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「隠しアイテムって……お前、真面目に言ってるのか?」
俺が訊ねると、サードは大まじめにうなずいた。
「もちろんだ。そのアイテムは、鏡だよ。名前は、ミラー・オブ・ラーと言って」
ミラー・オブ・ラー?直訳すると、ラーの……
もう、限界だ!
「クラーク、いいぞ」
「なにが?」
「一発、どついてやれ」
「よしきた」
「ま、待ってくれ!本当なんだってば!」
拳をぐっと引いたクラークに、サードは大慌てで首を振った。縛られているから、両腕が使えない代わりだろう。だが今度ばかりは、俺もクラークを止める気になれなかった。
「鏡が弱点?それはどちらかと言うと、ヴァンパイアのそれじゃなかったか」
俺が脱力しながら言うと、アルルカがキッと睨んだ。
「はあ?高貴なる不死の王が、鏡ごとき恐れるわけないでしょ」
「へえ、そうなのか」
「あったりまえじゃない。あたしほどの美貌の持ち主が、どうして鏡を恐れるのよ」
「美貌ねぇ……」
「あによ!文句あるならちゃんと言いなさいよ!」
「えぇーい、君たち!うるさいぞ!」
クラークに注意されてしまったが、正直、これで真面目を保ち続けろってのが無理な話だ。
「クラークよお、まさか、こんな与太話を本気にしてるわけじゃないだろうな?」
「ああ、そうだとも!だけど、そんなくだらないことで僕らをからかおうとする、その性根が気に食わないんだ!」
やれやれ、付き合っていられないな。するとその時、ウィルが控えめに、俺の腕を突いてきた。
「あの、桜下さん?」
「うん、なんだ?ていうか、お前も呆れただろ」
「いえ、確かに都合がよすぎるとは思いますが……ただ、どうしてそんなに突っぱねるのかなって」
「え?」
「だって、まだ分からないじゃないですか。本当に、そのラーだかミラーだかって言うのがあるかもでしょう」
え、本気で言っているのか?……ああ、そうか。ウィルは、この鏡の元ネタを知らないんだ。そしてそれに気づいていないのは、もう一人いた。
「ねえ、桜下くん。クラーク君も。そんなに怒らずに、もうちょっと話を聞いてあげたら?」
尊は、急に態度を変えた俺たちに戸惑っているようだ。ああそういや、尊もゲームとかあんまりやらないタイプだったっけ。
「えっとな、尊。俺たちが怒ってるのは、コイツの話が、あまりにも胡散臭いからないんだ」
「胡散臭い?」
「そう。こいつが言ってる鏡とまるっきり同じものが、俺たちの世界にもあるんだよ」
「えっ、うそ」
「もちろん、現実の話じゃないぞ。昔のゲームの中に、そういうアイテムがあるんだよ」
「あ、なんだ、ゲームかぁ。なるほど、それで二人ともありえないって怒ってたんだ」
「そういうことだ」
尊への説明を聞いていたウィルや、エドガーたちといったこちらの世界の人々も、ようやく納得できたらしい。アドリアがなんどかうなずくと、怒りが収まらないクラークに話しかける。
「つまり、こういうことか。お前たちの世界にある物品と、この男が主張している物が同じ名前だと。お前たちは、こいつがもと居た世界の知識を利用して、適当な話をでっち上げたと考えているわけだ」
「その通りさ!そうすればもっともらしい嘘になるとでも思ったのかもしれないが、とんだ大間違いだ」
「なるほどな。だが、同じ名前だというだけで、嘘だと決めつけられるものか?」
「いいや、ありえないよ。どうしてそんな都合のいいアイテムが、都合よく魔王の城にあるというんだい?」
「確かに、それもそうか……」
「違う、そうじゃない!」
サードが口を挟んできたので、クラークは再び怒りの形相になった。だがそれよりも早く、サードがまくし立てる。
「都合が悪いから、この魔王城に隠したんだ!そんな物が万が一にも、人類の手に渡らないように!」
「だったらなぜ、そんなものをいつまでも保管しておく必要がある!壊してしまえばよかったじゃないか!」
「そ、それは、分からないけど……くそ!そんなの、僕が知るかよ!僕が知っているのは、そういう物があるということだけだ。だけど、それは確かに存在する!そしてそれを使えば、ヴォルフガングを確実に倒すことができるんだ!
「信じられるか!」
「信じたくないのなら、勝手にしろ!だけど君の強情のせいで、多くの命が危険に晒されるんだからな!」
「こいつ、言わせておけば……!」
クラークは完全に切れた様子で、剣の柄に手を掛けた。だがその時、一人の将校が、ずいと彼の前に進み出てきた。二の国の軍人じゃないな、知らない顔だから。別に密室で会議していたわけじゃないんだし、俺たちの大騒ぎを聞きつけて、今まで様子を見ていたんだろう。
「ちょっと待て。確かに、一理あるぞ」
「え?な、何を言っているんです!」
その将校は、わずかに恐れをにじませながらも、強気にクラークを睨み返す。
「一の国の勇者殿は、こやつの話をまともに取り合っていないようですが。しかし、はたから聞く限り、この者が嘘をついている確証は一つもない」
「は?まさか!そんな鏡、どこにもありはしませんよ!」
「それは分からないだろうと言っているんだ。嘘の可能性もあるが、探すだけ探してみてもいいじゃないか」
「そんなこと、時間の無駄ですよ!罠かもしれない!こいつの嘘に乗らずとも、正々堂々と戦えば済む話でしょう!」
クラークは全く譲らない。何といっても、正義の雷さま、だからな。彼の強情っぷりに、将校は忌々し気に舌打ちした。
「チッ。確かに、勇者様ならそうでしょうとも。だが、忘れないでいただきたい。戦っているのは、あなたたちだけではないんだ。我々のような力を持たない者たちからしたら、武器はいくらあっても困らない。前の戦いで、何人の兵が死んだと思っているんだ」
これにはさすがに、クラークも怯んだ。
「雑兵が何人死んでも気にならないというのなら、構わんがね。一人の犠牲も出さずに済む方法があるのに、それを無視するのはいかがなものかと思ったまでだ」
「くっ……いえ、そういうことが言いたいわけでは……」
気まずい沈黙があたりを包む。ピリピリして、嫌な空気だ。と、パンパンと、ヘイズが手を叩いた。
「とりあえず、仲間割れはよしましょうや。ここは、どちらの意見も立てるという方向で行きませんか」
「ヘイズ、どうする気だ?」とエドガー。
「詳しい話をサードに聞いてみましょう。もし探せそうなら、ひとまずその鏡とやらを探してみる。ただし、危険だと判断したら即座に中止して、そのまま進みましょう。これなら文句はないでしょう?」
ヘイズが振ると、将校は納得した様子で、逆にクラークは熱湯でも飲まされたのかっていう顔で、ぎこちなくうなずいた。
(まったく、おかしなことになってきたな)
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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