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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
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26-2

26-2


桜下たちが、静かに自身の本音を語り合っていたころ……

フランは仲間たちに一声かけてから、一人闇の中へと歩き出していた。ほこりの厚く積もった床を踏みしめ、がれきをまたぐ。この吹き溜まりと呼ばれる空間は、存在理由が不明なくせに、無駄な広さがある。行く手は限りなく暗いが、夜行性の動物並みに夜目の利くフランは、明かりがなくても問題なく進むことができた。そうやって一人でふらついているのは、単に散歩がしたかったからではない。彼女も、一人で考えたいことがあったからだ。


(わたしに、何ができるんだろ)


フランは左手で、肩から先がなくなった右腕を押さえた。桜下の前では気丈なことを言ったが、その実、自分自身のこともよく分かっている。つまり、今のままでは、ろくに戦えないということも。


(それでも。なんでもいい、少しでも、あの人の力になりたい)


魔王も、人類の発展も、戦争の行く末さえ、フランには二の次だった。一番は、自分の恋人を守り抜くことだ。彼を失うことが、何よりも恐ろしい。その為の力が今の自分に無いことが、耐えがたく苦しい。


(あの時、もっと慎重になっておけば……なんて、いまさら過ぎるか)


不意を突かれ、冷静さを完全に欠いていた。その代償は、あまりにも痛い。


(戦いたい。力が欲しい。あの人を守るための力を)


フランはこれまでずっと、それを求め続けてきた。よりにもよって、今までで一番大事な場面で、それがないだなんて……だが。だからといって、ありませんでした残念です、では済ませられない。ないならないなりに足掻くつもりだ。桜下が目覚めるまでのわずかな間に、フランはその方法を模索しようとしていた。

そんな矢先のことだった。


(―――フランセス)


声が聞こえた。びくりとフランは身をすくめて、すぐに警戒態勢に入った。闇の先を見つめる。


「……誰。どうしてわたしを知っているの」


フランは油断なく訊ねる。姿は見えない。だが、透明になれるのかもしれない。姿を変えられるのかもしれない。敵が自分の想像通りの姿で現れるとは限らないと、フランはこの戦争を通じて学んでいた。


(―――フランセス。あんたは、力が欲しいのかい?)


フランは眉根を寄せた。どうしてそのことを?それに、自分のことを“フラン”ではなく、フランセスと呼ぶなんて。……その名前は、親しい間柄にしか呼ばれたことがない。敵にしては奇妙だが。


「……私の質問に、答えて。あなた、誰なの」


(―――あたしだよ。忘れちゃったかい、フランセスや)


いったい、なんのこと……そう訊ねようとした瞬間。その声に聞き覚えがあることに気が付き、フランの全身に鳥肌が立った。


「……おばあちゃん……なの?」


一瞬我を忘れそうになったフランだったが、すぐに思い直した。これは、“そういう敵”かもしれないのだ。闇の魔力は、魂にすら干渉するという。フランの記憶から、何を読み取ったとしても不思議はない。


「……もし、おばあちゃんだって言うなら。姿を、見せて」


(―――いいよ。でも、驚くんじゃないよ)


わざわざ忠告までされたので、フランは十分身構えることができた。なので、目の前が突然青白く燃え上がり、その炎の中から老婆が現れても、叫び声を上げずに済んだ。


「っ……」


(これ、驚くなって言ったじゃないか。出てこいって言ったのはあんただろう?)


老婆は……フランの祖母は、からかうような笑みを浮かべた。その姿は透き通っていたが、記憶の中の祖母そのものだった。


「ほん、もの……?」


(うん?本物なもんか。あたしは死んだんだよ。この声だって、あんたにしか聞こえていないはずさ。いわば、あんたが見ている夢、みたいなもんかね)


フランは、自分を慎重で疑り深い性格だと自負していたが、さすがにこの時ばかりは、酷く狼狽えてしまった。


「夢……わたしにしか、見えてない?」


(そうさ。これは夢。けど、あんたにとっては、本物かもしれない。決めるのはあんたしだいさ)


この、皮肉めいた言い回し……もう限界だった。目に涙があふれるのをこらえきれない。


「おばあちゃん……会いたいって、ずっと思ってた」


フランの頬を、透明な涙が伝う。それを見た老婆は、気まずそうに微笑んだ。


(ごめんね、フランセス……結局あたしは、死ぬまでお前に向き合うことができなかった)


