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ガルフィア家の恥晒し

 デュエル会場からの帰り道、リンザローテはアルトと二人きりなのにも関わらず落ち込んでいた。今日の訓練だけでも戦闘技量が上がったことを実感できたし、アルトから直接称賛を受けたのにも関わらずである。

 それは、自分の限界をリンザローテが感じていたからだ。


「リンザ先輩も、やはりS級を目指していらっしゃるんですね」


「魔法士の方々なら、S級は到達したい目標ですわ。特にわたくしにとっては……」


 少々思い詰めたように視線を落とすリンザローテ。それが何故なのか知りたいとアルトは思い、彼女が言葉を続けようとしていたので口を挟まなかった。


「わたくしの両親、そして兄弟姉妹は皆S級魔法士なのです。産まれ付いた時から。しかし、わたくしは家族で唯一A級で生を受けてしまった……一族の恥晒しなんですよ、わたくしは」


 自虐趣味は無いが、それでも自らを貶めざるを得なかった。

 彼女の言うように、今のガルフィア家の者は一様にS級魔法士なのだが、リンザローテだけがA級と格下なのだ。

 そうなれば、リンザローテという存在がガルフィア家の恥晒しであると後ろ指刺されてもおかしくない。この王国にて、王家に次ぐ名家であるガルフィアの血筋は、嫌でも注目を浴びてしまうのだ。


「だから、わたくしは魔法力の育成のために授業にも個人鍛錬にも真剣に励んでおりますわ。でも、それでも尚わたくしの力は伸びない……これが限界なのかもしれませんわね」


 魔法力は誕生時の等級で固定されるわけではなく、魔法の行使などによって鍛えることで成長していくものである。

 だが、誰でもS級にまで到達できるかというと、決してそうではない。残念ながら個人個人の才能には限界があり、大抵の場合はB級、よくてA級止まりがほとんどであった。

 足取りが重くなって歩むスピードが落ちるリンザローテに対し、アルトはどのように言葉を掛けてよいのか逡巡する。アルトのように産まれ付いてS級の人間が何を言っても、それは彼女の励ましにはならないのではと思ったのだ。

 しかし、ここで無言のままリンザローテと別れるのはイヤであったアルトは、歩幅をリンザローテに合わせた。


「俺にはリンザ先輩が感じている重圧や、家柄ゆえに背負ったものは想像できませんが……それでも、俺にとってあなたは尊敬すべき生徒会長です。魔法力がどうとか関係なく、立派な方だと尊敬しているからこそお力添えしたいと願ったのですよ。それは、俺だけじゃなくて多くの生徒会のメンバーだって同じはず」


 気の利いた一言が言えるほどの人間性はないが、素直に思ったことを伝えることは出来る。

 そして、その真剣さはリンザローテに届く。どうにか励まそうとしてくれている姿勢がリンザローテには嬉しかったし、気を使わせてしまったことが逆に申し訳なく感じていた。


「ありがとうございます、アルトさん。本当にあなたはお優しい方ですわ……」


 リンザローテは、荒んだ心が癒されていく感覚を味わいながら小さく微笑む。


「それに、これ以上リンザ先輩の魔法力が伸びないと決まったわけではありません。まだ希望を捨てるには早すぎますよ」


「あなたに鍛えてもらえれば、もしかしたらS級に辿り着ける時が来るかもしれませんわね。ですから、その……今後ともお時間があれば魔法の練習などにお付き合いいただければ嬉しいですわ」


「勿論、俺でよければ!」


 アルトにとっても、リンザローテと過ごせる時間が増えるのは得だ。ウィルほどではないがアルトだってお年頃だし、超絶美人の先輩と一緒に居たいと欲望するのは仕方がないことだろう。


「そういえば、魔法力を上げるための良い方法があったのを思い出しましたわ」


「え、そんなのあるんです…? てか、なんで服を脱ごうとしていらっしゃる!?」


 夜になったとはいえ、ここは外なのだ。周囲に人影は無く灯りも乏しいが、どこから誰に見られているか分からない。

 だというのに、いきなりリンザローテは特注制服を脱ごうと手をかけたのだ。肌触りの良さそうなお腹が露出し、豊満な胸も下半分が顔を覗かせる。

 そんなリンザローテの手を掴み、アルトは必死になって制止した。


「だ、だって……S級魔法士の方と性交渉をすることにより、交感反応が引き起こされて魔法力が向上すると書いてあったのですもの……」


「どこに…?」


「この前、ゴミ拾い活動中に拾った漫画本に」


「それエッチ系の本でしょう……」


 またまた成人向けらしきイカガワシイ本から知識を得たのだろう。

 というか、何故そんな頻繁に成人向け漫画が落ちているのか突き止めなければならないなとアルトは決意する。そもそも論として、未成年が集う学内にあってよい物ではなく、不正な手段で持ち込んでいるとなれば生徒会の一員として放置してはおけない。


「あと、S級魔法士と交わるってのはウソ情報なので信じちゃダメですよ」


「え、ウソなんですの!?」


「漫画内だけのご都合設定みたいなもので、いわば妄想みたいな……とにかく、例えS級とシても魔法力は鍛えられません」


「なんと残念……」


 本気でガッカリしているようだが、性交渉をする程の覚悟があったのかとアルトは驚くと同時に、その相手として選んでくれたことに内心喜んでいた。つまりリンザローテにとって、アルトは身体を委ねてもいい存在だと思ってくれている証左だからだ。

 しかし、そんな邪で不純な考えをアルトは振り払い、とりあえず半裸のリンザローテに服を直すよう進言する。こんな場面をエミリーにでも見られたらトンデモないことになりそうだし、リンザローテの尊厳のためだ。


「それより早く服を着てください! てか、行為に及ぶにしても何故に外で実行しようとなさったんです!?」


「その本では、外で行為に及ぶ方がコーフンする方もいらっしゃると書いてあったので……もしかしたら、アルトさんもそうした特殊性癖の持ち主かもしれないと……」


「いやいやいや! 決してそんな変わった性癖は無い…無いですから! 少なくとも外でとかはあり得ないので!」


「あらそうなんですの。うふ、また一つアルトさんについて知ることができましたわ」


「んなコト知っても仕方ないでしょう…?」


 ようやっと制服を元に戻したリンザローテは、先程まで恥ずかしい格好をしていたなど忘れたように小さく笑っている。羞恥心があるのか無いのか、よく分からない。

 しかし、アンニュイでセンチメンタルな気分は捨てることができたようで、アルトはホッとする。


「でも良かった、笑ってくれて」


「え?」


「さっきの悩みは完全に忘れられるものではないかもですけど、少しでも和らげられたらいいなって……」


「アルトさん……本当に、あなたの思いやりには頭が下がりますわね」


「いやそんな……リンザ先輩の柔らかな笑顔って素敵ですし、それを見ていたいという俺のエゴでもありますけどね?」


 と、照れくさそうに頭を掻きながらそう言うアルト。

 気恥ずかしくなるようなセリフを自然と口にしてしまったが、冷静な思考が戻ってきて赤面し、リンザローテを直視できなくなる。


「ふふ、アルトさんのおかげで元気が出ましたわ。明日からの訓練も、更に頑張れそうですわ」


 アルトの前に立つリンザローテ、その満面の笑顔は闇夜すら照らしそうな眩しさであった。

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