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3-1 魔術大会

3-1 魔術大会


アニの案内の下、俺たちはメインストリートから外れて、町の北西に通じる脇道へとそれた。埃っぽい古書店が立ち並ぶこの道は、なにかの学術に関する専門通りのようだ。人気は少なく、閑散としている。


「ここ、まほーに関するお店ばっかりだよ」


ライラが、店先のガラスに鼻をくっつけながらつぶやく。なるほど、そのようだ。俺が見ても、タイトルすら理解できない本ばかりだったから。

その通りを進んでいると、他の店より一回りほど大きな建物が見えてくる。その軒先には“魔術師ギルド”という看板が取り付けられていた。


「魔術師ギルド……話には聞いてたけど、本物は初めて見たな」


ギルドと言えば、ファンタジーでは定番だ。冒険家や凄腕の魔法使いがたむろし、新たな物語の始まる場所……そういう、活気のある印象があるんだけど。


「……ちょっと、さびれてるな?」


「ちょっと、どころではないような……」


三の国にあった、そびえ立つたっかい塔を思い出す。あそこの魔法研究所はなかなか立派な建物だったが……ここのギルドは、看板はさび付き、窓には厚くほこりが積もっている。およそ活気とは無縁の出で立ちだった。


「王都の魔法使いって、そんなに儲からないのかな」


『いえ、そんなはずは……』


アニが動揺したように、ちりんと揺れる。


『王都の魔術師ギルドは、勇者のパーティ候補の最大手です。国からも多額の助成金が出ているはずなので、寂れるということは……』


確かに、前にアニからそんなことを聞いたような。せっかく召喚した勇者が活躍しないと、国の威信にかかわるから、その仲間を輩出するギルドは重宝されるんだったな。


「てことは、このギルドはずっと前に解散しちゃったのかな。表札をはがし忘れてるとか」


『そう、ですね。まだそちらのほうがあり得ます。従来の制度なら、所属魔術師がゼロ人ということでもない限り、経営難で潰れることはないはずですから……』


それもすごい話だなぁ。魔術師はギルドに所属していれば、まず食いっぱぐれないってわけだ。

わぁー!


「……ん?」


そんなほこり臭い通りを歩いていると、前方からかすかな歓声が聞こえてきた。


「なんだろう?」


「人だかりができているようですな……」


もう少し進むと、通りの途中に広場が見えてきた。そこに大勢の人が集まっているようだ。時折、おおー!という興奮した歓声が上がっている。


「なにかやってんのかな?」


「催し物でしょうか?」


気になって近づいてみると、人だかりの向こうに、なにやら薄紫色で半透明の、ドームのようなものが立っている。ドームは広場に沿って円形に広がっていて、それを人垣が囲んでいるようだ。中で何をやってるんだろう?


ドカーーーーン!


「うわっ」


「きゃあ!」


突然ドームの中で爆炎が上がり、街並みが一瞬オレンジ色に染まった。ウィルは思わず耳をふさぎ、ロッドがその手を離れて地面に落ちる。カランカラーン。


「びっ……くりしたぁ。い、いったいなんだ?」


俺が首を伸ばして、人垣の向こうを覗いていると、ウィルのロッドの音に反応したのか、群衆の中の一人が、くるりとこちらへ振り返った。


「ん?その杖、もしかしておたくらも魔術師?」


「へ?」


そいつは、痩せて背の高い、ひょろりとした男だった。男は落ちたロッドを拾い上げると、それをじっと見つめてから、こちらに差し出す。


「この杖、マナ回路が開かれてるでしょ。杖を媒介にして、魔法を使った証拠だよ。てことは、やっぱり魔術師だ」


「え。いや、俺たちは……」


どうしよう。ウィルは魔術師に間違いないが、この男に見えているはずがない。俺とウィルが顔を見合わせて、どう説明したもんかと頭を悩ませているうちに、男は勝手にどんどん話を進めてしまった。


「ね、ね、ね。おたくらも魔術師ならさ、いっちょ腕試ししていかない?」


「はい?腕試し?」


「いまやってんの。ほら、ちょうどいま挑戦中」


男はにやっと笑って、ドームの中を指さした。すると再び、薄紫のドームのなかでドーンと火柱が上がった。


「あれが、その腕試し……?」


「そそ。魔術師ギルド主催、魔法使いの腕試しコンテスト。最優秀者には、なんと賞金金貨百枚!」


「ひゃ、百枚!?」


俺とウィルの目の色がギラリと光った。金貨百枚って言ったら、そりゃとんでもない大金じゃないか。それだけあれば、エラゼムの剣の修理代を払ってもお釣りが出そうだぞ……

つんつん。


「あん?」


背中をつつかれて振り向くと、じとっとした目のフランがいた。フランは無言で、唇をぱくぱく動かす。


(は・な・し・が・う・ま・す・ぎ・る)