「ううん。いいの。こうしてきてくれたんだから」


(ありがとうよ……だけど、ダメだね。一度別れを告げたはずなのに、こうしてまた、あんたんとこに来ちまった)


「わたしに会いに……?」


(そう。神様が一度だけ、そのチャンスを下さったのさ。あたしみたいなろくでなしに、罪滅ぼしの機会をね)


フランには祖母が言っている意味が分からなかったが、ふと脳裏に、以前見た光景がよみがえった。仲間のエラゼムの下に、彼の城主が姿を現した時だ。


「ずっと……見ててくれたの?」


(もちろん。あんたのことも……あの、下衆野郎のこともね)


老婆は吐き捨てるように言うと、フランを見つめる。


(フランセスや。あんたはさっき、戦う力が欲しいと言ったね?)


「うん……けど、この腕は治らないの」


(それなんだがね。奇妙に聞こえるかもしれないけど、あたしはその“答え”を知ってるんさ。つまり、どうやったら、あんたの願いが叶うのかをね)


フランは目を見開くと、ぐっと身を乗り出した。


「教えて、おばあちゃん!わたし……あの人を、守りたい!」


(……引き換えに、失うものがあってもかい?)


フランはぐっと言葉に詰まった。


「どういう……ことなの?」


(……はっきり言うよ。この方法を使えば、あんたはあの屑をぶちのめすことできるだろう。だけど、あんたもただじゃ済まない。……あんたの大事な、あの男の子を諦めることになるんだよ)


フランの背筋がぞくりと震えた。


「それって……わたしも、消えちゃうってこと?」


(いいや。お前が消えちまったたら、戦うこともできないはずだろ。フランセス、お前は最後まで立っていられるはずさ。だが代償に、あの子の側には居られなくなるかもしれない。……あたしが持ってきたのは、そういう方法さ)


フランの目の前が真っ暗になる。桜下を、失う?もしそうなら、もう顔を見ることも、話すことすら、二度とできなくなるのだろうか……それは、ただ死ぬよりも辛い事のような気がした。


「……」


だが、それでも。それよりも、もっと辛いことがある。フランの決断は早かった。


「……教えて、おばあちゃん。その方法」


(フランセス……本当に、いいのかい?)


「わたしは……」


フランは目を閉じる。これまでのことを思い出し、これからのことを思い描く。


「わたしは、あの人に、たくさんのものをもらった。幸せにしてもらった。だから、今度はわたしが、あの人を幸せにする番だ」


フランの顔を見て……あまりにも穏やかで、あまりにも固い決意に満ちた顔を見て、老婆は涙をこぼした。


(フランセス……こんな方法しか教えてやれないなんて。あたしはいつまでも、あんたを不幸にしちまう。いっそあたしは来ないほうがよかったのかもしれないね)


「ううん、そんなことないよ。方法があるって知ってたら、わたし、迷わなかっただろうから」


(そうかい……あんたは強い子だね。あんたのような孫を持てて、誇りに思うよ)


フランはにこりとほほ笑んだ。老婆は涙をぬぐうと、真剣な顔でフランを見つめる。


(いいかい、フランセス。あの炎に対抗する鍵は、すぐそばにあるんだ。光が差せば影ができるように、問題の先には必ず答えが用意されているもんさ。あの炎を最初にお前に教えてくれた人に、話を聞いてみな)


フランは目を丸くした。


「それって……」


(もう分ったろう。さあ……そろそろお行き。もう時間がないよ)


その瞬間。祖母の姿が徐々に薄らいでいることに、フランは気付いた。


「おばあちゃん!そんな……あっ。ありがとう!」


(礼なんてよしな。あたしは結局、あんたを不幸に導いたのかもしれない……)


老婆は一瞬瞳を伏せると、弱弱しく付け加えた。


(でも、どうしても……)


老婆の姿は、いよいよ薄くなっていく。フランが思わず手を伸ばそうとすると、彼女はため息を吐くようにつぶやいた。


(愛しているよ、フランセス……)


現れた時と同じように、ぱっと老婆の姿は消えてしまった。フランは手を中途半端に伸ばした格好のまま、しばらく固まっていた。


「……わたしもだよ、おばあちゃん」


フランはだらりと腕を下げると、うつむいた。ポタポタと、しずくが足下に染みを作る。フランはガントレットのはまった腕でごしごし目元をこすると、キッと顔を上げた。そして急ぎ足で、仲間の下へ……“答え”を知っている者の下へと、戻っていった。



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


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