表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
17章 再会の約束
736/860

5-1 崩壊する塔

5-1 崩壊する塔


「くぉっ……!」


あまりにも一瞬の出来事過ぎて、叫ぶこともままならない。

足元の橋が静かに崩れ、まっすぐ地面へと落下していく。崩壊と言う表現よりは、高速巻き戻し(ロールバック)といったほうが正確だろうな。衝撃も爆発もないのだから、破壊という印象は薄い。ただし、それらはこの状況では、極めてどうでもいい事だった。

重要なのは、俺の体は一瞬宙に浮き、そして次の瞬間には、勢いよく地面へと吸い寄せられ始めたということだ!


「う……うわああああああ!」


引力を実感し、俺はようやく叫ぶことができた。たったそれだけでも、大したものじゃないか?周りの兵士たちは、ろくに悲鳴すら上げられずにいる。それでも次第に、ぽつぽつと絞り出すような声が聞こえてきた。


「ぎゃああああああ……」

「誰か……助け……」


悪夢のような光景だ。

空中を、大量の人間が舞っている。白い山と灰色の空を背景に、人たちが各々の恐怖の表情を浮かべ、落ち葉のように降りそそいでいる。鳥と違って、ただ成すすべなく落ちていくしかない、落ち葉たち……

俺たち人類連合軍の、その全軍が、今や風前の灯火だ。このままいけば、あと数十秒ほどで、俺たちは人だった肉塊へと成り果てるだろう。心臓が、どくどくと脈打っている。俺にはそれが、死までのカウントダウンに聞こえている。あと何度、俺の心臓は鼓動をするんだ……


(はっ。そうだ、みんなは……仲間は、どこだ?)


宙を舞う俺の体は、天地無用にかき回されていた。方向感覚が狂い、仲間がどこにいるのか、もう分らない。荒れ狂う風で、目を開けるのもやっとだ。


(こんなにも……こんなにもあっけなく、俺たちは全滅するのか?)


激しい戦闘も、大群同士のぶつかり合いもない。一体の魔物が、手を叩いただけだ。たったこれだけで、人類の総戦力が敗れ去るのか?俺も、クラークも、尊も死に、後には何も残らない。ただ、死ぬことのないアンデッドである、仲間たちだけが取り残される……俺やみんなの、血と肉の海の中で……


「ぅだんじゃ……ねえぞ!」


ちくしょう!そんなエンディング、くそくらえ!俺はこんなところじゃ、まだ死ねない!

その瞬間、俺の視界が急にクリアになった。いや、今までが、目の前をきちんと見られていなかっただけだ。現実を受け止めたことで、ちゃんと前が見えるようになったんだ。

視界が戻ってくると、真っ先に飛び込んできたのが、真っ赤な瞳だった。フランだ!フランは銀色の髪をバタバタとはためかせていた。彼女はあの土壇場にも、俺の側に来てくれていたんだ。この状況では彼女も成すすべがないが、それでもじっと、俺を見つめている。俺を心の底から信じ、そして諦めるな、と呼びかけている。


「そうだ……俺はまだ、死んでない!」


「その通りよ!」


シャアアー!黒い影が空を裂き、俺へと急接近してくる。俺はそちらを見ずとも、それが何かわかった。


「アルルカ!」


俺が伸ばした腕を、アルルカはしっかりと握った。そのまま翼を大きくはためかせ、ぐいっと俺を引き上げる。落とさないようにしっかりと腰を掴むと、彼女はすぐさま方向転換し、その場を離脱しようとした。


「待て、アルルカ!まだ駄目だ!」


「ふざけんな!もうこいつらは助からないわ!見捨てられないとか言ったら、ぶっ飛ばすわよ!」


「違う!まだ俺たちは、負けちゃいない!勝つためには、逃げちゃいけないんだ!」


「無理だってば!もう手は無いの!終わりよ!」


「違う!希望はまだ残ってる!ライラのとこに行ってくれ!」


「はぁ!?」


俺には確信があった。他の誰でもない、ライラが、全てのカギを握っている。だがそれでも、アルルカは渋っていた。


「無理よ、あいつでも!あいつの力量だとしても、これだけの数、どうしようもない!」


「頼む!俺を信じろ!」


俺は心の限り、叫んだ。もう時間がない。それでも俺は、怒鳴ったり、無理やり命令したりするよりも、アルルカの心に訴える方法を選んだ。彼女が俺を信じられないと言ったら、今度こそ本当に終わりだ。

