第十三話 二人で買い物〜千早サイド〜
「でね、私が良く聞いている音楽はね……」
「へえっ、そうなんだ〜」
なおくんが、今、流行っている音楽が、何かを聞いているけど。
私は、他の娘と付き合いが無いので、良く分からないから。
私が聞いている音楽を話している。
それに対し私も、なおくんに未来の流行りを聞いてみたけど。
好みが細分化されて、皆が同じような音楽を聞いていないって話だった。
ただ、私が興味を持ったのは、現実にいないアイドルに人気があって。
そのアイドルに、自分の歌わせたい歌を、歌わせる事が出来るようになっている事だった。
また、そのアイドルが世界的にも人気がある事も分かった。
――へえ、未来の音楽って、そうなっているんだ〜
なおくんが、私に色々と話し掛けている内に、さっきまでの嫌な空気が少しは柔らいだ。
彼が私に気を使ってくれたんだね。
私が話を振って、嫌な空気にしたのに、それでも気遣ってくれる。
そう言えば、なおくん歩くのが少し早い気がするが。
今は、私の歩幅に合わせて歩いてくれている。
私は、なおくんのそんな優しさに、心の中で感謝したのだった。
・・・
「ウチは、いつも、ここで買うんだよ」
そうやって、彼と話をしている内に、駅前の集落にやってきた。
いつもここで、色々な買い物をしているけど。
なおくんに必要な物は、多分、雑貨屋に行けばあると思うんだけど。
いつもの店に行くと、恐らく家に、知らない男の子と一緒に行っていた事が、筒抜けになってしまう。
そんな事になったら、特にお父さんがどう騒ぐのやら。
そう言った理由もあり。
今回は殆ど行ったことが無い、お店に行くことをなおくんに説明した。
「ごめんくださ〜い」
挨拶しながら、開けづらい木製の引き戸を開けて、中に入る。
「いらっしゃいませ〜」
するとイキナリ、大きな声で返事が来たのでビックリした。
「あら〜、珍しいわねえ、可愛いお客さんとは」
えっ、可愛いって……。
「……すいません、色々と買い出したいので。
しばらく、店の中を見せて貰って良いですか?」
「はいはい、じゃあ決まったら呼んでよ」
店のおばさんから可愛いと言われ、何だか恥ずかしくなった。
「じゃあ、なおくん、何が要る?」
そんな恥ずかしい思いを、誤魔化すかの様に。
私は、隣で微笑んでいる、なおくんに聞いてみる。
「ん〜、シャンプーと石鹸は千早ちゃんと別にした方が良いと思うから。
買った方が良いかな?」
「別に私は、なおくんに使って貰っても平気だけど……。
あっ、シャンプーは男性用が良いかも」
確かにそうだね、私が使う女性用とは違うと思うから。
だったら、お父さんの使っているのを、借りたほうが良いのかな?
「だったら、私のお父さんのトニックシャンプーがあるんだけど……。
どおかな?」
「トニックシャンプーかあ……、だったら使わせて貰うよ」
何か、なおくんチョット歯切れが悪そうだが、とりあえずは使ってはくれるみたいだ。
シャンプーは若干減るけど。
お父さん、使ってて無くなったことに気付かない位、鈍いだから。
チョットくらいだったら、分からないだろう。
それと後は、下着だよね……。
「後は、……下着だね。
お願い、それは、なおくん、自分で選んでちょうだい……」
いつもは洗濯の時、お父さんの下着を扱っているはずなのに。
彼の下着だと思うと、何だか恥ずかしくなってくる。
「う、うん、分かったよ……」
そんな私を見た所為か、なおくんも返事がおかしかった。
こうして、私に釣られ様子がおかしくなった彼は。
下着のある棚へと、そそくさと向かった。
・・・
しばらくして、選んだ下着を持って、なおくんが戻ってくる。
「ちょっと千早ちゃん、悪いけど、使った後の下着。
一回だけしか使わないけど、千早ちゃんが処分してくれないかな?」
「なおくん、どうして?」
「この下着だけ持っても、荷物として中途半端で邪魔になるし。
それに、この時代の物を、未来に持ち帰れるかどうかも分からないから」
「確かにそうだね。
でも、お父さん以外の男性の下着があるのは不味いから、こっそり捨てるしかないけど」
「ホント悪いね、せっかく千早ちゃんに買って貰ったのに」
「ううん良いよ、なおくん」
とイキナリ、なおくんに、そんな頼み事をされる。
普通だったら、そんな頼み事なんて聞かないけど。
彼は、未来から来たし、普通とは状況が違うから。
それに、“なおくんの頼み事なら、何でも聞きたい”。
そう思いながら、彼に持ってきた下着を、私のバッグに入れる様に言った。
「すいません、お勘定をお願いします〜」
「はいはい〜」
私が店の奥に向かって、おばさんを呼ぶと。
口調とは裏腹に、ノンビリした様子でおばさんが出てきた。
それから、カウンターの上に、なおくんが選んだ商品をバッグから出して置が。
恥ずかしくて、なるべく見ないようにしていた。
「あれ、ひょっとして新婚さんかねぇ〜」
持ってきた物と、私達を見たおばさんが、急にそんな事を言って笑っている。
――えっ、新婚さんって……。
確かに、なおくんの下着を私が買っているから、そう誤解されたかもしれない。
……でも、新婚さんなんて、恥ずかしいなあ。
私は恥ずかしさの余り、思わず下を向いたが。
しかし同時に、心の中では。
うふふ、なおくんと新婚さんだって♪
飛び回りたい位の嬉しさが、沸き起こってもいた。
「う〜ん、初々しいねえ」
そんな私を見ながら、おばさんが続けてそう言う。
私は、しばらくの間。
二人を見ながら笑っているおばさんと、そんな状況に狼狽えるなおくんに挟まれ。
相反する感情に悩んでいたのであった。
・・・
それからしばらくして、買い物も済んでやっと開放された私達は。
店を出た所で、やっと安心する。
「ごめんね千早ちゃん。
あんな誤解される事になって」
まだ恥ずかしさが残っていて。
俯き加減の私に、なおくんが謝ってきた。
「ううん違うの、確かに恥ずかしかったけど。
でも、なおくんと一緒にいて、新婚さんと言われたのは、チョット嬉しかったんだよ」
申し訳無さそうにしている、なおくんに。
私は、顔の前に手を合わせながら勇気を出し、正直に今の気持ちは話す。
(ギュッ)
私の言葉を聞くと、なおくんが微笑みながら、私の手を両手で握ってきた。
「あ、ああっ! ご、ごめん」
(ギュッ)
すると、なおくんが。
自分のやって事に気付いたのか、謝りながら手を離そうとしたけど。
私は、離れようとするその左手を急いで、右手で掴んで離さなかった。
「良いよ、なおくん。
手を繋いで行きましょうよ♡」
私は彼が、嬉しさの余りやったのだと理解すると。
そんな彼に微笑み返しながら、一緒に手を繋いで歩き始めた。




