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闇に染まった男の覚悟と夢想

 とある休日、ヴァルフレアは手紙を握り絞めながら魔法列車を降りる。

 特注のローブ型制服ではなくラフなパーカーを着用し、フードを目深に被って周囲の目を気にしているようだった。


「グレジオめ……ったく、出迎えくらいしてくれたっていいだろうが」


 と愚痴を漏らしながら、駅舎のホームを一人歩く。

 最近の彼は機嫌が悪い日の方が多く、何に対しても苛立ちを覚えているのは思春期のせいではなくて、アルトという目障りな存在が頭から離れないからであった。


「クソ……普段来ないから慣れてねぇんだよ、この街には」


 今日ヴァルフレアが訪れたのは、ドワスガル魔法高等学校に最も近い街であるリグ・ディアスだ。規模はそれなりであるが自然豊かで、建築物と木々が共生しているかのような景観は心を落ち着かせてくれる。人工物の多い王都とは真逆の街並みだ。

 そんなゆったりとした雰囲気の場所とヴァルフレアは無縁なようにも思えるが、グレジオに手紙で呼び出されて仕方なく足を運んだのであった。


「ここか…?」


 リグ・ディアス中心部から離れ、外郭部にある別荘地帯にてキョロキョロと辺りを見渡すヴァルフレア。

 ここには、いわゆるログハウス形式の住居が湖を取り囲むように点在していて、吹き抜ける風や虫の鳴き声以外の音は聞こえず、疲れた心身を癒すには最適の場所だろう。


「来たか、ヴァルフレア。待ってたぜ」


「…久しぶりっすね、グレジオ先輩」


 いつの間にか背後にグレジオが立っており、視界外から声を掛けられたヴァルフレアは少々ムッとしながらも返事をする。

 というのも、ヴァルフレアはグレジオに対して尊敬の念など持っておらず、むしろ面倒な相手だなと彼が在学中の時から思っていたからだ。先輩風を吹かして不愉快だったし、グレジオがいなければドワスガルのS級は自分だけとなって、もっと楽しめたはずと考えていたのである。

 だが、それをなるべく態度に出さないよう努める。グレジオを利用すれば闇魔法士との繋がりも出来て、この鬱屈とした現状を変えるキッカケを作れるかもしれないと画策しているからだ。


「こっちだ、ヴァルフレア。実はな、ここのログハウスの一つを秘密結社ヨーツンエイルのメンバーが購入して、闇魔法士の隠れ家として提供しているんだ。人目に付かないから最適でさ」


「へえ、なるほど」


 訊いてもいないのに勝手に喋るグレジオの言葉に、ヴァルフレアは適当に相槌を打つ。本題でもない会話で気力と体力を消耗したくないのだ。

 そうしてグレジオに付いていくうちに、湖畔に佇む一軒のログハウスに辿り着く。


「ここだ。他にゃ人はいないから気楽にしてくれていいぜ」


 ”オマエと一緒の時点で気が休まらねぇんだよ”という文句を呑み込みつつ、グレジオに続いてログハウスの中に入る。

 内部は質素な作りで、家具などもほとんど存在せず人が生活するには不便であった。

 が、闇魔法士は別にここで暮らす気はなく、活動拠点として身を潜めるだけの空間さえ確保できればそれでいいのだ。


「で、話というのは?」


 ヴァルフレアは元から備え付けられていたのであろう小さな椅子に座り、サイドテーブルに肘を乗せる。どうやら掃除は行き届いていないようで、埃が舞って服に付着し、更に不快な気持ちになって眉をひそめた。


「オマエも知っているだろうけど、近々全国デュエル大会が開催される。俺達は、それを襲撃する」


「大会を…? なんでです?」


「学生とはいえ、S級や優秀なA級が集うわけだろ? ソイツらをまとめて拉致するのさ。ヨーツンエイルの連中が発掘保管している古代魔法生物兵器を蘇らせるために、生体エネルギーや魔力をソイツらから取り出すわけだな」


