12-4
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尊と一緒に歩いて行った先は、小さな幕舎だった。入口にいた歩哨の兵士は、尊と俺たちを見ると、すっとわきに避けてくれた。布をめくって中に入る。
「おう、来たか」
中にいたのはエドガーと、ヘイズの二人だけだ。けれど、テーブルの上には色の塗られた石や木片(軍隊のシミュレーションをする時に使う、あれだ)が散らばっているし、周りの椅子も乱れている。さっきまで、大勢で会議をしていたみたいだ。
「こんな狭いところに、缶詰めしてたのか?」
「なに、雨風凌げるだけでも上々だ。贅沢言える状況でもないしな」
「ごもっとも。適当に座っていいよな?」
二人はうなずくと、自分たちも適当な椅子にかけた。全員が座ると、エドガーが口を開く。
「それで?そっちの二人は、捕虜とは話ができたのか?」
「えっ」「え?」
俺とクラークが、馬鹿正直に声を揃えて反応する。アドリアが舌打ちしたが、もう遅かった。くうぅ、これじゃ、白状しているのと同じだ。
「なに、気にせんでいい。それを問いただすために呼びつけたりなどせんわ」
エドガーは口角を持ち上げて言った。ほっ……よかった、お説教が始まったら一目散に駆け出していたぞ。
「どうやって知ったんだよ?」
「血相変えて走ってきた兵士たちから聞いたのだ。勇者とそのツレが、捕虜を逃がそうとしている、とな」
「なんだとぉ?あいつら、言うに事欠いて……」
ったく、どうしようもない連中だな。俺はぶすっと言い返す。
「で、あんたはそれを信じたのか?」
「ふん!私の目は節穴ではないということだ」
お?ヘイズが、ニヤニヤしながら言う。
「その二人は、隊長からありがたーいご褒美をもらったよ。げんこつでガツン!ってな」
「なんだ、じゃあ分かってたのか?噓言ってるって」
「まあな。仮に真実だったとしても、二人そろって職務を放棄したんじゃ、どっちみち落第だ。それに、お前たちがそこまで向こう見ずだとも思っちゃねえしな」
へえ、いちおう信頼されてるってわけか。
「それで?」
「ん?なんだよヘイズ、それでって」
「さっき隊長も訊いただろ、忘れたか?捕虜から話は訊けたのかって」
「あ、それか。うん、ちゃんと……ん?」
俺は、相変わらずにやけ面のヘイズを睨みつける。
「あんたまさか、俺たちがこうするって分かってたのか?」
「さあ、なんのことだ?」
「だから、俺たちが捕虜に話を訊きに行くって、分かってたんだろ。やけに見張りが少ないと思ったんだ。それに、真面目とも言えそうになかったし」
レーヴェは頑固で、なかなか口を割りそうになかった。だからこそヘイズは、俺たちに好きにさせることにしたんじゃ?特に俺とフランは、レーヴェを助け出したっていう実績もある。ついでにちょいと素行の悪い連中を添えておいて、もしそいつらがレーヴェに悪さを働いたら、俺たちが颯爽と駆けつけるって寸法だ。こいつ、それら全てを見越した上で、絶妙なタイミングで俺たちを呼びつけたんだ。
「……ちくしょう。安っぽい三文芝居仕込みやがって」
「さあて?何のことだか分からねえな?」
ヘイズはいけしゃあしゃあと抜かした。クラークは一杯食わされていたことに気付いて、顔を赤らめている。そしてヘイズの隣では、エドガーもあんぐりと口を開けていた。おいおい、あんたまで初耳かよ?
