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校内予選大会、開幕

 生徒会ミーティングが終わり、リンザローテはため息をつきながら椅子に深く腰掛ける。仕事で疲れたというわけではなく、途中で乱入してきたヴァルフレアのせいで精神的に疲弊しているのだ。


「お疲れ様です、リンザ先輩」


 と、アルトがコーヒー入りのカップを手渡してくる。リンザローテの様子を見て、給湯室で用意してきてくれたのだ。


「ありがとうございます、アルトさん」


「ヴァルフレアの件、あまり思い悩まないでください。俺も、生徒会の皆さんもリンザ先輩の味方ですから」


 そう言ってアルトは優しく微笑みかける。ヴァルフレアと言い合っていた時とは対照的な、穏やかで思いやりに満ちた表情だ。

 リンザローテは自分のために怒ってくれていたアルトも勿論好きだが、こうやって慈愛に満ちた眼差しを向けてくれるアルトはもっと好きで、独占していたいという気持ちが膨らんでいく。


「ふふ、こうして気遣って頂けるなんて、わたくしは幸せ者ですわね」


 カップのコーヒーを口に含み、その甘さを体に染みこませていく。

 子供舌のアルトは砂糖を多めに入れるのを当たり前のように考えており、他人へのコーヒーも自分用と同じような分量で提供してくるのだが、それが今はありがたかった。リンザローテの疲れた身と心には、最適な逸品である。


「あの、リンザ先輩。最近ヴァルフレアと関わることってあるんですか?」


「いえ、入学式の一件以来ほとんど接することはないですわね。たまに視線を感じたりはしますが……」


「視線を…?」


 ヴァルフレアが歪んだ感情をリンザローテに抱いているのは、アルトも察するところである。単純な好意だけでなく、自分を裏切ったことへの憎しみも入り交じってグチャグチャな気持ちになっているのだ。

 だからこそ、離反された後でもリンザローテを気にしてしまうのだろう。


「お節介かもしれないですけど、ヴァルフレアとは二人きりで会わない方がいいと思います。もしアイツが話があるとか言って呼び出してきたら、そこに俺も同席させてください。今回みたいにリンザ先輩に圧を掛けようとしてくるかもですし、守らせてほしいんです」


 そうアルトが真剣に心配するのも無理はないだろう。ヴァルフレアのような男は危険だし、二人きりで会ったらどのような危害を加えてくるか分からない。

 リンザローテはアルトにとっても特別な人間であり、彼女を守るためならなんだってするつもりだ。


「ええ、頼りにさせて頂きますわ。正直に言いますと、彼が怖いのです……さっきだって、アルトさんがいなければ竦んでしまっていたと思いますし」


「任せてください」


 力強く頷くアルトは心強く、言葉だけでなく魔法士としてのレベルもリンザローテの知るところで誰よりも頼りになる。

 そんな二人のやり取りを見てジト目を送るのはキシュであり、邪魔をしないよう窓枠に座っていたのだが、アルトがまるで恋人のようにリンザローテを思いやっている場面が面白くないのである。


「ったくダーリンたら……カッコつけるなら、あたしに対してだけでいいのにね~」


 口を尖らせて呟きながらも、しかしキシュは割り込もうとしない。

 というのも、アルトから咎められているからである。リンザローテやエミリーとのコミュニケーションは、アルトが良き学校生活を送るために必要なものであり、なるべく邪魔をしないようにと言い含められていた。

 それに、アルトの部屋にて同居しているのは自分だけという優越感が彼女を自制させたのだ。色々とアルトから相談を受けるし、真に彼を理解しているのは他の誰でもないと自負もしている。






 翌週、いよいよ学内デュエル大会が始まろうとしていた。敷地内にあるコロシアム型のデュエル会場には百名程の応募者が詰めて、闘争本能を呼び覚ますような熱気と興奮で包まれる。