 古代ではいくつもの魔法生物兵器が開発され、例えばフェアリー族もその一種である。それらは文献上だけの存在ではなく、ヨーツンエイルや闇魔法士によって複数回収されているようだ。

 だが、フェアリーのキシュやベルギュミスのように即時起動が可能だった個体もいれば、仮死状態で機能停止したまま発見されたものもある。

 グレジオらは能力の高い魔法士から魔力や生命力を奪って、そうした古代生物兵器を復活させようと計画しているらしい。

 全国デュエル大会には多数の優秀な魔法士が集まるし、応援団の生徒も含めれば相当なエネルギーを接収できるだろう。


「ヴァルフレア、オマエは今年の大会には出るのか?」


「ええ、出ますよ。もしかして、俺のことも拉致しようなんて思ってないっすよね?」


「だから、こうして計画を教えたんだろ? でさ、そろそろ学校なんてヤメて俺らのところへ来ないか? 闇魔法士はいいぞ。何のしがらみにも囚われず、好きに楽しめる」


 今日の呼び出しは勧誘も兼ねていたのだ。グレジオにとってはヴァルフレアは可愛い後輩といったところで、退学になった後も接点を持とうとしているのは気に入っているからである。


「いいかもしれないっすね。飽き飽きしてるんすよ、ドワスガルにはね」


「なら、次の全国大会で俺達に合流してくれ。生徒達を運び出すのに人手が必要だからな」


「分かったっす。……ただ、一つお願いというか、要望があるんですけど」


 闇魔法士への加入は快く承諾しながらも、何か付帯条件があるようだ。

 ヴァルフレアは少々言いづらそうに視線を泳がせ、間を置いて再び言葉を続ける。


「大会にはリンザローテ・ガルフィアも参加するんですが、彼女を古代生物兵器の餌にするのはヤメてもらいたいんすよ。あの女は……俺にください」


「ああ、オマエが気に入っていたヤツか。てかオマエ、まだ手を出していなかったのかよ。さっさと抱いてしまえばよかったのに」


「他の女ならそうしていますよ。ですけど、ガルフィアはこのパラドキア王国において王家に次ぐ名家ですし、当主であるレオンハルト・ガルフィアは歴代最強の魔法士とも言われている……それを敵に回すのは怖かったから何も出来なかったんす。さすがに俺でも勝てる相手じゃない」


 現行のガルフィアは王家にも匹敵する家柄であり、尊敬と畏怖の対象となっている。しかも、その血縁者が国政機関や役所の重要役職に就くなどして、国家の中枢を制御する力さえ有しているのだ。

 その中でも、当主であるレオンハルト・ガルフィアはまさに別格であった。世界最強とすら噂されるほどに戦闘力が高く、しかも絶対的なカリスマ性を持っている男だと言われている。

 ヴァルフレアの言うように、これを敵にするのは自滅行為に他ならない。リンザローテを傷付けようものなら、瞬時にこの世から消されて終わりだろう。


「だけど、闇魔法士として表の世界から離れるのならば、やりようはある。どうせ王国と戦うことになるわけだし、リンザローテも手に入れて、気に入らないもの全てをブッ潰す」


「イイ心意気だ、闇魔法士ならそうでなくちゃな。ま、女の一人くらいオマエにくれてやるよ」


「なら何も躊躇うことはないっすよ。あとは、アルト・シュナイドを殺せば…!」


「アルトか……俺もいい加減に頭に来ているんだ。あんなヤツは餌にするまでもなく、次の作戦で確実に仕留める」


 共通の怨敵としてヴァルフレアとグレジオの恨み節を受けるアルト。ドワスガルでは英雄扱いだが、闇魔法士一派にとっては最悪の障害物でしかない。


「じゃあ細かい計画を教えるぞ」


 グレジオは全国デュエル大会襲撃について、詳細なプランをヴァルフレアに伝える。かなり入念に準備が進行しているようで、それらをヴァルフレアは頭に入れつつも、しかし彼の思考にあるのはリンザローテとの未来だけであった。

 傍に置いておけばリンザローテは必ず理解をしてくれて、妻として支えてくれるはずだと……

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