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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
16章 奪われた姫君
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12-3

12-3


さて、ここで場面は切り替わり、桜下たちの下をいったん離れることになる。

彼らが焚火を囲んでいた所から、遠く西へ、西へ……


カツ、カツ、カツ。

ヒールの音を響かせながら、魔族の女ドルトヒェンは、廊下を歩いていた。この廊下とはすなわち、魔王の居城の廊下である。

やがてドルトヒェンは、とある部屋の前で足を止めた。重厚な黒い金属で作られた扉には、金のプレートが取り付けられ、そこに大陸語で『ヴォルフガング』と刻み込まれている。ドルトヒェンは、その扉を三度ノックした。

コン、コン、コン。


「入っていいよー」


ドルトヒェンは、黒い扉に手のひらを押し当てた。すると、扉に青いラインが走り、すぅっと音もなくスライドした。ドルトヒェンが中に入ると、扉はひとりでに閉まった。

室内は豪奢な造りになっていた。天井にはシャンデリア、床にはライオンの毛皮の絨毯。壁の棚には酒瓶がずらりと並べられている。暖炉では薪がパチパチと音を立てて燃えていた。


「失礼いたします。忠実なる(しもべ)、ドルトヒェンが、閣下にご報告に参りました」


ドルトヒェンは、片膝をついてひざまずいた。暖炉のそばのソファに座っていた影が、のっそりと立ち上がる。


「ドルちゃんさあ、閣下ってのはやめてよ。ここではちゃぁんと、名前で呼ばなきゃ。ほら、言ってみ?」


「……魔王三幹部が一角、大賢者ヴォルフガング様、です」


ヴォルフガングと呼ばれた魔族は、満足げな表情でうなずいた。否、満足げかどうかは、雰囲気でしか分からない。なぜなら彼の頭部には、表情を形作るための肉がないからだ。

ヴォルフガングの頭は、巨大な鳥の頭蓋にそっくりだった。喋る時もくちばしが動くことはなく、その奥のうつろな暗闇から音が響いてくる。


「で、なんだっけ?報告っつった?何の件だっけ」


「先日拝命を受けました、勇者の能力の調査についてです」


「あーあ!そうそう、そうだった。あれからずいぶん経っちゃったから、忘れてたぁ」


「ご報告が遅れまして、大変申し訳ございません」


「あーあー、いーからいーから。それより、早く聞かせてよ」


「はい。報告させていただきます」


ドルトヒェンは、人類が召喚した三人の勇者について、短く報告した。


「……現時点で判明していることは、以上になります」


「へえー、大した情報量だね。さっすがドルちゃん!」


ヴォルフガングは、ぱちぱちと手を叩いて見せた。


「ありがとうございまっ」


ドルトヒェンは、最後まで言い切ることができなかった。いきなり丸太のような足が飛んできて、ドルトヒェンは勢いよく後ろに吹っ飛び、壁の酒棚に激突した。酒瓶がけたたましい音を立てて砕け散る。ガシャーン!


「がはっ……」


ドルトヒェンは、砕けたガラスとこぼれた酒の上でうずくまった。衝撃のせいで、肺にうまく空気を取り込むことができない。散らばったガラスの上を、ちゃり、と踏む足音がした。


「ドルちゃんさぁ……なに、お礼とか言おうとしちゃってんの?本気で褒めてると思ったわけ?あ?」


ゲシッ!ドルトヒェンの背中が、強く踏み付けられる。


「オレが命令したの、いつだっけ?ひと月前だよ?そんだけあって、これっぱかしの情報しか集めらんなかったのかって、言ってんだ、よっ!」


ガツッ。ボールを蹴飛ばすような強烈な蹴りが、ドルトヒェンの顔面を捉えた。彼女の体がふわりと宙を飛び、ゴム人形のようにだらりと四肢を投げ出して、ドサっと落ちる。意識を失ってしまったのだ。


「あん?おーい、もしもーし。聞いてますかぁー!?」


挿絵(By みてみん)


