表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/81

第66話 過去編

 明るく活発な性格とは裏腹に葬式は大げさなものではく粛々と執り行って欲しい。彼女が生前に口を酸っぱくして言っていた。なので、会場には親族と親しい数人の友人のみが参列していた、



 闘病中に何度が病室で会った妻のご両親とも再開した。「今までありがとうございました」と、この時に深々と頭を下げられたのがはっきりと記憶に焼き付いている。



 財閥の御曹司との結婚は普通の場合は玉の輿と喜ぶんだろうか。だが、苗の両親はあまり良い顔をしなかった。御曹司の妻となれば様々な苦労を担うことになるではないかと危惧していた。大切な一人娘もあって、慎重になっていたのかもしれない。




「お礼を言いたいのはこちらです・・・・苗さんとの結婚を許してくれた・・・両親には感謝しきれません」




 感極まって声が震えた。




 楓さんも参列していた。私と時間が合わなかっただけで、実は何度もお見舞いに足を運んでくれたのだと亡くなる少し前に妻が話していた。




「大丈夫?」




 楓さんの声は、蝋燭の火よりも穏やかで優しく私を灯す。




「・・はい。生憎とやることがたくさんありますので」

 


「・・・そう」




 それだけ言うと、「お線香あげても良い?」と訪ねてきた。先輩から線香をあげてもらったら、きっと苗も喜ぶだろう。




 今までで一番深々と楓さんに頭を下げた。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆




 葬式を終えて一週間が経過した。



 自宅に彼女の姿はない。



 闘病中も家を空ける日が多く、その事自体珍しくなった。



 しかし、それはあくまで違う場所で生きているからであって、病院にも他の違う場所にも妻はもういない。だから、家の中は薄黒い靄のような濁った空気が充満しているようで重苦しかった。




 棗も中学生なので、私がいなくてもとも生活費を渡しておけば問題はないはずだ。掃除もきちんとしてくれているのか、床やトイレも清潔に保たれていた。




 私は安心して仕事に打ち込んだ。仕事だけが唯一悲しみを忘れさせてくれる。自宅に戻れば気持ちが悪い方向へとリセットされてしまう。




 寝る間も惜しむ、というのはこの時の私の状況を指しているのだろう。とうとう家にも帰らなくなった。棗からも咎める連絡がなかいので、それに甘えていたのかもしれない。



 深夜まで仕事をし、会社の傍のホテルに宿泊して自宅に帰らない日も珍しくなかった。








 ある日、私は当時の社長である親父と仕事終わりに食事をする約束をしていた、妻が亡くなってから初めて親父とは面と向かい合う。



 私達が会う店は高級な店ではなく多少高いくらいの庶民的な居酒屋ばかりで、親父の趣味みたいなものだった。個室とは名ばかりの薄い(ふすま)で仕切られた部屋で、私は今後の世界の未来を担う話しをするつもりでいた。




「こうして食事をするのも久しぶりだな」



「ああ、そうだね。バタバタとしていたから」




「・・・・今日は棗は連れて来ていないのか」



「うん。友達と約束があるからそっちに顔を出しに行ったよ」



「そうか」



「うん」



 はやり気遣っているのか、私の出方を探るように口数が少ない。そして私は早々に嘘をついた。棗が友達と約束があるなんて知らない。実際には本当に予定があるのかもしれないが、声すらかけていない。そもそも自宅に居るのかもわからないでいた。それほど、この時の私は娘との接触を恐れ拒んでいた。





