれに応える。




「辛い思いをさせたね」



「やめて・・・・」




 棗の声がか細くなって震える。ようやく治まったはずの涙がまた溢れ出した。恥も外聞もなく雄一の前で嗚咽を漏らし、娘の姿を雄一はただ見守る。それは、今までになかった親子としての1つで形ではないだろうか。





「・・・・許さない」



 しばらくの間泣き続け、落ち着いた棗は言った。「お母さんから頼まれたとはいえ、余命を内緒にしていたなんて、許さない・・・・」




「じゃあ、素直に言えば良かったのかな」



「それはお母さんとの約束を破ることになるからそれはそれで許さない・・・」



「じゃあ・・・俺はどうすれば良かったんだよ」




 雄一は苦笑いをしながらそう言った、そして、手は棗の頭の上へと置かれていた。体がその行動を覚えていたように自然と。数秒経って、雄一が「すまない」と慌てて手を引っ込めた。棗はその間雄一の手を振り払う事はしなかった。





「私、今までずっと勉強して大変だったんだから」



「知ってるよ」



「進学だって、癌治療の研究をしている医大の受験を考えてたんだから」



「。。。そうか」 




 









 苗が亡くなる以前から雄一が仕事で病室に訪れなかったこと。病室で闘病中の母を励ましていたが、心寂しい思いをした。



 唐突に住んでいたマンションを雄一があっさり引き払ったこと。母との思い出が掌から水のようにこぼれ落ちていく気がした。



 引越し先の広い家に取り残されたこと。何もないただ広い部屋は棗にとってただの空虚な箱に過ぎなかった。




 

 棗は雄一が母の病室にお見舞いにも訪れない薄情な人間であると思い込んでいた。しかし、雄一なりに苦悩を抱えていた事を今更になって告白した。


















気合で執筆してやったわぁコラァ( ゜д゜)

すみません、もう意地になってます。


こちらも宜しければご覧ください。


肥満がなんちゃらかんちゃら〜

https://book1.adouzi.eu.org/n2519gl/

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