ヴォルフガングは動かなくなったドルトヒェンの首を掴むと、乱暴に揺さぶった。子どもが壊れたおもちゃを揺するような動作だった。


「……かはっ。あぐ……」


「あ、気ぃついた?」


ドルトヒェンがわずかに身じろぎしたことに気付くと、ヴォルフガングはより一層手に力をこめた。指が彼女の首に食い込む。


「それとも、このままだとまた気絶しちゃうかな?次気ぃやったら、今度は目覚めないかもしれないよ?」


「が……も、しわけ……」


「だめー、聞こえなーい。大体さ、なに?ドルちゃんのこのカッコ。だっせぇー。もっとエロい服着てこいって言ったじゃんよ」


ヴォルフガングはドルトヒェンを宙づりにしたまま、片手で彼女のローブを引き裂いた。ビリィー!野暮ったいローブの下からは、ボディラインを強調した、ぴっちりとした服が出てきた。


「おっ。なんだよ、この前渡した服、ちゃんと着てんじゃん。何で隠すかなぁ。ほんっと、何から何まで使えねーのな!」


ぶんっ。ヴォルフガングは、ドルトヒェンを壁に向かって放り投げた。さっきとは別の棚が崩れ、ドルトヒェンにガラスの雨が降り注いだ。


「ドルちゃんさあ、分かってる?この任務は、命よりも重いんだよ?はい、問題です。この命令は、誰から出されたものでしょーか?」


ドルトヒェンは激しくむせ込んでいたが、それでも震える喉から絞り出す。


「ヴォル……ガン……」


「はいー?なんだって?」


「……ま、おう……さま……で……」


「はいせいかい、そのとーり!これは魔王様からの命令なの。魔王様は三幹部に色々指令を下してて、それがドルちゃんに下りてきてんの。でその一つが、勇者の能力の調査なわけ。意味わかる?魔王様の命令は絶対なんですけど?」


「は、い……しょうちして、おりま……」


「ほんとに~?事の重大さ、分かってないように見えるけどなぁ」


ヴォルフガングは、難を逃れた唯一の棚へ近づくと、酒瓶を一本かっぱらった。そして瓶を高く掲げると、陶酔したような口調で言う。


「魔物にとって、最も尊重すべきなのは魔王の命令だ。魔王の命令は絶対だ。腕がもげようが、目が潰れようが、何が何でも命令を遂行しなければならない!それは種族や身分によって違わず!三幹部であろうが、下級のモンスターであろうが、例外はない!おお、魔王に栄光あれ!」


ヴォルフガングは次第に声を強めていき、最後のところで手に持った酒瓶を粉々に砕いた。ヴォルフガングは、その滴る酒を、骨だけの顔面の穴に流し込んだ。


「っぷはぁー。とまあ、そういうことだけどさ。ドルちゃんもさ、そこんとは理解してるよね?仮にも三幹部の一席を務めてるくらいなんだしさ。一番下のザコとは言え」


ヴォルフガングは、いまだに起き上がれずにいるドルトヒェンへと視線を戻した。ドルトヒェンは震えながらも、かろうじてうなずく。


「わかって、おります……魔王様のご命令は、絶対です……」


「だよね。じゃあ、ドルちゃんがこういう目にあうのも当然だよね?」


ドルトヒェンは、またも弱弱しくうなずいた。


「うん、分かればいいんだよ。じゃ、今回はこれくらいにしといてあげる。優しい上司でよかったねえ。あ、そうだドルちゃん。この前頼んだ、お部屋変えはちゃんとやってくれたよね?」


「は、い……すでに、完了しています……」


「おっけー。じゃ、お姫さまたちの様子でも見てこよっかな。あそーだ、ここの後始末よろしくね。染み一つでも残ってたら、ぜってー許さねーからな」


そう言い残して、ヴォルフガングは部屋を去っていった。一人残されたドルトヒェンはしばらく動けずにいたが、やがてよろよろと起き上がると、散らばったガラス片の片づけを始めた……




こん、こん。扉の低い位置からノックの音がして、ドルトヒェンは振り返った。掃除を終わらせて、自室で怪我の手当てをし終えたタイミングでのことだ。


「どなたですか」


「ドルト、いるカ」


「レーヴェ?ええ。入ってください」


きいぃぃ。扉が不自然な開き方をする。例えるなら、犬か猫が開けたような、そんな感じだ。

扉のすき間から顔をのぞかせたのは、二つの顔だった。一つは真っ赤な毛で、四つの目がある狼で、もう一つは野性的な顔の少女だ。ドルトヒェンは来客の顔をよく知っていた。だがその上で、小首をかしげた。


「どうしたのですか?こんな遅くに」


外はとっぷりと日が暮れている。魔物がひしめく魔王城においては、この時間に活発になるものもいるので、出歩くこと自体はおかしなことではない。しかしドルトヒェンは、目の前の少女が遅くまで起きていられないことを知っているのだ。