「親父。提案とお願いがあるんだ」



「何だ」




「前からそろそろ社長職を下りたいって話しをしていただろ。だから、私を社長に就任させてもらえないか」




 親父を眉が上がった。一旦間を置くためにお猪口に入った安物の酒をちびちびと煽り始めた。




「今のお前は気持ちが先行していっている。逸る気持ちもわかるが、今はゆっくりと心の整理をしてからでも遅くはないんじゃないか」



「妻のことは関係ないんだ。それに、生憎と気持ちを整理する時間はたっぷりとあったから大丈夫だよ」




 親父が私の言葉を舌で味わうように吟味し、徳利(とっくり)から日本酒をお猪口に注いだ。




「いいだろう」



 酒を注ぐ僅かな時間で結論に至ったのか、以前より構想を描いてくれていたか、親父からの返事は早かった。




 平日のサラリーマンで賑わう店内の喧騒に紛れながら、社長就任の前祝いに乾杯をした。




 それから少し経ち、正式に私の社長就任が発表された。親父は会長として会社に顔を出すらしい。引退するんだか結局しないんだか、と心の中で思った。




 不気味と私の身内贔屓な社長主任に対する反発や不満の声を上がらなかった。が、そうだろうという自信、確信めいた気持ちがあった。実際、仕事は誰よりも懸命にこなしていたからだ。




 正式な発表があったその夜。ある事を娘に伝えなければならなかった私は久々に早い時間に自宅へ帰った。





「ちょっといいかな」



 コンビニ弁当を温めている娘に意を決して話しかけた。棗はもう中学3年生に上がろうかという年齢で、その容姿は常軌を逸しているほど整っていた、ふと、私が妻を初めて見た時と同じ感想を抱いていることに気づき、気持ちと体が一気に重苦しくなった。まるでこの一室だけが深い海底のようだ。いや、本当にそうなのかもしれない。ここは苗という光を失った暗い海の底と変わらない。




「どうかしましたか」



「あ、あぁ。少し話しというか報告があってね」



「報告?」




 久々に会話をする娘の変貌に気後れした。容姿も苗に似ていたが、明るく笑う性格も似ていた。しかし、目の前の棗は姿かたちは苗の面影そのままであるはずなのに、中身や雰囲気が全くの別人となっていた。それでも、私は話しを勧めなくてはいけない。




「急な話しだけど、ここを引っ越すことにしたよ」



「・・・この家を?」



「実はもうすぐで私は今の会社の社長に就任することが決まってね、ただ今後様々なお客さんを呼ぶ機会が増えてくればここの自宅はちょっと都合が悪くて少し広い家に引っ越さなくちゃならなくなったんだ」




 私にとってはまさに嘘も方便であり、無意識に早口で捲したてる口調になっていた。引っ越す理由なんて単純で、妻と居たこの空間にいるのが私にとって苦行でしかないからだ。





「どうしてもこの家を出なきちゃいけないの?」



「そうだよ」




「・・・お母さんと一緒に過ごした家なのに?」



「・・・そうだよ」



「わかりました」




 そう言って自分の部屋へと戻ってく娘を見届けた。しかし、レンジで温め終わったコンビニ弁当を取り出していない事には気づいたが、娘が不摂生な生活を送っている事実には全く気づこうとしなかった。



 棗の進級と同じタイミングで引っ越しは行われた。都内にある豪邸が売りに出されていたのでそれを馬鹿げた額で購入した。私からは捻出が難しかったため、親父に()()()をして資金を借りることにした。





 屋敷を部屋を掃除したり棗の身の回りの世話して貰う人を雇用した。これで、家に私がいなくても大丈夫だ。そもそも、この広い部屋に2人で住むのが無理がある。棗には寂しくならないよう、常に屋敷に誰かがいる環境を作ってあげる必要がある。




 それから私は以前よりも家に寄り付かなくなる。妻からの「悲しむ人たちを未来から無くす」という遺言を果たす環境が整ったので、最低限の服や着替えを会社に常備し、私生活を顧みず深夜遅くまで仕事にはげみビジネスホテルを転々とした。









4月始め頃から更新が暫く途絶えていましたが、再開の理由(言い訳)を説明します。

この作品の執筆を最後の手前まで書き溜めていたのですが、クラウドではなくPCのローカルに保存していて、PCの故障によるデータが全てぶっ飛びました。


なので、内容を思い出しながら執筆している状況なのですが、これがなかなかにメンタルに来るんですわ。

気分転換に新しい作品を執筆したところ、どうやらそちらが忙しくなりそうなので、こちらはまた更新が不定期なると思われますが、まぁそこまで期待もされてないという感じに思いながら認めていきます。マジでそう思わないと執筆していけません(><)


以上、誰得なご報告でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] データの消失、なんと申し上げて良いものやら。 きっと、前よりも更に良くなります! 続きを楽しみにしています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