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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
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「うわああぁぁぁぁ!助けて、たすけてくれええぇぇぇ!」


その兵士は、宙に手足をばたつかせ、声の限りに叫びながら、だが無情にもぐんぐんと落下していた。


(死ぬ……のか、俺は?嫌だ!だが、どうすることも……)


自慢の剣も、鍛え抜いた肉体も、この状況では何の役にも立たない。

彼は一の国ではそこそこ名の知れた勇士で、勇猛さと気高さ、そしてどんな時でも冷静沈着という、文武両道の騎士だった。だが、その彼を持ってして、目の前に迫る死の恐怖は、彼の理性をへし折るに十分な威力を発揮した。

しかし彼とて、戦いのさなかに命を落としたのであれば、こんな無様な命乞いなどしなかった。刃を交える戦闘において、生と死は紙一重。ひとたび油断すれば、死は一瞬にして彼の心臓を貫く。彼はそれを覚悟していたし、戦いの中で散ることは本望ですらあった。

しかし、今は……

こんなもの、戦いと呼べるものか。宣戦布告も何もなく、ただ突然、橋が崩れた。兵士たちは、血の一滴、汗の一滴すら流していないのだ。それほどまで呆気なく、決着がつこうとしている。


「いやだ……こんなの……!」


迫ってくる堅い地面が、耳元で唸る風の騒ぎが、いやおうなしに想像させる。叩きつけられ、血と肉の塊になる自分。激突の衝撃で、骨が砕かれ、内臓が破裂する自分。敵の一体も倒すことなく、ただの犬死という最期を迎える自分。あと数秒で、光も、音も、寒さも、痛みも、何もかも感じなくなる自分。


「いっ……いやだぁ……!死にたく、ない……!」


目の前がじんわりと滲んでいく。地面は見えなくなったが、それで大地が消えてくれるはずもない。ああ、もうあと数秒で、距離がゼロになる。あと五十メートル……十メートル……

そして、その時が訪れた。ぐんっ。衝撃が走り、兵士は恐ろしさに目をぎゅっと閉じた。


「………………?」


ふと、疑問に感じる。衝撃を受けたのに、どうして目を閉じることができたのか。あの高さから落ちれば、間違いなく即死するはず。それなのに今、どうして自分は、こうして思考を続けていられる?

少しだけ冷静さを取り戻した兵士は、次に耳元で唸っていた風が、次に全身を包んでいた浮遊感が無くなっていることに気付く。さすがにおかしいと思った彼は、ゆっくりと目を開けた。


「なっ。なんだ、これ……?」


彼は目を見開くと、自分の状況を、ゆっくりと理解した。どうやら兵士は、花畑の上空に静止しているようだ。上空といっても、ほんの二、三キュビットほどしか離れていない。地面に生える、小さな花の花弁が目視できるほどだから、激突の寸前だったことは間違いないようだ。


(よく、わからないが……俺は、助かった、のか?)


ふと気が付くと、周囲からも戸惑いの声が聞こえてきていた。彼は宙吊りの姿勢のまま、辺りを見回す。すると、彼と同じように、大勢の兵士、魔術師、馬や牛といった動物たちが、まるで空間に糊付けされたかのように浮かんでいるではないか。


「なんだ、これは……!」


一目見ただけでも異常だと分かるが、今回に関しては、喜ばしい異常事態に思えた。どうやら、犠牲者は出ていない様子だ。花畑は前と変わらず美しい。血飛沫や肉片は、ほんのわずかも飛び散ってはいなかった。


「けど、それなら……何が、起こったんだ?」


奇跡が起こったとしか思えないが、彼はまだ、それを喜ぶほどの余裕を取り戻していなかった。恐る恐る、この現象の理由を探して、あちこちに目を向ける。ふと、一人の少女が空に浮かんでいるのを見つけた。辺りには大勢の人間が浮かんでいるが、あの少女だけは、自分の意志で宙を移動しているように見える。

少女は虚空を蹴るように、空を“走って”いた。そうやって、周囲の人々の間を移動すると、皆が無事かどうかを確かめている様子だ。じきに少女は、兵士のそばまでやって来た。


「あっ、き、君は……?」


「おにーさん、だいじょーぶ?おにーさんが一番下だったんだね」


「えっ、あ、ああ……幸い、大事ないが……」


「よかったぁ」


少女はにっこりと、野に咲く花のような笑みを浮かべた。兵士は困惑した。一体、この少女は何者だ?少女の髪は燃えるような赤色で、服は何とも奇妙な、ひらひらとした格好だ。


挿絵(By みてみん)


「悪いけど、ボク、まだやることあるからさ。じゃーね、おにーさん!」


「あ、おい!」


少女はそう言い残すと、まるで地面を走るように、空を“駆け上がって”行った。兵士はただぽかんと、その後姿を見送ることしかできなかった。


「な、なんなんだ?あの子は……」




(な、な、なにこれ。どうなってるの?)


