18話　予想外のバズり

天気予報サイト「かんたん天気チェッカー」が、とりあえず形になった。

トップページには、澪が描いてくれた可愛い天気マークたちが並んでいて、その下に「今日の傘指数：30％（まあいらないかも）」みたいなコメントも入る。

シンプルだけど、見やすい。

俺が目指してた、“ちょっと役立つサイト”がちゃんと出来上がった。

　

「……ふふっ、いいじゃんいいじゃん」

パソコンの画面を見ながら、思わずにやける。

澪のおかげもあるけど、ここまで順調に作れた自分を、少しだけ褒めたくなった。

　

「さて……」

ひと段落ついたので、久しぶりにレシピサイトの方もチェックしてみることにした。

たまにはアクセス数とか見て、どれくらい人が来てるか確認しとかないとな。

　

ブラウザのタブを切り替え、レシピサイトの管理ページにログイン。

　

「……ん？」

　

最初に目に飛び込んできたのは、アクセス数のグラフだった。

昨日まで、だいたい1日300～600アクセスくらいだったのに――

今日だけで、3000アクセスを超えていた。

　

「はっ！？」

思わず声が出た。

椅子ごとガタッと後ろにのけぞる。

「え、え、なにこれ、バグ！？」

何度も目をこすったけど、表示は変わらない。

間違いなく、アクセスが爆発的に増えている。

　

「……ちょ、待て待て、何が起きた」

　

慌てて、アクセス解析ページを開く。

ページ別アクセスランキングを見ると、一番上に載っていたのは――

　

【炊飯器で作るチーズケーキ】

　

「……炊飯器、チーズケーキ……？」

　

一瞬、頭が追いつかなかった。

（そんなレシピ、あったっけ……？）

いや、確かに書いた覚えはある。

冷蔵庫に余ったチーズと、生クリームと、卵と砂糖で作れる簡単なチーズケーキ。

しかも炊飯器一つでできる、っていうズボラ向けレシピだった。

　

（まさか、あれが……？）

改めてこのレシピ見ると、めちゃくちゃハードルが低い。

オーブンとか使わないし、泡立ても必要ないし、材料も少ない。

そりゃあ、忙しい主婦とか、料理苦手な人とか、誰でも「作ってみようかな」って思うかもしれない。

　

やっぱ本格的なレシピより、簡単なレシピの方が伸びるんだな。

（……でも、なんで今になって急に？）

　

不思議に思いながら、さらに調べていくと、どうやら誰かが個人ブログで「作ってみた！」って記事を書いて、そこから拡散したらしい。

記事のリンクを開くと、実際に作ったチーズケーキの写真と一緒に、「めっちゃ簡単だった！」「初心者でも成功する！」みたいなコメントが並んでいた。

　

「……マジか」

　

じわじわと実感が湧いてくる。

　

オレが、半分ノリで作ったあのレシピが――

ちゃんと誰かの役に立って、しかも、褒められて、広まってる。

　

「……すげぇ……」

　

椅子に座り直して、モニターをじっと見つめる。

最初は、ただの小遣い稼ぎのつもりだった。

でも、こうやって誰かが実際に作って、喜んでくれて。「ありがとう」って思ってくれる人がいる。

　

炊飯器チーズケーキがバズったことに興奮しながらも、ふと思い出した。

（そうだ、翻訳サイトの方もチェックしとかなきゃ）

あっちは基本、自動化してあるから、俺が手を動かす必要はほぼない。

けど、依頼が入ったら自動で翻訳して返信する設定にしてあるし、

報酬も発生しているはずだった。

　

ちょっと期待しながら、翻訳サイトの管理画面にログイン。

すると――

　

「……あれ？」

　

そこに表示された数字を見て、俺は目を疑った。

　

報酬金額：10,280円

（※５月1日〜今日まで）

　

「う、うそだろ……？」

　

慌てて内訳を見る。

英語→日本語の翻訳依頼が、すでに6件以上。

短いメール文みたいな依頼から、ビジネス文章っぽいガチの翻訳まで、内容はさまざまだった。

でも、すべての案件が自動で処理されて、きっちり返信されて、きっちりお金になっている。

　

「……すげぇ……」

　

思わず、机に突っ伏した。

　

２週間弱で、1万円以上。

中学生の俺にとっては、信じられないような金額だ。

普通に考えたら、コンビニで1日8時間以上バイトして、やっと稼げるくらいのお金。

　

それが、パソコンの中で、ほぼ自動で稼がれてる。

（これが、未来の力……！）

　

もちろん、今すぐ使えるわけじゃない。

収入が確定するのは、来月になってからだ。

そこから振り込み申請をして、口座にお金が入るまで、さらに数日かかる。

　

でも、（もう確定してる収入がある）ってだけで、胸が高鳴った。

　

「来月、何買おうかな……」

　

思わず、にやける。

　

まずは――

パソコン周りの機材、欲しいかも。

安いワイヤレスマウスとか、もうちょっと打ちやすいキーボードとか。

あと、ちょっといい感じのパソコンデスクとか。

　

（……1万円って、昔の俺なら、昼メシと缶コーヒー数本で消えてた額だ）

でも今は――違う。

この年齢で、自分で稼いだお金。

これはもう、ただの小遣いなんかじゃない。

“未来を切り拓くための、最初の資金”だ。

俺はパソコンの画面を見つめながら、次に必要なものを冷静にリストアップしていく。

「有料サーバー代……独自ドメイン代……それと、周辺機器の更新」

投資すべきものは山ほどある。 無駄遣いはしたくない。

けれど、もし少しだけ余裕ができたら――

（……澪との約束のマック、楽しみだな）

そんなふうに、自然と頬が緩んだ。

堅実に、真面目に生きるだけじゃ得られないものがある。

たったワンコインのチーズバーガーでも、たった数百円のプリクラでも、それが誰かと笑いあう時間に変わるなら、惜しくなんてない。

「やっぱナゲット食べたいな」

俺は思わず、声に出して呟いた。

マックで頼むメニューの話だ。

それに加えて、チーズバーガーセットか、マックチキンのコンボか――

考えるだけで、なんだか胸が弾む。

ただのファストフード。 ただの、数百円。

それでも、澪と笑いながら食べるあの光景を想像しただけで、わくわくして、しょうがなかった。

　

だって、中学生の頃の自分は――

お小遣いを月500円ずつためて、駄菓子屋でお菓子を買うのが楽しみだった。

そんな俺が、自分でサイトを作って、自分で稼いだお金を使おうとしてる。

　

（……なんか、ちゃんと“未来”に近づいてる気がする）

　

別に、大人になったわけじゃない。

今はまだまだ子どもだし、

でも――

　

パソコンの中で、サイトの中で、俺だけの小さな「仕事」が動いている。誰にも頼らずに。誰にも怒られずに。

　

それが、たまらなく嬉しかった。

　

　

ふと、視線を上げる。

パソコンのモニターには、炊飯器チーズケーキのレシピページと、かんたん天気チェッカーのトップページ。

どちらも、昨日の俺が作った、小さな未来だ。

　

（よし、来月の収入が入ったら――）

これからどんどん儲かるかもしれない。

いやー何に使うか迷うな。

マック、ゲーム、マンガ、パソコン機材……

ここは両親におごったりもしようかな。

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【現在の収益】 （5月13日時点）

【５月の収益まとめ】

レシピサイト：930円

翻訳サイト：9350円

天気サイト：0円

合計（月収）：10,280円

【総収益】

レシピサイト：1,780円

翻訳サイト：10,200円

天気サイト：0円

合計：19,550円