表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/144

16話 天気マーク

次の日、学校から帰ってきた俺は、

鞄もそこそこにパソコンの電源を入れた。

もう完全に、気分は「天気予報サイト制作モード」だ。

 

「さて……どんなサイトにするかだな」

 

昨日、考えたざっくりしたプランを思い出しながら、メモ帳に箇条書きしていく。


【かんたん天気チェッカー(仮)構想】

・トップページに今日の天気を表示

・雨が降る確率をざっくり示す

・必要なら「傘持ってけ」みたいなアドバイスも出す

・できるだけシンプルで、誰でも見やすいデザイン


「うん、シンプルイズベストってやつだな」

 

ページのレイアウトもなんとなくイメージできてきた。

問題は――


天気マークだ。


晴れ、くもり、雨……最低でもこの3種類は必要。


テキストで「晴れ」とか書くだけでもいいっちゃいいけど、

やっぱりアイコンがあった方が、直感的でわかりやすい。

 

「よーし、描くか、ドット絵!」

 

俺は意気込んで、ペイントソフトを開いた。

中学生のくせにドット絵を描くとか、なかなか渋い趣味だと思うけど、ここは未来のためだ。手を抜くわけにはいかない。

 

まずは「晴れマーク」。

ペイントソフトで、16×16ピクセルのキャンバスを開く。


チマチマと黄色で丸を描き、その周りにオレンジの線を放射状にピッピッと伸ばす。

 

完成。


「えっ、なにこれ……」 


……なんか、思ってたよりダサい。

 

自分で見ても、びっくりするくらい微妙だった。

確かに太陽っぽい。

ぽいんだけど、なんというか……「小学生の自由帳」感がすごい。

 

続いて「くもりマーク」も描いてみる。

灰色でふにゃっとした丸を三つ並べる。

もこもこ、って感じを出したかった。

 

完成。

 

「……アザラシの親子?」


もはや雲には見えない。

どちらかというと、アザラシが寄り添って昼寝してるようにしか見えない。

 

最後に「雨マーク」。

青い線を斜めにシャッシャッと引いて、雲の下に並べる。

 

完成。

 

「……」


いや、これ、シャワーの絵じゃん。

雨粒のつもりが、完全にシャワーヘッドから水出してる図になってる。

 

机に突っ伏したくなる。

「……センスなさすぎるだろ、俺」

 

ドット絵って意外と難しい。

16×16ピクセルなんて小さすぎて、ちょっと線がズレるだけで別物になる。


しかも色数も限られてるから、ふんわり感とか立体感とか出そうとすると、余計ヘタクソ感が際立つ。

 

(プロの人たち、どうやって描いてんだよ……)

 

一応、参考までにネットで「天気マーク」とか調べてみた。

出てくる出てくる、超ハイクオリティなやつが。


めちゃくちゃ可愛いアイコンが並んでるのを見て、思わずため息が漏れた。


「こんなの……俺に作れるわけないじゃん」

 

でも、ここで諦めたら未来がない。

シンプルでいい。

下手でもいい。

自分が作ったってことが、大事なんだ。

 

「……とりあえず、今のやつで仮採用にするか」


 

ヘタクソな太陽と、アザラシと、シャワー。

とりあえずこの三つを「仮アイコン」として、サイトに組み込むことにした。


……うん、まあ、最低限の役割は果たしてくれる。

けど、正直言って――ダサい。


見た目のしょぼさが、サイト全体の空気まで安っぽくしてしまってる気がした。

こんなサイトを、誰かが「いいな」って思ってくれるんだろうか。

見た瞬間に笑われたり、「素人くさっ」って思われたりしないか。

そう考えると、どうしてもこのままで公開する勇気は出なかった。


(……せめて、もうちょっとマシな見た目にしたい)


自分で描くにしても、限界はある。

今日だって、3つ描いただけで1時間以上かかったうえにこのクオリティだ。

いくら努力しても、たぶん「プロっぽさ」には届かない。


でも、ネットのフリー素材は使えない。商用利用はNGだし、著作権も面倒だ。


(だったら――誰かに頼むしかない)


ふと思い出したのは、春休みに澪と勉強していたときのこと。

あのとき、ノートの端にちょこんと描いてあった猫の落書き。


すごく可愛くて、線が優しくて、見ていてほんわかする絵だった。

キャラクターを描いてるって感じじゃなくて、自然体で、見た人がふっと笑えるような、そんな雰囲気の絵だった。


(澪なら、いけるかも……)


ドット絵の経験がなくても、きっとすぐに感覚をつかむだろう。

たとえ慣れてなくても、澪が描いたってだけで、俺にとっては十分に価値がある。

むしろ、完璧じゃなくてもいい。


“人の温もりがある”っていうだけで、サイト全体の空気は変わる気がした。


(……お願いしてみよう)

(可愛いアイコンで、ちゃんとしたサイトにしたい)

(頼んだら、やってくれるかな……?)


