S級とA級の格差
校内の予選大会を通じてドワスガルの代表選手四人が出揃い、翌日からデュエル会場にて訓練が開始された。個々の攻撃魔法習得レベルは充分に高いので、実戦的な動きを身に着けるべくデュエル形式で模擬戦を行うのだ。
今はアルトがリンザローテ+ウィルのタッグを一人で相手にし、飛び交う魔法の中でも臆せず立ち回っている。
ちなみに、ヴァルフレアの姿はない。
「さすがアルト……オレとリンザローテ会長を同時に相手にしても互角以上に渡り合ってきやがる」
ウィルとリンザローテは学内で特に戦闘力の高いA級魔法士で、アルト以外の生徒で二人の挟撃に耐えられる者はいないだろう。
そのアルトは的確にバリアフルシールドと回避を使い分け、二人の魔法攻撃を無力化してみせる。フレイムバレットやアクアプリズンが迫りくるが、冷静に対処し一切ダメージを負っていない。
「今度はコチラからも攻撃をさせてもらう!」
防御に徹していたアルトは反撃に打って出る。
戦闘では攻撃と防御を瞬時に切り替えて、目まぐるしく変化する戦況に対応しなければならず、それを身をもって教え込む必要があるのだ。
アルトはウィルからのウインドトルネードを防いだ直後、お得意のフレイムバレットを連射してウィルとリンザローテの双方を牽制する。
「ったくアルトめ、無詠唱だとああいう連続攻撃が出来るんだものな……バリアフルシールド!」
A級以下の魔法士の場合、連射しようにも詠唱というワンクッションを挟まなければならず、どうしてもタイムラグが発生するのだ。
だが、アルトのようなS級は無詠唱で次々と魔法を放てるわけで、そのような相手と戦うのは難しく、実際にウィルは押し負けていた。
「くっ、バリアフルシールドが…!」
ウィルのバリアフルシールドに次々とフレイムバレットが着弾し、その連鎖する爆発に耐え切れず砕け散る。
それはリンザローテも同様で、彼女も防御を突破されて無防備になっていた。
「これがS級の……チィ、ダメか…!」
爆煙の中から、カース・サイレンスの力を秘めた魔法球が飛び出してくる。ウィルはそれを視認しながらも、もはや避けきれるものではない。
魔法球はウィルとリンザローテに直撃して、二人は声が出せなくなったため魔法を撃つことが不可能になり、この模擬戦はアルトの勝利となった。
「…ふぅ、さすがやりますわねアルトさん」
アンチカースによって沈黙を解除されたリンザローテは、汗を拭いながらアルトを褒め称える。
「しかし、リンザ先輩ならもっと俺を追い詰められたのでは?」
「だってぇ……デュエルとはいえアルトさんに攻撃するなんて、心が痛みますものぉ」
などと身をくねらせてアピールするリンザローテ。
いくら模擬戦とはいえアルトと戦うのは本意ではないし、交戦によって仲に亀裂が入るのは絶対に御免だと媚を売っているのだ。
「生徒会長はよく言うよ、カワイ娘ぶっちゃってさ! 入学式のデュエルの時は、本気でアルト君を痛めつけようとしたクセにねー!」
そうプンスコと怒りながらヤジを飛ばすのはエミリーだ。バトルフィールド脇に設置された休憩所から出てきて、ドリンク入りのカップをアルトに手渡す。
エミリーとシュカの二人は手伝いとして訓練に参加していて、このようにデュエルの合間にドリンクを運んだり、運動部のマネージャーのような役割を担っている。
これは単にアルト達のための献身というわけではなく、リンザローテがアルトとイイ雰囲気になったりしないか監視するためでもあった。
「ぐぬぬ、余計なコトを仰る…! だいたい、エミリーさんはアルバイトはどうしたんですの!?」
「訓練に合せてシフトを調整したんです! アルト君をサポートするのは私の役目ですもんねー!」
「抜け目のない方ですわね…! それより、わたくしにも飲み物を頂けますかしら!」
