チアリーダーなエミリー
デュエル会場の入り口にてアルトの首根っこを掴み、今にも殺傷せんとばかりに魔力を増幅させるヴァルフレア。
どうせ闇魔法士に合流する予定だし、いずれ殺すべき相手なのだから手を下してしまってもいいかと短絡的な思考になっていた。
「いい加減になさい、ヴァルフレア! このままアナタを暴行の罪で退学させることもできますわよ!」
「リンザローテか……」
だが、そこにリンザローテが乱入したことで冷静さを取り戻す。
ここで早まった事をしてしまっては、グレジオから聞かされた計画に参加出来なくなってしまうわけで、お楽しみは後に取っておこうとアルトから手を離した。
「生徒会長には、特待生を罰する権限は無いハズだが?」
「それは……ですから、校長先生に直訴すると言っているのですわ!」
「ふん……これは単なるスキンシップさ。そうだろう、アルト・シュナイド?」
今更何を言っているのかとアルトは怪訝な顔をするが、ここで騒動を大きくして大会出場に支障があっては困ると、あえて言及はせず押し黙る。この男と共闘するなど御免ではあるものの、それでもS級としての戦闘力は惜しかったのだ。
「俺は先に行っているぜ」
ヴァルフレアは鋭い眼光を向けてくるリンザローテを一瞥し、会場の中へと消えていく。
どのみちリンザローテを手に入れられるという余裕があるからこそ、反抗的な態度をしていても許したのだ。これが少し前までであれば、難癖を付けてでもリンザローテを言い負かして威圧していたことだろう。
「アルトさん、大丈夫ですの?」
去って行くヴァルフレアに舌打ちしながらも、リンザローテはすぐさまアルトのもとに駆け寄る。そして傷などがないことを確認し、ホッと一安心して胸を撫で下ろした。
「やはり、ヴァルフレアを学校代表から外すよう校長先生に訴えるべきでしたわね……」
「大会を通じてヤツの性格に何か変化があるかも…しれませんよ」
「そうでしょうか……」
ヴァルフレアも昔はマトモであったとなれば、キッカケさえあれば更生するかもしれないとアルトは多少の期待をしているようだ。いけ好かない相手ではあるが、闇魔法士のように完全な悪に染まっていないのなら手遅れではないと信じたいのだろう。
そして、この全国デュエル大会こそがそのキッカケとなればいいと思っているのだが、残念ながらアルトの希望が叶うことはない。
何故なら、アルトの想像以上にヴァルフレアの心は堕ちているのだ。未遂に終わったとはいえ、殺人を首謀した程に。
「せめてデュエルを本気でやってくれれば、その中で何か得られるモノもあるかもしれません。リンザ先輩の知る、以前のヴァルフレアに戻ってくれる可能性だってゼロじゃないと思うんです」
その考えが甘かったとは、今のアルトに知る由は無い。
デュエルクラブのメンバーを相手にした実戦形式の訓練を終え、昼刻となってアルト達は全国デュエル会場へ移動するべく駅へと向かう。
既に駅舎には応援団として随伴する学生や、引率を行うミカリアなどの教師も集まっていて、まだ試合は始まっていないのに熱気に包まれていた。今年はアルトという有望な新入生が現れたこともあり、これまでとは違って良い結果を残せるのではないかと期待しているのだ。
「おはよう、アルト君! ねぇ、見てこの衣装!」
魔法列車を待つべくホームに上がろうとしたアルトに、いつもより元気度の増しているエミリーが声を掛ける。午前中のバイトによる疲労など全く感じさせないテンションであった。
「エミリー、その格好は…?」
「試合応援と言えばチアリーダーって決まってるじゃん! でもお店で売ってなかったし、手作りしちゃったんだよねー!」
エミリーが纏うのは、いわゆるチア衣装という物で、これは古代文明の時代から受け継がれる選手応援のための伝統的な服装だ。
可愛らしさは勿論のこと、黄色を基調とした明るさがフレッシュで眩しく、もともと美少女であるエミリーを更に着飾ってアルトをドギマギさせる。
「どう? 似合ってる?」
「とてもよく似合ってるよ。にしても、自作するなんて凄いね。市販品以上の完成度だ」
「あらもう、そんなにジロジロと見ちゃって。アルト君ったらエッチなんだからぁ」
「い、いやそーいう風に見ては……」
エミリーのからかいにアルトは赤面しつつも、逆に意識をしてしまう。
というのも、スカートはかなり短めでスラッとしたフトモモが大胆に露出し、しかも胸元も緩く谷間がチラリと露わになるのだ。
健康的なエッチさが年頃の男子を刺激し、アルトのみならず近くにいる生徒達のチラチラとした視線が飛んでいる。
「でも魅力的でしょ? 実はね、デザインをしたのはコマリ先輩なんだよ。それを元に私が作ったってワケ」
「コマリ先輩が? エミリーと先輩って交流あったっけ?」
アルトの特注制服をデザインしたのもコマリだし、彼女のセンスの良さはここでも発揮されていた。画力の高さも勿論だが、形を考え出す想像力も並大抵ではない。
しかし、アルトが気になったのはコマリとエミリーの繋がりだ。アルトを通じて面識はあっても友人という深い関係ではないし、性格的にも真逆といっていい二人が共通の事柄に取り組むという事態が驚きであった。
「まあ同じモノを奪い合うライバルとしての繋がりは……」
「?」
「いや、それはどうでもよくて、実は前に学食でコマリ先輩を見かけたのよ。でね、アルト君の制服をデザインしたことを思い出して、チア衣装もお願いしてみたんだ。そうしたら快く引き受けてくれて」
「ナルホドね」
エミリーからすればコマリはライバルの一人だが、同時に同志でもある。アルトという男の気を引くために、共同戦線を張ることだってあるのだ。
「で、私だけじゃなくてコマリ先輩も来ているんだけど……ドコだろ?」
「え、コマリ先輩もチア衣装を着て応援団に参加しているの!?」
「うん。せっかくだし、是非ご一緒しましょうって誘ったの」
「あのコマリ先輩が……」
かなり内向的で、社交性の無いコマリが応援団に加わるなど考えてもみなかったことだ。てっきり、今回の全国大会には関わらないものだと勝手に思っていたのである。
「あ、いたいた! コッチですよー、コマリ先輩!」
と、エミリーはコマリを見つけたようで、大声で名前を呼んで手招きをした。
アルトもエミリーの視線の先に目を向けると、そこにはエミリーと同じチア衣装に身を包んだコマリが恥ずかしそうに縮こまっていた。隣にはシュカとナリアが付き添っていて、母親のようにその肩に手を掛けてアルト達のもとへ行きましょうと促す。
「あのあの……わ、わたしもアルトさんを応援しようと思いまして……」
いつも以上に緊張しているコマリは足をプルプルと震わせていて、まるで産まれたての小鹿のようだ。
しかし、エミリーとはまた違った庇護欲を誘う愛くるしさがあり、これはこれで男子人気が出そうだなとアルトは思う。
「嬉しいですよ、コマリ先輩。シュカはウィルの応援だね?」
「ま、ウチくらいはウィルを見ていてあげないとね~。誰からも見向きされなくて泣いちゃうかもだし」
とコマリの横に立つシュカもチアリーダー姿で、元気ハツラツな彼女にピッタリと当てはまっている。エミリー達の中では、もっともお似合いだと言えよう。
そうこうしている内に魔法列車の駆動音が空気を振動させ始め、いよいよ全国大会への出発の時刻を迎えた。