ボクの耳元で、ライラの戸惑う声がする。けれど、ライラの姿はない。耳元ってのも正確じゃないな。この声は、ボクの頭の中から……正確には、魂の中から聞こえてくるのだから。


「ライラ、そんなに慌てないでよ。見ての通り、ボクたちは間に合ったんだからさ」


(え、え?この声……だ、だれ?桜下なの?)


「そうだよ!ひどいなぁ、だれ?だなんて」


ボクは頬を膨らませたけど、今のライラには見えないことを思い出した。毎度のことだけど、ボクと魂を合体させたアンデッドは、最初必ず戸惑うんだよね。


(なんだか、不思議な感じ……ライラは今、ライラでもあるし、桜下でもあるみたい)


「そう?そんなこと、些細なことだと思うけどなぁ。だって、ワクワクしないかい?」


(え?)


「こんな時だけどさ、ボク、なんだか今なら、なんだってやれそうな気がするんだ!」


胸の奥から、力が沸き上がってくる。こんなの、じっとしてなんていられない!


「よーし!とりあえず、みんなのところへ行こう!」


(う、うん!)


ボクは空気を“蹴って”、すいすい空へと昇って行った。やがて、ふわふわ浮かんでいる仲間たちの姿が見えてくる。


「おーい!みんな、大丈夫だった?」


みんなの下へ駆け寄ると、みんなはびっくりしたような、困惑したような顔で、ボクをまじまじと見た。


「えっ……と……」


ウィルは口を開こうとして、途中でやめてしまった。どうしてだろ?


「これは、あなたがやったの?」


おっ、フランがようやく訊いてくれたぞ。ボクは胸を張ってうなずく。


「そうだよ。正確には、ボクと、ライラがね」


「ライラ?あの子は、どこにいるの?」


「どこって、ここにいるじゃない」


ボクはとん、と胸を叩いた。フランが怪訝そうな顔をする。


「……確かにあなたは、ライラに似た女の子だけど。髪の色とか」


「えぇ?違うちがう、そうじゃないってば。ライラは、ボクと合体してるんだ。それにボクは、女の子じゃなくて、男の子だよ」


「……は?」


おー、珍しい。フランがぽかーんって口を開けて、固まっちゃった。おんなじくらい口を開けたアルルカが、わなわなしながら指をさす。


「あ、あ、あんた……桜下、なの?」


「だから、そうだってば。ボクは桜下!」


なんだったら、証明してあげよう。ボクはその場で、くるりんと回転してみせた。さあ、これで分かったんじゃないかな?あれ?アルルカの口が、さっきよりさらに開いた気がする。


「か、かわいい……」


へ?ウィルが、ヘンテコな顔をしているぞ。自分のほっぺたを、びよーんとつねっているせいだ。


「い、痛くない……夢かしら」


「いや、幽霊なんだから、痛みは感じないんじゃない?」


そんな当たる前のことを忘れるくらい、混乱してるってことかな。


「し、信じられませんよ。だって、こんなに可愛い()が、桜下さんなわけないじゃないですか!」


ウィルはわなわな震える指で、ボクたちを指さした。


「失礼ですけど、桜下さんはもっと、世の中を馬鹿にしたような顔をしてました!」


「ほんとに失礼だね……あのねぇ。ウィルもよく知ってるでしょ?ソウルレゾナンスで合体したら、ボクの姿は大きく変わるんだってば」


経験済みのウィルなら、当然それも分かっているはずなのに。ボクの外見と性格、そして能力は、融合したアンデッドによって大きく異なる。今回はライラの魂の影響で、ずいぶん幼い姿になったみたいだ。


(そ、そういうことだったんだ……)


耳元では、ライラの納得したような、驚いたような声がする。


(フランやウィルおねーちゃんの時とは、全然違うんだね。ライラとだから、こうなったってこと?)


「その通り!それに、外見だけじゃないよ。ライラの力も、しっかり受け取ったからね!」


(ライラの、力?)


そう!それはもちろん、ライラの代名詞、魔力。だけど、ただそのままを受け取ったわけじゃない。ソウルレゾナンスは、足し算じゃなくて、掛け算なんだ。


「さーてと!おしゃべりもこのくらいにしよっか。ずいぶん落っこちちゃったから、ここから巻き返すよ!」


ボクは右手を、ひゅんっと振り上げた。そのとたん、宙に浮いていた仲間たちや、何人もの兵士たちが、ゆっくりと上昇し始める。


「ボクが、みんなを連れていくよ!」


飛べっ!次の瞬間、ボクらは一斉に舞い上がった。



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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