だって、晴れマークとか、曇りマークとか、そんなに大層なイラストじゃない。 ちょっとしたアイコンだ。 可愛い系にしてもらえたら、サイトの雰囲気も明るくなる。

なにより――澪に何か手伝ってもらえたら、それだけで嬉しい。


 

「よっしゃ、もう一踏ん張り!」

 

汗ばむ手のひらをズボンで拭いながら、

俺はキーボードを叩き始めた。

よし、明日には、澪にお願いしてみよう。



 * * *


次の日。

学校の帰り道、

俺はずっとタイミングをうかがっていた。

どう切り出すか、何回もシミュレーションした。


(いや、別に悪いお願いするわけじゃないんだけどな……)


なんとなく、ちょっとだけ緊張する。

 

「ねぇ、恭一」


先に声をかけてきたのは、澪だった。


「今日ずっと考えごとしてたみたいだけど、何考えてんの?」

 

「うわ、バレた」


「バレバレだよ。顔に“なんかたくらんでます”って書いてある」

 

苦笑しながら、俺は意を決して口を開いた。

 

「なあ、澪って……美術、得意だよな?」


唐突な切り出しに、澪はちょっとだけ首を傾げた。


「ん? まあね? 小学校のとき、絵のコンクールで入賞したことあるよ」


それを聞いて、俺は「やっぱりか」と、心の中でガッツポーズを決めた。


「え、なになに? なんか企んでる?」


澪は眉を上げながら、興味津々といった顔をする。 その目がキラキラしているのは、面白そうな匂いを察知したからだろう。


俺は少しだけ歩くスピードを落とし、正面に回り込むようにして、澪と向き合った。


少しだけ歩くスピードを落としながら、

俺は正面から切り出した。

 

「……実は、サイト作っててさ」

「サイト?」


「うん。新しく作ったんだ。今度は“天気予報”のサイト」


「――天気予報!?」


案の定、澪は素っ頓狂な声を上げた。

思わず立ち止まり、目をまんまるにして俺を凝視する。


「え、待って、恭一、もしかして……天気予報士にでもなるの!?」


両手で「天気予報士ポーズ」みたいに、空を指さしてみせる澪。 なにそのジェスチャー。可愛いけど。


「いや、そうじゃなくて!」


俺は慌てて手をぶんぶん振った。


「天気を当てるとか、そんな本格的なやつじゃないんだよ。 もっとこう……ざっくり、“今日の天気こんな感じだよ~”みたいな軽いやつ」


「……ふむふむ?」


澪は顎に指を当てて、探偵みたいな顔をした。 そのまま「説明しろ説明しろ」と目で圧をかけてくる。

しょうがないので、俺は続けた。


「でも、サイトに載せるには、文章だけじゃ味気ないだろ? やっぱ、天気マークとか、アイコンがあった方がそれっぽくなるなーって思って」


「ふむふむ?」


澪は、ちょっと呆れたような、でもどこか嬉しそうな顔をした。


「また面白いこと考えるよね、恭一って」


「だろ?」


少し得意げに言うと、澪はくすっと笑った。

 

軽く首を傾げながら、興味深そうに俺を見つめる。

その仕草が、どこか小動物みたいで、ちょっとだけ心臓が跳ねた。

俺は気持ちを引き締めて、真正面から言った。


「天気マーク、描いてほしいんだ」


「天気マーク?」


澪は、もう一度首を傾げた。さっきよりも深く、こんがらがった糸を解こうとするみたいに。


「うん。晴れとか、くもりとか、雨とか……そういうアイコンを、ちっちゃいドット絵みたいな感じで作ってほしい」


説明しながら、俺は手で適当に丸を描くジェスチャーをしてみせた。


「ドット絵って……あれでしょ? マス目みたいなやつで描くやつ?」


「そうそう、16ピクセルとかでちまちま描くやつ」


「ふーん、やったことないけど……面白そうじゃん!」


澪はぱっと表情を明るくして、にこっと笑った。


「やるやる! 晴れとか曇りとかでしょ? 簡単だし、楽しそう!」


「マジで!?」


 

あっさり承諾してくれたことに、正直ちょっと拍子抜けした。


よし、これで天気予報サイトが作れそう。

※この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・技術・事件などはすべて架空であり、現実とは関係ありません。

作中で描かれるAI技術や社会情勢は、物語上の演出を含んでいます。

現実の技術仕様や法制度とは異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。

エンターテイメント作品として、肩の力を抜いてお楽しみいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
小学生とかが描く夏休みの日記みたいなアイコンは味があって良いと思う
お金が絡むと、原稿料の事を考えなければいけないよね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