第3話
昔から周りの同年代よりも体が小さかった僕は、女の子から異性として意識して貰った記憶が一度もない可愛そうな男だ。
学年が上がる頃には身長も伸びているだろうと、そんな期待をして過ごしていた小学生時代。年長の6年生となった僕の身長は140cmにも届いていなかった。
ある日、僕の家の隣に住んでいる幼馴染の椿が家に遊びに来た時に、つい不安になって相談というか悩みを打ち明けることにした。
「これからちゃんと背が大きくなって、女の子と付き合えるようになるのかなぁ」と僕が話すと「そんな未来の事なんて知らない。それよりも、女の子と付き合ったりしたいの?」と椿が言ってきたので、そりゃ僕だって男だよと抗議の意思を込めて「うん」と返事する。
少し間があって「別に恋愛に身長なんて関係ないんじゃない?」と椿が言うので、同い年なのに大人だなぁ、という感想を心の中で密かに抱いた。
そもそも椿は僕とは正反対で、今の御時世にこんな表現をするのは躊躇われるけど彼女はいろんなトコロの成長が早かった。スラッと伸びた身長に成長を前借りしたように強調された胸、顔つきも幼さよりも大人びた雰囲気の方が強かった。
そして何よりも、内面的な部分にそう思わせる思考だったり言動が多く見られた。常に落ち着いていてあまり無駄な事は言わないけど、それでいて周囲にもうまく溶け込んでいる。僕からしたら、器用な椿は別の世界の住人のように思えた。きっと、これから世の中で眩しく輝いていく人間というのは、椿のような存在なのだと。
中学生になってからも僕は相変わらずで、背が低いチンチクリンとして一部の女子からは可愛いだとか小動物みたいとか言われた。それはそれで役得のような気もしたけど、やはり男なら「カッコいい」「ステキ」「イケメン」という黄色い声援をかけられたいものだ。
そんな僕の理想像が同じクラスの同級生で存在していた。
小南 由樹
高身長で頭もよく明るい性格でおまけにスポーツ万能。そして何よりもイケメン!神様、由樹にステータス振りすぎでしょって嫉妬を通り越して呆れてしまうほどの完璧超人。そんな完璧超人と僕は不思議な縁で、学校内で一番一緒にいる親友が小南由樹だった。
由樹もまた、大人になったら幼馴染の椿と同様に眩しく輝く人間なんだと、別の世界の住人を見てるようだった。
それはそうと幼馴染の椿だが、中学生になった彼女は相変わらず僕とは違ってますます大人びていた。最早、中学生ながら「可愛い」ではなくてモデルのような「綺麗」「美しい」の類の容姿だった。当然、椿は周囲から憧れの存在となり、よく告白されたという噂話が後を絶えなかった。
そして、これも当然というか、僕との関係も自然になくなっていった。椿は華やかな学園生活を送るんだから、僕のような存在との関係はむしろ黒歴史なんじゃないか。ってか、由樹と椿が付き合ったら?と考えた事も一度や二度じゃない。
結論、幼馴染と仲良くできるのはアニメや漫画の御都合主義な設定の中だけであって、現実はただ疎遠になるだけ。朝に起こしに来たり、両親に結婚はいつだと誂われたりなんて、そんな夢物語あるわけがない。※イケメンの場合はわかりませんが
僕が由樹のような男前だったら、もしかしたら椿とも疎遠にならなかったのかも。タラレバなんてものは意味もないしそんな考えをする自分も嫌いだ。ついでにレバニラも嫌い。
勉学では、授業でついていけない箇所を由樹のわかりやすい指導で克服、その結果成績は悪くなかった。なので、高校の志望校は背伸びして由樹と同じ進学校を目指すことした。将来、少しでも良い大学に進学して大企業へ就職できたら、憧れる大人へ近づけるという幼稚な志望動機ではあったけど。
苦しい受験生活だったけど、無事晴れて合格する事ができた僕は、その後残り少ない中学生活を満喫して晴れて高校へと進学することとなった。
高校へ入学しても未だに体が小さく子供みたいな僕からしたら、先輩や同級生みんなが大人びて見えた。そして、驚いた事に、椿も同じ高校へ入学していた。何が驚いたって、高校生活が始まってからその事実に気づいた自分自身にだけども。
違うクラスなので、廊下ですれ違っても示し合わせたようにお互い他人のフリをした。結局、中学の頃の延長なだけなんだな、っと心の中で苦笑する。
それで、由樹のおかげも相まって新しい環境で友達もでき、楽しい毎日を送る事ができた。
そして今日、何時も通りの1日だと思いこんで油断していた僕に、藪から棒にとんでもない事件だ起こった。
あの皇棗様と婚約(仮)が成立してしまった。
校舎裏に呼び出されプロポーズ(仮)が成立した後、「こうしてはいられないわ」と、契約書(仮)とボイスレコーダーを入れたカバンを大事そうに抱えながら、校門の方向へと向かっていった。去り際に小さく「さよなら」と言いながら。
仕方なく自宅へ戻った僕は、数時間前まで起こった出来事が信じられなくて、夢の中にいてふわふわ体が浮いている錯覚に陥っていた。
「お兄ちゃん、何ぼーっとしてんの?」
自室に篭もる気になれずリビングのソファに座っている僕に、妹の比奈が肩を揺すってくる。心配しているというよりは、初めて見るおもちゃの扱い方を模索している程度の興味といった感じだ。
「おお、我が最愛の妹よ。いきなりなんだけど、もしお兄ちゃんが結婚するって言ったらどうする?」
へへへ、妹との時間は格別だなやっぱ。心が清められるというか、1日に一度は妹と触れ合っていないと頭がおかしくなりそうだ。
「は?どうする?って知らんし。勝手にすればいいじゃん」
僕に興味が失せた最愛の妹は、そのまま2Fに自室へ入っていった。うん、知ってた。妹ってこんなもん。まぁ、2つしか離れてない中学2年生だし、今は丁度難しい年頃なんだねきっと。なぜか頬から一筋の天の川が流れてるけどなんですかねこれ。
ぐすん、妹に邪険に扱われたし今日の事もあって疲れた。早いけどもう寝よう。こうして僕は、夢なら覚めて欲しいと思いながら夢を見るのだった。