「さあ、そんなことはどうでもいいじゃねえか。それより、聞かせてくれよ。敵から得た情報は、味方のそれより十倍の価値があるっていうだろ?」
ヘイズは節が目立つ指を噛み合わせた。俺は降参だという意志表示に、がっくり肩を落とすと、レーヴェから聞いた話を一つずつ話し始めた。
「ううむ……生きたままの生物を利用した装置に、兵士の改造、さらには勇者ファーストの名を騙る、と来たか……」
エドガーは俺が聞かせた内容の濃さに、若干くらくらしているみたいだ。ヘイズは簡潔に、一言でまとめる。
「てんこ盛りだな」
「さ、これで全部話したぞ。信じる信じないはお任せするが、あんたはどう捉える?」
「そうだな……」
ヘイズはほんの一瞬考え込むと、すぐに指を二本立てた。
「ひとまず、前半の二つ、装置と改造は真実だろうな。嘘をつくメリットがないし、お前も自分の目で見たんだから」
「レーヴェが、自分の保身のために嘘をついた可能性は?」
「ふん、だったらもっと早く口を割っていたはずだろ。切羽詰まって考えたにしちゃ、詳細すぎるしな」
なるほど、もっともだ。次にヘイズは、三本目の指を立てる。
「だが、魔王の名がファーストだってのは、今のところ信じるに値しないな。あまりにも現実味がないだろう、それは」
クラークが勝ち誇った顔でこっちを見てくる。けっー!一体いつから、勝ち負けの話になったんだ?しかも俺、信じているだなんて一言も言っていない!
「あ、あのう……」
すると、尊がおずおずと片手を上げた。
「すみません、私、あんまり歴史とか詳しくないんですけど……ファーストさんって、昔の勇者さん、なんですよね?とっても強くて、それで、もう死んじゃってる……」
「ええ、その通りです。三の国の勇者殿」
「でもそれなら、どうして魔王は、死んだ人の名前を名乗るんですか?そんなの、すぐにあり得ないことだってわかるのに……」
「そうですね。おそらく、こちらの動揺を誘おうという魂胆でしょう。伝説の勇者と同じ名前となれば、尻込みする者も出るでしょうから」
確かに、それくらいしか考えられない。尊の言う通り、こんなバレバレの嘘に騙されるやつはいないだろう。
(だけど、少し引っかかるな)
ヘイズの言う、動揺を誘うというのはうなずける。うなずけるが、あまりにもメリットがしょぼくないか?元手は掛からないとはいえ、それだけのために、しょうもない嘘などつくだろうか?だって、相手は魔王なんだぜ?
「なら、本当に……本当に、ファーストさんだってことは、あり得ないんですね?」
尊が念を押すように訊ねる。ヘイズはきっぱりと首を横に振った。
「あり得ませんよ。彼は死にました。死者が蘇ることはありません」
「そ、そうですよね。よかった……」
「しかし、そんな奴がセカンドミニオンを集めているってのは……さっきオレは、動揺を誘うためだと言いましたが、もう一つの理由があるかもしれません」
「え?それって……」
「ファーストの信奉者である何者かが、敵側にいる場合です」
ファーストの、信奉者?つまり、熱狂的なファンってことか?俺は口を挟む。
「そんな奴が、魔王軍にいるか?」
「ない、とは言い切れないだろ。それに、オレたち人類側に詳しい奴がいる証拠ってんなら、もうあるしな」
「え、そんなのあったか?」
「ああ。攫われた人たちだよ。いつの間に調べ上げたのか分からねえが、あまりに詳しすぎる。お前、魔物の一体一体の顔の見分けがつくか?そいつらがどこの山に巣を作っているのか調べろって言われて、できるか?」
あ、た、確かに。不可能ではないだろうが、難しいだろう。大勢ともなれば、難易度はさらに上がる。
「そうか、人間の協力者がいる可能性も出てきたのか……」
「ああ。そいつがファーストに対して何らかの思い入れがあるのだとしたら、ちとマズいな。セカンドに恨みを抱いているのかもしれん」
当然俺は、攫われた人たちが危ないことも伝えている。ヘイズは厳しい表情で、エドガーを見た。
「隊長。やっぱり、行くべきなんじゃないでしょうか。今を逃すと……」
「うむ……そうだな。決断すべき時なのかもしれん」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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