第28話
26話からの続きです
(獅子山ってあの背の小さい人でしょ?)
(イケメンとヤクザといつも一緒にいる小さい奴?)
(なんで皇さんと仲が良いの?)
(実は2人が一緒にいるところ見たことあるんだ~)
僕と皇さんの噂は、1日で学校中へ滲むように広がった。まるで隙間を埋めながら乾いた土を流れる大量の水みたいな速さと浸透性だ。
噂をされている当人の1人である皇さんは、相変わらず「ちょっとした騒ぎね」と、今の状況を楽しんでいた。あるいは、何かが吹っ切れたような印象を受ける。
「どうして・・どうしてこんな事に・・」
登校して席に座りながら嘆く僕の耳元へ、皇さんが顔を近づけて囁く。
「獅子山くんが私にプロポーズをしたのがきっかけでしょうね」
「近い!棗さん近いですよ、更に変な噂が立っちゃいますって」
「それは困ったわね」
「全然困ってそうじゃないですけど」
クラスメイトはこちらを見てないように装って、その実会話を聞き漏らすまいとしっかりと聞き耳を立てているのがバシバシを伝わってきた。
居心地が悪い・・・。こっそりとため息を吐いていると、椿が教室に入ってきた。友達と挨拶を交わしながら僕の隣の席へと近づいてくる。
昨日、皇さんとの一件があったばかりで椿とどう接したら良いのかわからない僕は、緊張と困惑の中にいた。
椿は席に着くと「おはよう、トラ」といつもと変わりなく挨拶をしてきた。拍子抜けしてしまい、「あ、あぁ」と中途半端な返事になってしまう。
驚いた事に、今度は皇さんに顔を向けて一言。
「おはよう、皇さん」
「・・・おはよう、柊さん」
皇さんもまさか自分も挨拶をされるとは思ってなかったのか、若干の間があった。
空気が張り詰め、2人の空間だけが氷漬けにされたかのように冷たい。ただ、2人が会話をする絵はとっても良いと思いました。授業中の皇さんはとても静かで、その時間だけが僕にとっての平和そのものだった。
お昼も昨日に引き続き皇さんに声をかけられ、一緒に来賓室で弁当を食べる。
「今日はどんなおかずなのかしら」
「こんな感じです」
「昨日とほぼ変わりないじゃない・・・」
「今日はほうれん草が入ってます」
「それが変わりないって言うのよ」
「そうですか?」
「身長を伸ばす為の栄養だけに特化したメニュー弁当(昨日命名)」のおかずを見ながら、僕をからかう皇さんの柔らかさは、昨日椿と対峙した冷酷な人物と同一とは到底思えなかった。
皇さんは、なぜか僕以外の生徒とは関係を隔離している。まだ転籍して二日目だけど、他の誰かと仲良くしようという意思は感じられない。
まさしく孤高な存在だけど、本当にこの学校を卒業するまで孤高のままであり続けるのかな。
聞きたいけど聞けない。咀嚼している食べ物と一緒に、この気持も一緒に飲み込んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
本日は午後から体育の授業があり、男子はグラウンド、女子は体育館に分かれてそれぞれ授業を行うようだった。
さすがの皇さんも大人しく女子生徒側に分かれて、今は体育館で何かしらの球技に汗を流しているはずだ。
そして、僕も暖かな陽射しの下で新しいクラスメイトと親睦を深めながら仲良くサッカーに汗を流して楽しい時間を・・・・過ごす筈なんだけど。
「獅子山、説明してもらおうか」
「何を申し上げたらよろしいのでしょうか」
グラウンドの真ん中で殺気を含んだ男子生徒達に囲まれながら僕は正座をしていた。状況はまさに敵ディフェンスに挟まれたフォワードだ。抜け出す穴が見つからないし、そんな器用なドリブル技術なんて持っていない。
捕まった捕虜さながらの低姿勢で、なるべく御方を刺激しないよう細心の注意を払う。無事、生きて解放して頂くかどうかは僕の言動、態度にかかっている。
今まであまり話をした事がない長谷川君がまずは尋問を開始した。
「そうだな、取り敢えず皇さんについて話してもらおうか・・・できるよな?」
「はい・・・しかし、事実の全てをお伝えできるかのお約束ができない旨、予めご承知おき下さいませ」
「・・・いいだろう」
「痛み入ります」
言っておくけど、これはあくまで平凡な高校生とそのクラスメイトとの楽しくほのぼのとした平和な日常の一コマである。
「単刀直入に聞く。貴様と皇さんとの関係は何だ?」
「恐れ入りますが、私にもわかりかねる次第でございます」
「なんだと?」
長谷川君はどこからか持ってきた鞭をしならせ、風を鋭く切りながら地面に叩きつける。砂煙が舞いバチンと暴力的な音が鼓膜を振動させて僕の身体が震え上がる。
