全国大会の地、ダギラング
アルトと共に魔法列車に乗り込んだエミリーは、そのままの流れで彼の隣の席に腰を下ろそうとした。
この二人掛けの座席で長時間、しかも魅力的なチア衣装を着込んだ状態で一緒に居れば、アルトの気を引くことが出来るかもと考えてのことだ。試合本番前にも関わらず、制服を脱ぎ捨てて来たのはこのためで、積極的なアピールをしてアルトを虜にしようと画策したのである。
だが、そう上手くはいかないのが世の中だ。
案の定というか、横槍が入ったのだった。
「ちょっとエミリーさん! アルトさんの隣はわたくしの指定席ですのよ!」
と叫ぶのはリンザローテで、既に着席しているアルトの隣をビシッと指さす。
「なにが指定席ですかっ! まったく適当言っちゃって、私が先に座ろうとしたんですよ!」
「わたくしとアルトさんは学校代表選手として共に戦う間柄なのですわ。ですから、移動時間にデュエルに関する相談や戦略を立てて有効に活用したいのです」
などと即興で思いついた理屈を喋るリンザローテ。頭の回転の速さをこんな場面で活かすのはどうかと思うが、アルトが懸かっているとなれば何事でも全力になるのがリンザローテなのである。
ともかく咄嗟の言葉とはいえ合理的な理由を突きつけることに成功し、エミリーがこれ以上の正論を突きつけてくるのは不可能だろうと得意げな顔になっていた。
「チィ…! もっともらしい理由を…!」
「オーホッホッホ! わたくしの勝ちですわ! ここは譲っていただきます!」
ぐぬぬと悔しがって動けないエミリーの前を通り、リンザローテは軽やかな足取りでアルトの隣に座ろうとするが、
「コ、コマリさん!? いつの間に!?」
コマリがちょこんと陣取っていたのである。
実はコマリも密かにアルトとの相席を狙っていて、音もなく忍び寄っていたのだ。
そして、リンザローテとエミリーがやり合って注意力散漫になっている隙を突き、スッと気が付かれぬまま座席の確保に成功したのであった。
「ア、アルトさん……ク、クッキーをドウゾ……わ、私の手作りです……」
「ありがとうございます。まだ昼ご飯を食べてなかったので、丁度お腹空いていたんです」
意外にもしたたかなコマリは、クッキーまで用意していたようだ。ウサギの形をしたソレは小さなビンの中に複数詰め込まれており、アルトが一つ手に取り口に運ぶ。
「とても美味しいですよ。お菓子作りも得意なんですね?」
「は、はい……こ、これも趣味なので……」
「コマリ先輩はセンスの塊ですね。絵も上手ですし、手先の器用さが羨ましいです」
「そ、そんなことないですよ……」
などと謙遜するコマリだが、アルトからの褒め言葉に有頂天になってニコニコとしている。アルトにだけ見せる特別なスマイルで、恋する乙女の表情であった。
「……うーん、邪魔できませんな。会長、ここは引き下がりましょうや」
「……仕方ありませんわね」
ここに割り込むほどエミリーもリンザローテも非情ではない。
素直に負けを認め、二人はアルト達の後ろの席に着席して監視任務に勤しむのであった。
ドワスガルを出発して数時間、魔法列車は徐々に減速を掛けて降下を始める。いよいよ全国デュエル大会の会場がある街へと到着したのだ。
「大きな街ですね? えっと、ダギラングって名前でしたっけ?」
窓から外を眺めていたアルトは、眼下に広がるダギラングの街を見渡す。規模としては王都には及ばないものの、相当な面積であり多数の建物がひしめき合っている。
しかも、海に面しているため海洋貿易の中心地として栄えており、港には大きな船舶が幾つも停泊しているのが見えた。
「そ、そうです……こ、ここはラング地方最大の街であり、今年の全国大会の会場となるダギラング魔法高等学校があるんですよ」
全国デュエル大会は毎年会場が異なり、各魔法高等学校が順繰りで当番を務めることになる。
今年はダギラング魔法高等学校の番で、街全体で他校の生徒や来賓を歓迎するムードになっていた。
「ようこそ、ドワスガル魔法高等学校の皆様」
と駅にてドワスガル一行を出迎えるのは、デュエル大会の運営を担う大人達である。彼らは王都から派遣されて、スムーズに大会が進行するよう各校のサポートも行っているのだ。
その運営に対応するのは引率のアネット教頭であり、生徒会長であるリンザローテも立ち会う。
「皆さん、今日のところは宿へと移動しますよ。大会の開幕式と本番は明日からとなりますからね」
大会の開始は明日からであり、既に夕刻時を迎えている今日は宿にて休息を取る手筈となっていた。
アネットは運営からスケジュール表を受け取り、アルト達に移動を促す。
「リンザ先輩、俺達が宿泊する宿って相当に大きいんですよね? ドワスガルの学生だけじゃなくて、他校の生徒達も同じ場所に泊まるらしいですし」
「ええ、ダギラングは海外からの渡航客が多いことから複数の宿泊施設が存在していますが、今回我々が利用する宿が街で一番大きいですわね。ところでアルトさん……部屋割りなのですが、わたくしと同室はいかがでしょうか?」
「な、なにを仰る!? それは……マズいでしょう、イロイロと!」
リンザローテの提案に、アルトは素っ頓狂な声を出して首をブンブンと振る。
本音を正直に言うと、かなり嬉しい話ではある。超絶美人の上級生と二人きりで過ごせるというのは、大抵の思春期男子にとって憧れるシチュエーションであり、アルトとて例外ではなかった。
しかし、流石は真面目人間アルト。年頃の、しかも学生の異性が寝床を共にするのは絶対に良くないという理性がギリギリで働いたのだ。もしこれがウィルならば、泣きながら速攻で同意していたろう。
「あら、アルトさんったら恥ずかしがらなくてもいいんですわよ。わたくしとアルトさんの仲じゃありませんの」
誘惑するように、リンザローテはアルトの腕に抱き着く。その豊かな胸を武器として、ギュッと密着してアルトの理性を破壊しようとしているようだ。
だが、
「生徒会長め! アンタって人はーッ!」
人を掻き分け、エミリーがリンザローテに吶喊する。その猪突猛進ぶりは並みの魔物など比較にならず、圧倒的なパワーと気迫を感じさせた。
「くっ、エミリーさん…!」
「そうやって既成事実を作ろうとしたのかぁぁあ!」
「そうではありますが…ッ!」
「教頭先生ー! ここに風紀を乱そうとしている悪いヤツがいまーす!」
「こ、こらエミリーさん! なんて卑怯な!」
エミリーの迫真の叫びが駅舎に轟き、それを聞きつけたアネットは何事かと怪訝そうな顔をして近づいてくる。
「一体どうしたのですか?」
「実はですね……」
事情をかなり省略、しかも話を盛ってエミリーはアネットに伝える。リンザローテには卑怯と言われたが、ここで本当に既成事実などを作られてしまっては完全敗北となるので許すわけにはいかないのだ。
「リンザローテ・ガルフィア、まったくアナタという人は……自分が生徒会長であるという自覚を忘れてはいけませんよ。特に、このような他校との交流の場では」
「いえ、あの、教頭先生……わたくしとアルトさんは、試合前に特別な訓練をする予定で……」
「何が特別な訓練ですか、そんな意味深な……ともかく、アナタはわたしの部屋に泊まりなさい」
「そ、そんなっ!」
教頭に腕を掴まれ、アルトから引き剥がされて連行されるリンザローテ。
その姿は哀愁に満ちていたが、ただ見送ることしかできなかった。