「先ほど、もう休んでいいと伝えましたよね?昼間に勇者の一行と戦闘して、そのままとんぼ返りをしてきたのですから、疲れたはずでしょう」


「……」


「……?レーヴェ?」


「……ドルト、痛くないカ?」


「っ」


ドルトヒェンは、一瞬固まった。だがすぐにしまったと思い、何でもないように振舞った。


「はい。どこも痛くはありませんが」


そう取り繕ってはみたものの、ドルトヒェンは自分でも意味はないだろうと思っていた。目の前の少女、レーヴェは、こんな虚勢にごまかされるほど鈍くはない。現にレーヴェは、途端にしゅんとしてしまった。


「……レーヴェたちのせいカ」


四つ目の狼まで、耳をぺたりと垂らしている。ドルトヒェンはため息をついた。


「とりあえず、中に入ってください。誰かに訊かせる話でもありませんので」


再三勧めてようやく、レーヴェと狼は部屋へと入ってきた。レーヴェは狼の背に、ぴったりと張り付くように乗っていた。

扉をきちんと閉め、ドルトヒェンは二人(正確には一人と一頭)に振り返る。


「まあ、おおむね察しているようですが。あの方がわたくしに乱暴なのは、今に始まったことではありません。あなたたちが気に病むことではありませんよ」


「でも、レーヴェたちガ、ちゃんとできなかったかラ」


「少なくともわたくしは、あなたたちの働きに不満はありません。むしろ、よくやっていますよ」


「……ほんとカ?」


「はい。現時点で、こちらの部隊に被害は出ていません。かつ、勇者三人のおおよその能力を把握することに成功しています。わたくしの言いつけを、良く守ってくれていますね」


ドルトヒェンが薄く微笑むと、レーヴェはぱぁっと明るい顔になった。


「おう!レーヴェたち、言われたとおり、絶対死なないように気ヲ付けタ!怪我しないように、勇者たちヲおちょくってやっタ!」


四つ目の狼もしっぽをぶんぶん振っている。誇らしげな少女たちの顔を見ていると、ドルトヒェンはほんの少しだけ、体の痛みが薄らいだ気がした。


「それと、もう一つの言いつけも、忘れてはいませんね?」


「もちろン!勇者は殺すな、だロ?そこもバッチリだ!」


「素晴らしいです。わたくしがあげた破魔の護符は、上手く使えていますか?」


「うん!レーヴェ、あれで人間ドモの魔法ヲ全部さっちしタ!あいつらの魔法、ことごとく破ってやったゾ!」


「そうですか。ならば、作戦は順調であると判断します。今のまま進めることに傾注してください。くれぐれも、焦って、無茶などしないように」


「わかっタ!レーヴェたち、ばんがる(・・・・)!」


この“ばんがる”は、一種の合言葉だった。レーヴェがこれを口にする時は、決まって何かしらの成果を上げた時だ。そしてそう言う時、彼女は必ずキラキラした目でドルトヒェンを見上げるのだ。ドルトヒェンは内心でやれやれとため息をつくと、レーヴェのゴワゴワしたはねっ毛を撫でてやった。


「♪~」


満足げなレーヴェを見て、ドルトヒェンは胸が痛んだ。


(わたくしは、この()を利用している)


ドルトヒェンは、ヴォルフガングに「勇者の能力を調査せよ」との命令を下されていた。それをレーヴェに伝える際、ドルトヒェンは三つ、余計なものを付け加えた。

一つは、「絶対に死なないこと」。

一つは、「破魔の護符」を与えたこと。本来はドルトヒェンに下賜されたアイテムだ。

そして最後の一つが、「勇者を殺さないこと」だった。


(今はまだ、勇者に死なれては困るのです)


この追加は当然、ドルトヒェンの独断だった。そしてその独断に、レーヴェを巻き込んでしまった。彼女の、ドルトヒェンへの信頼を利用して……

ドルトヒェンは胸が痛んだ。だが、いまさら後に引く気もなかった。彼女の計画を成功させるには、勇者の力が必要不可欠だった。


(こんな戦争、早く終わればいいのに)


レーヴェの頭を撫でながらも、ドルトヒェンの瞳は、彼女を見てはいなかった。それよりも、もっと遠くの……

こうして、魔王城の夜が更けていく。そして場面は、再び桜下たちへの下へ戻り……



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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