「ドーゾ!」
「あ、ありがとうございますわ!」
恋敵ではあるものの、そこはエミリーも不義理は働かない。キチンとドリンクを渡すし、リンザローテも受け取ってお礼を返している。
そんな三角関係を眺めつつ、ウィルはため息をつく。アルトに代わって二人の取り合いの対象になりたいと、心底羨ましがっているらしい。
「ここでアルトを倒せていれば、オレにもチャンスがあったかもしれないのになー。リンザローテ会長がオレにトキメいて、エミリーちゃんも見直してくれたかもなのに惜しかったぜ」
「本当にウィルは女の事ばかりなんだから……ま、ウチがいる間は不埒な行いはできませんからね」
「恋愛くらいフツーにさせてくれ」
シュカもまた監視目的であり、ウィルがリンザローテなどに近づかないよう警戒しているのだ。
「にしてもヴァルフレアはどうしたんだよ。アイツだって代表なら訓練に参加するべきじゃねーの? アルト、アイツにも声掛けたんか?」
「リンザ先輩と一緒にアイツのもとに行ってきたさ。でも、適当にあしらわれて終わりだった」
「余裕があるのか、はたまた単に参加したくないのか……」
「そりゃ後者でしょ。多分、というか確実に俺がいるのが嫌なんだと思う」
「子供かよ。そんなヤツが代表でいいんか?」
もっともな正論であるが、ヴァルフレアにとって代表権の獲得はアルトに引けを取りたくないというプライドのためであった。全国の場など正直どうでもよく、アルトだけが認められて自分が認められない事が許せなかったのだ。
つまり、アルトと同じ地位を得ただけで満足であり、鍛錬を積むなどという疲れる行為はお断りなのである。
「申し訳ありません、ウィルさん。可能な限り彼を説得してみますので……」
「いえ、お気になさらずリンザローテ会長。アイツなんかに頼らなくても、このオレが二人分の戦力となって活躍してみせますから!」
「た、頼もしいですわ」
「そうでしょうそうでしょう!! てことで、この訓練が終わったら気合いが入るような熱いデートを……」
どうしてもリンザローテをデートに誘いたいウィル。何かと理由を付けて提案するのだが、
「そんなに気合いを入れたいのなら、ウチが入れてやんよ!」
「うぎゃあああ!?!?」
再びのメガトンハンマーがウィルに叩きこまれる。ドゴォっと鈍い音と共に、クルクルと横回転しながらウィルの体は観客席まで豪快にフッ飛ばされた。
この際、ヴァルフレアではなくシュカを全国大会で暴れさせればいいのではと思うが、アルトは追撃を仕掛けるシュカを黙って見送るしかできなかった。
そうして訓練をしているうちに陽が完全に沈み、夜虫の鳴く時間となった。
今日はもう解散とし、翌日の放課後にまた集まる約束を交わして各々帰路につく。
「お疲れ様でしたわ、アルトさん。あなたに戦闘指導をしていただいて、以前よりも動きが良くなってきたと思えます」
「リンザ先輩にもともとセンスがあったからですよ。訓練の終盤の方では、リンザ先輩の魔法で追い込まれましたし、このままならきっと全国大会で大活躍間違いなしですね」
「そうなれば良いのですが……わたくしはS級に成長できていませんし」
リンザローテの小さなため息が空気の中に溶け込んでいく。
いくら戦闘能力が高くなっても、魔法力の等級が向上したわけではない。S級とA級では明確な差が存在し、実際にリンザローテとウィルがタッグを組んでもアルトに敵わなかったのだ。
そんなリンザローテの暗い横顔が、アルトは気になった。
今年最後の更新となります!
ここまでのストーリー展開や、キャラクターの描写はいかがでしたでしょうか? 気に入っていただけたエピソードなどがありましたら幸いです。
それでは、引き続き来年も本作を宜しくお願いします!
明日も更新しますので、次話をお楽しみに!




