酒盛り 葵目線
おひさしぶりです。
「で、出来た~」
季節は夏が突然秋を追い越して冬になったような寒い日。
その日、漸く命に渡すための指輪が完成した。
米の稲穂の巻き付いたようなデザインでダイアのシンプルな指輪を下にして二連でつけると稲穂に朝露がついているように見えるようにした。
命は喜んでくれるだろうか?
突然不安がよぎる。
命に同棲したいって言って断られた時、心臓が止まるかと思うぐらいショックだった。
同棲したいんじゃなくて結婚したいんだって言われて、どれだけ安心してどれだけ焦ったかなんて命は知らないだろう。
指輪の内側にブルーダイアがはまり、俺と命の名前が入っている。
自分用の米の稲穂は太めに作り、お互いの名前が内側に入っている。
ブルーダイアは『幸せ』って意味があるらしい。
指輪の内側に入れることで『相手の幸せを願う』って意味になる。
命に幸せになってほしい。
いや、命を幸せにするのは俺だって気持ちで作った指輪だ。
俺はカレンダーを見つめた。
記念日は女性には大事なんだろ?
命の誕生日は1月。
俺の誕生日は3月。
一番近いのは12月。
く、クリスマス………イヴ?
ベタすぎじゃないか?
今すぐにでも指輪を持ってプロポーズしたい。
けど、命には最高のプロポーズをしたい。
取りあえずネットで『プロポーズ時期ランキング』で検索。
やはり、ランキングの上位にクリスマスって言葉が出てきた。
クリスマス………
俺は暫く悩むと、命の兄である魂さんに電話をかけた。
『モシモシ、葵君?どうした?』
「あの、命にプロポーズしたいと思ってまして………俺はすぐにでもプロポーズしたいんですが、記念日って女性は大事ですよね?」
『………葵君、会おっか』
「へ?」
『家、解るよね!今すぐ家においで』
魂さんはそれだけ言って電話を切ってしまった。
俺は指輪を持って魂さんの家に急いだ。
魂さんの家につくと、魂さんの奥さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃい」
「何だか、すみません」
「何で?相談してくれてコンさん嬉しそうだったのよ」
そう言ってもらえると助かる。
俺は、魂さんの奥さんに連れられてリビングに向かった。
「葵君、いらっしゃい」
「魂さん、すみません突然」
「良いんだよ。座って!で、プロポーズする時期だっけ?」
「はい」
珈琲を淹れて持ってきてくれた奥さんも魂さんの横に座った。
「記念日って女性は大事ですよね?だからこそ、クリスマス……イヴにプロポーズした方が良いのか?って悩んでまして………」
俺の言葉に奥さんは、きゃーっと叫んだ。
「コンさん、聞いた!こんな良い男がミコちゃんの彼氏なんて素敵!」
「えっ?今、僕ディスられてる?」
「フフフ」
「ディスってるんだね………葵君、気にした方が良いらしいよ………一般的には」
「一般的には?」
魂さんは苦笑いを浮かべた。
「ミコはあまり気にしないと思うよ」
「へ?」
拍子抜けする言葉に奥さんが苦笑いを浮かべた。
「あのね。コンさんが悪いのよ。コンさんが私にプロポーズしてくれたのが何の変鉄もない2月の25日だったの」
な、何故その日に?
「2月なら、節分もバレンタインデーもぞろ目のニャンニャンニャンの日もあるのに25日!3月3日でひな祭りでも良くない?」
「………あれはアリスに煽られたからでしょ!早く早くって言うからだし、25日が給料日だから忘れないとおもったんだもん」
こ、魂さん………駄目だと思う。
「しかもコンさん、ミコちゃんに何もない日にプロポーズした方が何でもない日が記念日になって素敵だろ?って言い訳して!ミコちゃんはコンさん大好きだから納得しちゃって!酷くない!」
………えっ?
じゃあ、何でもない日にプロポーズした方が良いのか?
「ミコはいつでも喜ぶと思うよ。それに、結婚記念日は二人で決めれば良いんだしね」
「あっ!」
言われてみればプロポーズしてその日のうちに入籍する訳じゃない。
なら、プロポーズは何時でも良いのか?
何だか今すぐ命に会いたい。
命にプロポーズしたい。
命を抱き締めたい。
「吹っ切れた?」
「………はい」
俺は苦笑いをして言った。
「今すぐ命に会いに行ってきます」
「頑張りなよ。僕の新しい弟君」
「断られたら慰めてくれますか?」
「断らないと思うけど」
「同棲したいって言ったら断られたので怯えてます」
「………葵君、頑張っ!」
「はい!うんって言ってもらえるまで頑張ります」
「良いね」
俺は魂さん夫婦に頭を下げると、車に急いだ。
車に乗ってエンジンをかけるとすぐに命にメールした。
『会いたい』
帰ってきた返信に俺はエンジンを止めた。
『ごめん。さっき急ぎの仕事が入って、二時間後の便でイギリスに行く事が決まっちゃって空港に向かってる12月23日まで日本に帰れません!メール打とうと思ったところでメール来たからビックリしちゃったよ!クリスマスイブに会いたいんだけど予定空けといてほしいです!行ってきます~!』
俺は車からおりるとコンさんの家の呼び鈴を鳴らした。
「どうした?忘れ物?」
俺は無言でメールを魂さんに見せた。
魂さんはメールを見ると、盛大に吹き出すとお腹を抱えて笑いだした。
「笑いすぎです」
「ぶふふふ、ごめんね。今日は泊まっていきなよ。良い酒出してあげるから一緒に飲も。慰めてあげるよ」
「………俺も魂さんみたいな落ち着いた良い男に生まれたかった」
「僕も葵君みたいなプチマッチョに生まれたかったよ」
「プチマッチョぐらいならすぐになれますよ」
魂さんはニコッと笑った。
「どんなトレーニングしてるのかデータとらせてもらっていい?」
「………魂さんのためになるなら」
「さすが僕の弟!」
のせられたのは解ったがこのやるせない気持ちを一人で消化できるきがしなかった。
俺は魂さんと酒盛りをしながら魂さんにクリスマスイブにプロポーズすると宣言したのだった。
次で終わります。
たぶん。