「こ、今年の2月頃に声をかけられました。それから、僅かな時間ながら共に帰宅をする間柄程度でございます」
嘘です。テンパってプロポーズをしたらOKを貰えた上にきちんとボイスレコーダで一部始終を録音されていました。婚約誓約書にも血印を押して皇さんに保管されてます。そんな間柄です。
「なぜ貴様なんだ?」
「わかりかねます。私も先方へ直接理由を伺った事はございませんので」
「では、何でだと思う?貴様自身の見解を言ってみろ」
「・・・・机上の空論で恐縮ではございますが、私があまり害のない人間だから・・でしょうか」
「害のない?」
「はい。ご覧の通り私は矮躯であり、それでいて小心者でございます。よって、隣に置いても無害と判断されたかと存じます」
咄嗟に言ったにしては、僕の中では割と核心をついているんじゃないかなと思った。
「確かに一理ある。だが、納得のいく理由でもない」
「そう申されましても・・」
「ハッキリさせておくが、貴様と皇さんとはお付き合いをする間柄ではないんだな?」
「滅相もございません」婚約(仮)はしておりますが。
念の為もう一度。これはあくまで平凡な高校生とそのクラスメイトとの楽しくほのぼのとした平和な日常の一コマである。
「・・・相手があの皇さんだからな、あまりこちらもヘタは打てない。命拾いをしたな」
「有難き幸せです」
ようやく場が収束したと思った矢先、今度は「次は俺の番だ」と佐久間君が前に出てきた。
え、まだやるの?ってか、僕も含めてだけど皆が役に入りすぎて怖いんだけど。
「俺からは柊さんについてお前に聞きたい」
「・・・・はい」
まだ終わらないんですか・・・・それに、「待ってました」と言わんばかりに関口君が前に出てきた。その手にはトンファーが握られている。
・・・・・・・長谷川君も鞭を持ってたし、どうやって入手しているの?もしかしたら探せば体育倉庫にあるのかな?
「柊さんと随分親しげなようだが、聞くところによると幼馴染だそうだな?」
「左様でございます」
「まさかとか思うが、お互いの家に行き来してないだろうな。『夕飯作り過ぎたので食べて下さい』なんて黄色い鍋を持ちながら」
非常に惜しい!!黄色い鍋じゃないく赤い鍋でした~残念!要はほぼ正解です。
いやいや、随分と的確な質問内容で焦る。え、もしかして佐久間君僕たちの事知ってる?
しかし、こんなに沢山の尋問をされると、答えるだけで神経がすり減ってくる。
満杯になったグラスから水が溢れるように僕の精神も限界に達してきたので、心の中で無理キュアに助けを呼ぼうとした時だった。
「お前たち、その辺にしてやってくれ」
「そうそう、穏便にいこうよ」
外野から見ていたらしい柿沼と由樹が救いの手を差し伸べてくれた。今の2人はヒロインを守る勇者に見える。そうなるとヒロインが僕になっちゃう。
佐久間君は柿沼の威圧感にたじろぎながらも「いや、でも!」と何かを言いたげにしていた。
でも、上から抑え込むように再度「その辺にしてやってくれ」と柿沼に言われれば、そこでもう終わりだ。
仕方ねーな、と言わんばかりの態度で皆んなが散り散りになる。そして、何事もなかったようにサッカーが開始された。
僕はすぐに2人のもとへ駆け寄った。
「ありがとう、助かったよ」
「気にすんな。でもよ、今回はクラスの連中だからこの程度の冗談で済んだが、これ以上目立てば今後は他のクラス、もしかしたら上級生にだって目を付けられるかもしれんぞ」
「う、うん」柿沼の説得力に押される。その後に由樹も続く。
「そうしたら、今のように助けられない事もあるかもしれない。くれぐれも気をつけるんだぞトラ」
「わかった。そうならないよう工夫してみる」
今日もだ。
今日みたいに、僕はいつも助けられてばかりだ。この高校に入学できたのも由樹が勉強に付き合ってくれたおかげだし、僕みたいなチッポケな生徒が不自由なく高校生活を送れるのも、柿沼が傍で見守ってくれているおかげだ。
今日の事を肝に銘じながら、では僕に出来ることはないかと考えさせられた。
先週からガッツリと風邪を引いておりました・・・・。
まだ本調子ではないですが、やっと執筆ができるまで頭の調子が戻ってきました。
朝と夜、日によって寒暖差が激しい今の時期ですが、皆さんは私のようにならずに体調管理をしっかり行って下さい。・゜・(ノД`)・゜・。
ちなみに私は、常にマスクをして手洗いとアルコール消毒、カバのうがい薬でうがいもちゃんとしてました。
結論:どんなに気をつけていたって、結局風邪は引く