おっと、本当だな。目先のエサにほいほい釣られるところだった。まずは、きちんと話を聞こう。


「えー、あー……それは、なかなか興味深い催しだけど。まず、詳細を聞かせてくれないか。一体、どういうルールなんだ?」


「それは簡単、かんたん。最大三名まで参加できて、あのドームの中へ入る。課題をクリアすれば見事合格。最も難しい課題を、最も高得点でクリアしたものが最優秀賞!金貨百枚!」


「ほほー……その、課題っていうのは?」


「こちらの指定する、クリア条件だよ。火を起こせだとか、水を湧きあがらせろだとか。難易度別に選べるから、自分たちの腕にあったものでトライできるよ。魔術師であれば参加費無料、絶対ケガしない安全保証付き。こんなの滅多にないよ。やらなきゃ損だよ?」


へー……そんならいいな。失敗してもペナルティはないし、チャレンジしてみるだけして、ダメならおとなしく仕事を探せばいいんだ。


「ちょっと、おもしろそうだな……」


「そうでしょ、そうでしょ!お兄さん、挑戦してみなよ。ソロで活躍したらポイント高いよ?」


男は揉んだ手をくねくねさせながら俺に詰め寄る。さっきから俺を魔術師と勘違いしているみたいだけど、あいにくと俺は専門外なんだよな。


「あの、ちょっと待ってくれないか。仲間と相談させてくれ」


俺は後ろに振り返り、仲間たちにコソコソと顔を近づけた。


「ってことなんだけど。どうする?」


「ライラは、別にいーけど」


俺たちの中では随一の腕の持ち主である、ライラは賛成のようだ。しかし、慎重派のフランは首を横に振る。


「おかしいよ、こんな道端で金貨百枚も出すイベントしてるなんて。きっと始めっから賞金なんか出す気なくて、客寄せにしたいだけなんだ」


「うーん……確かに、そんな気もするよな」


「でもさー、だとしてもライラたちは損しないでしょ?それならそれで、やってみてもいいんじゃない?」


ライラの言うことも一理ある。あちらの思惑がどうであれ、こちらが損をしないのであれば、トライする価値はありそうだ。


「けど出場しようと思ったら、出られるのはライラ、ウィル、それにアルルカの三人か……」


「わ、私は、ちょっと厳しくないですか?」


ウィルがロッドを握りしめながら、自信なさげに言う。


「お客さんに姿も見えませんし、なにより腕に自信なんて……」


「おねーちゃん、そんなことないよ。最近すっごく上手になってきてるって!」


ライラが励ますが、それでもウィルはあまり乗り気ではなさそうだ。そして、アルルカも当然ながら反対だった。


「あたしはパス。見世物役なんて、やってられないわ」


「うーん、そっか……」


さすがにライラ一人参加させるわけにもなぁ。けど話を聞くに、課題は絶対ケガしない安全保証付きだと言う。うーんと優しい課題なら、一人でも余裕だったりするのだろうか?


「なあ、ちょっと聞きたいんだけど」


俺は男に振り返ってたずねてみた。


「その課題って、例えば子どもでもできたりするのか?」


「へ?子ども?」


すると男は目を丸くして、それから目をゆっくりライラへ向けた。


「まさか、お兄さんじゃなくて、その女の子が出るってこと?」


「まあ、そうなるかもしれないとしてさ」


すると男は、頬をぷくっと膨らませたかと思うと、盛大に噴き出した。


「ぶふーーーっほっほははは!冗談でしょう!」


「え?いや、俺は本気で……」


「まさか、そんなおこちゃまが魔術を?冗談言わないでよお兄さん、あーおっかしい!」


む……ライラがまなじりをぴくっと動かした。仲間を馬鹿にされて、俺もいい気分じゃない。


「……あんた、あんまりこの子を、なめないほうがいいぜ」


「うっしっし……さすがにそんなのには引っかからないって。男の子ならともかく、女“なんか”に高度な魔法が使えるわけないよ」


ぴしっ。今度は、女性全員のまなじりが動いた。


「……桜下。ライラ、出るよ」


「え?」


ライラが小さな肩をいからせて、俺の隣へと並び出た。


「見せてあげるよ。魔力の強さは、年齢や性別で決まるんじゃない。魂の強さで決まるんだってことをね!」




つづく

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ゴールデンウィークは更新頻度2倍!

しばらくの間、毎日0時と12時の1日2回更新を実施します。

長期休暇に、アンデッドとの冒険はいかがでしょうか。


読了ありがとうございました。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


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