 その応募者達の前に立つのは、リンザローテ・ガルフィアだ。


「皆さん、お静かに。既に対戦表には目を通していらっしゃると思いますが、今回は応募者多数ということもあり、AグループとBグループの二つに分かれて、それぞれのグループ内で戦っていただきますわ」


 本戦と同じくトーナメント方式ではあるが、全員を順番に対戦させていたら時間が足りなくなってしまう。

 そこで、二つのグループに分けて時短を目指したのだ。選手団に選出されるのは二人であるし、それぞれのグループでの優勝者を代表としてしまえば簡単だという理由もある。


「昨年に比べて選考会が盛り上がり、わたくしも嬉しく思います。我が校はこれまで全国大会で優勝したことはありませんが、皆様のこの情熱があれば今年こそは良い結果を残せるでしょう」


 去年よりも盛り上がりが増しているのは、アルトの影響が大きい。彼目当てで参加している女子生徒が多く、そのせいで人数が増えているのだ。


「では、”わたくしの補佐である”アルト・シュナイドからも一言」


 女子連中の目的などリンザローテもお見通しであり、彼女達を牽制するべく自分の所有物であるかのように強調し、隣に立つアルトの腰に手を当てコメントを促す。

 当然ながら女子達からはブーイングが飛ぶが、リンザローテは涼しい顔をして無視している。


「えー、本日はお日柄も良く……」


 緊張して硬直したように直立するアルトは、ベタでヘタな挨拶を口にする。大勢の前で闇魔法士相手に立ち回る勇気はあるものの、こうして耳目を集めている状況には慣れておらず、リンザローテのような余裕は一切無かった。


「アルトさん、そう硬くならないでくださいな。わたくしのように、ね」


 と、リンザローテは聴衆を更に煽るように、アルトの腕に自らの腕を絡める。

 これにはブーイングどころか、アチコチからヒートアップした女子達の怒号が聞こえてきて、挙句には不信任案を提出するぞという脅迫も聞こえてくる。これは恐らく生徒会メンバーの誰かだろう。

 そんな状況になればアルトは尚更に緊張してしまい、事前に用意していたコメント内容などスッ飛んでいってしまっていた。


「あのー……皆さん頑張ってください。我々と一緒に全国の場で戦いましょう」


 これがアルトの限界だ。

 多量の汗を流しながら引き下がり、リンザローテに進行を引き継ぐ。


「では、これより校内デュエル大会を開始しますわ。最初の試合の方々は、位置についてくださいな」


 こんな開幕宣言でいいのかと疑問に思わざるを得ないが、ともかくデュエルが滞りなく行われればいいのだ。

 リンザローテの指示を受けてゾロゾロと移動を開始した大会参加者の中には、ウィルとシュカの姿もあった。


「くっそー、アルトのヤツめ! オレだって生徒会長とイチャつきてぇのに羨ましいぞオイ!」


「あんたはまったく……そんなんで勝てるのかね?」


「勝つさ。アルトばかりにイイ思いをさせないもんね! てか、シュカまで出場することはないでしょうに」


「ま、腕試しとか暇つぶしみたいなもんよ。別に予選を通過してウィルと一緒に全国大会に出たいとか、そういうんじゃないんだから勘違いしないでよね!」


「そうかい」


 ウィルは肩をすくめつつ、すぐ近くを歩く一人の男子生徒に目を付ける。


「ヴァルフレア・ドートルか」


「あの人、凄い気迫ね。アルトへの対抗心が強いと見えるわ」


「らしいな。ヤツはAグループでBグループのオレとは組が違うが、できれば手合わせ願いたかったぜ。S級を倒したとなれば名前を挙げられたのによぉ!」


「そう熱くならないの、ウィル。全国で活躍すれば、もっと名声だって得られるでしょう?」


「ああ、だな! こんな校内戦なんて通過点でしかないものな」


 単純な思考のウィルは、もうヴァルフレアへの興味など失せたようで、自分の出番に備えてストレッチを始める。

 そうして、全国大会への切符を懸けた予選大会の幕が開けるのであった。

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