アルルカは、ギリギリと音がするほど、歯を噛みしめた。そして首を横に振ると、ばさりと翼を振り下ろした。


「あああ、もうっ!もし失敗したら、ぶっ殺してやるから!」


そうがなると、アルルカは百八十度方向転換した。俺はこんな状況なのに、にやりと笑ってしまった。どのみち失敗したら、死は避けられないだろう。上等じゃないか。文字通り、命を懸けてやる!


アルルカは俺を抱えたまま、木の葉のように舞う兵士たちの間を、矢のように飛んだ。今はどうしようもないとは言え、恐怖に駆られる人たちを無視するのは辛い。人々は口々に助けを求め、闇雲に手を伸ばしている。その手のギリギリを、アルルカは潜り抜けた。もし掴まれたら、アウトだ。


「見つけた!」


赤毛が、バタバタと宙を舞っている。体の小さなライラは、他よりも高い位置に浮かんでいた。


「アルルカ!俺をあそこへ放れ!」


「ええ!?そんな……もおぉぉ!どうなっても知らないわよ!」


アルルカは俺の手を掴むと、体を回転させて勢いをつけ、ぶぅんと俺を投げ飛ばした。翼のない俺は、無様に手足をばたつかせながら飛んで行く。


「ライラー!」


俺が叫ぶと、ライラがこちらを向いた。はためく赤毛の中で、恐怖に見開かれた瞳が俺と合う。

俺は無我夢中で、ぐんぐん迫ってくるライラを、がしっと胸の中に抱き留めた。風でもみくちゃになりながらも、なんとか彼女の顔を覗き込む。


「お、桜下……」


ライラの顔は真っ青で、声はひどく震えていた。


「ど、ど、どうしよう。わかんないよ……ライラ、どうしたらいいの……?」


「ライラ、落ち着いて聞いてくれ。お前の力があれば、みんなを救えるんだ」


「無理、むりだよ……ライラのどんなまほーを使っても、こんなにたくさんの人を助けるなんて……」


俺は思わず驚いてしまった。魔法に関してはいつも偉そうなライラが、こんなにも気弱なところを見せるなんて。今のライラは、歳相応の、無力な子どもにしか見えなかった。

だが、それは違う、俺は、ライラが素晴らしい力を持っていることを知っている。それは単に、才能や、技術だけじゃない。ライラの奥底には、きっと彼女自身ですら気付いていない、光り輝く宝石が眠っている。

それが今、必要なんだ!


「いいや、できる」


「え……?」


「やってみせる。お前と、俺で」


「桜下、も……?」


ライラが戸惑った様子で、俺の目を見つめる。


「ああ。お前一人にはさせないさ。一緒にやろう」


俺は、ライラを抱きしめていた腕を緩めて、右手をライラの前へと持ってきた。


「ライラ。お前の、魂を貸してくれ。俺だけでも、お前だけでもダメなんだ。でも、二人なら、きっとやれる」


ライラは、俺が言いたいことが伝わったのか、目を大きく見開いた。


「……ライラ、どうすればいい?」


「俺を、信じてほしい。できるか?」


ライラは目をしばたくと、首を横に振った。


「できる、じゃない。ライラ、ずっと桜下のこと、信じてる。いまさらする必要なんてないくらい、心の底から、信じてる……!」


ライラ……俺は胸の奥から、ライラへの愛情があふれてくるのを感じた。だが今は、それに突き動かされている場合じゃない。この気持ちをそのまま、右手に込める!


「いくぞ!」


俺は右手を、ライラの胸の真ん中……すなわち、魂の上に重ねた。ライラがぎゅっと目をつぶる。とくん、とくんと、小さな、だがしっかりした鼓動を感じる。


「黄泉の岸辺にて出会いし二つの魂よ!今、ここに一つにならん!」


叫ぶ。


共鳴(ともな)け!ディストーションソウル・レゾナンス!!」


パアアァァァァー!



つづく

====================


読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


====================


Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