15,思案
那月の部屋に行った、翌日。
俺はバイトを休んで、今後のことを――那月未来に生きてもらうために、どのように行動すれば良いかを考えていた。
何もしなければ当然、前回と同じ結末をたどることになる。
そうならないためにすべきことは――、文化祭初日にあった出来事を、回避すること。
あの日の出来事以降、俺と那月の関係は変わってしまった。
あの時、屋上で震える那月を、決して一人にするべきではなかった。
だから今回は、那月が一人になってしまったそもそもの原因を、無くす。
那月があの日、屋上に一人でいたのは、学校の誰かから嫌がらせを受けたからだろう。
そして、俺との関わりもなくなり、誰に頼ることも、救われることもなく、自ら死を選んだ。
――2周目の俺は、そうなることを望んでいた。
自分と一緒に、死んでもらうために。
なのに今回は、自分が未練を残さずに死ぬために、彼女には生きてほしいと考えている。
どこまでも自分本位な下衆な俺に、我がことながら反吐が出そうになる。
……自嘲をしても、現状は変わらない。
だからせめて、頭を働かせ、那月に嫌がらせをしそうな人間は誰がいるかを、考える。
――同じ学校の生徒は、可能性だけならば全員あるだろう。
それくらいには、那月は嫌われている。
しかし、普段から受けている程度の嫌がらせで、虚勢を張る元気もないくらいに追いこまれる那月ではないはず。
では、普段よりも酷い嫌がらせをしそうな人間がいるかというと――二人ほど、思い当たる。
一人目は、伊織だ。
俺の言葉で、那月に対する嫌がらせは一旦やめていたようだが、元々那月のことを毛嫌いしていた彼女のことだ。
何かしらキッカケがあれば、これまで我慢をしていた分を上乗せした激しい嫌がらせをすることも、十分に考えられる。
そしてもう一人は――今宵だ。
そもそも今宵は那月を無視していたし、彼女の悪口を陰で言うくらいには嫌っていた。
だが――夏休み明けに初めて見た、嫉妬を宿した今宵の眼差しを思い出す。
あの時、伊織と仲良くなったことを平然と俺は認めたが、那月との仲を邪推された時に怒りを見せてしまった。
もしも今宵が犯人なのであれば、きっかけはまさしくあの時のことなのだろう。
――俺の予測に確証はない。
それは、文化祭初日のあの日から、一緒に飛び降りる最後の日まで、俺は那月と一切の会話をしていないから、犯人の正体を知らないでいるから。
あの時、俺が彼女に寄り添うことが出来ていたなら、少なくとも犯人探しに困ることはなかったはずだ。
その過ちを、決して無駄にしてはいけない。
前回の経験を生かせば必ず……悲劇を避けられるはずだ。
俺は携帯を操作し、電話帳を開く。
登録されている彼女の名前を選択し、俺は電話を掛けた。
3コールの後、電話に応答する声があった。
『もしもし?』
その言葉を聞いて、俺は単刀直入に、彼女に告げた。
「今度、バイト休みの日に。俺とデートしてくれない?」





