選ばれた者、選ばれなかった者
夏休み期間中に開催される全国魔法高等学校デュエル大会への参加を快諾したアルトだが、その大会に関する知識は全く持ち合わせていないため、リンザローテから説明を受けることになった。
「デュエルは一対一が基本ですが、全国大会ではチームで戦うことになりますわ。各学校は代表となる四人を選出して、そのメンバーでチームを構成するのです」
「なるほど。で、俺とリンザ先輩がドワスガル代表として校長先生から指名を受けたというわけですね。しかし、俺達以外の残りの二名は?」
「それは校内デュエル大会にて選考することになりますわね。全国大会への参加希望者を募り、実際に戦ってもらって上位の二名を代表者とするのですわ」
実力のある者を見極めるには、競わせるのが一番手っ取り早い。そのために我こそはと思う生徒を募集し、デュエルを行わせて選考するのである。
ちなみにアルトとリンザローテが校内大会を免除されたのは、彼らの実力が認められて教職員会議で賛成多数を得られたからだ。
闇魔法士すら退けられるS級のアルトは当然だが、リンザローテもドワスガル内で特に優秀なA級魔法士として讃えられており、ダテに生徒会長の職に就いているわけではなく高い能力を有している。
「そ、そこでコレを掲示板に貼って告知をします……」
と、コマリがアルトに差し出したのはポスターであった。アルトとよく似た人物が描かれており、”全国デュエル大会への切符を手にするのはキミだ!”という文言も添えられている。
このポスターはコマリがデザインした物のようで、漫画研究部に所属していることもあって絵も文字も見やすく、しかも印象的で目に留まる出来栄えだ。
「さすがコマリ先輩、芸術的なセンスはピカイチですね。これなら皆の目を引いて、宣伝効果は抜群だと思いますよ」
「あ、ありがとうございます……えへへ、褒められちゃった……」
頬に両手を当て、顔全体を赤らめて喜ぶコマリ。少女漫画に登場する気弱な主人公のような照れ具合で、それこそ彼女自身をモデルとした作品が製作されてもおかしくない。
「全国規模の大会ともなれば相当な猛者が集まるんでしょうね? 勝ち進むのは簡単じゃなさそうだ」
「ええ、各校ともS級魔法士を惜しみなく投入してきますし……実は、ドワスガルはこれまで一度も優勝したことが無いんですの。というのも、あまりデュエルに重きをおいてはいない校風なので……」
「デュエルクラブもありますけど、あまり大きな組織ではありませんしね……」
「腕に覚えのある魔法士は、大抵の場合王都の有名校に行ってしまいますからねぇ」
ドワスガルは王国内で最大規模を誇る魔法高等学校だが、そこに集まる学生の能力は平均的で突出した魔法士は少ない。というのも、有能な学生は王都に存在する名の通った学校にスカウトされてしまうからだ。
では、ガルフィア家のお嬢様で、且つ魔法士としても申し分ないリンザローテが何故ドワスガルにいるのかと疑問に思わざるを得ない。彼女くらいのレベルであれば、真っ先にスカウトされて然るべきだろう。
しかし、その疑問をアルトは胸に仕舞いつつ、ポスターを眺めて今年こそは優勝できるよう力を尽くそうと決意する。
翌日の放課後、銀色の長髪を風に靡かせながら、ヴァルフレア・ドートルは一人で学生寮を目指して歩いていた。
数か月前までは女子達を取り巻きにして、いつでもハーレム状態であったのだが、最近は彼に靡く者は少なくなって孤独になりつつあった。
これは、同じくS級でありながらもヴァルフレアと正反対の性格をしているアルトが現れたせいである。今ではアルトばかりが注目されて、傲慢で面倒なヴァルフレアと関わろうとする人間はほとんどいないのだ。
「ねえ、このポスターに描かれてるのってアルト君に似てない?」
管理棟近くを通りかかった時、女子の声が聞こえてきてヴァルフレアはソチラに視線を移す。別にその女子の声に聞き覚えがあるというわけではなく、憎きアルト・シュナイドの名前を口にしていたからであった。
「確かに似てる! この絵を描いた人、かなり良いセンスね」
数人の女子が管理棟前にある掲示板に集まって、どうやら一枚のポスターについて話しているようだ。
「校内デュエル大会の告知かぁ。今年は誰が全国に出場するんだろうね?」
「アルト君は校内選考は免除されて、既に全国大会への出場が決定してるんだってさ。あと生徒会長も」
「へ~、あの二人なら納得だね。そういえば最近ヴァルフレアの話は聞かないけど、あの人はどうなの? 一応はS級でしょ?」
「さぁね。あの人は推薦すらされてないんじゃないの」
「そりゃそうか。素行が悪いし、イイとこないもんね~」
という陰口を叩かれ、ヴァルフレアは苛立ちを募らせる。拳を震わせ、目つきもいつも以上に鋭く邪気を宿していた。
「アルトがなんだってんだッ…! 何故アイツが選ばれるんだ!?」
アルトは選考免除となっているのに自分がそうではないと知って、つまりアルト以下だと評価されている事実に我慢ならなかった。
というのも、もともとヴァルフレアは自己評価が高く、今まで他人を雑魚だと見下してきたのだ。自分は誰よりも優れた存在だと信じているのに、その自尊心が激しく傷つけられ怒りが爆発しそうになっていた。
「アイツさえいなければ……この学校に来なければ、俺がこんな惨めな思いをすることもなかったのに!」
完全な逆恨みであるが、ヴァルフレアはアルトさえ入学してこなければと思わずにはいられない。アルトのせいでリンザローテに裏切られるハメになったし、他の女子達が離れることはなかったと責任転嫁して恨みだけが溜まっていた。
負の感情に憑りつかれたヴァルフレアは、踵を返して管理棟へと入っていく。その殺気にも似たオーラを纏う彼を見た者達は、恐ろしさのあまりに後ずさって、関わりたくないと顔を伏せたり背けたりしてやり過ごした。
そうしてヴァルフレアは階段を昇り、生徒会室へと辿り着く。全国デュエル大会の人選について文句があるなら校長室へ行けばいいのに、アルトという宿敵とリンザローテに直接言ってやらなければ気が収まらなかったのだ。
「おい! リンザローテはいるか!?」
バン! と勢いよく扉を開けたヴァルフレアは怒鳴りつつ、丁度ミーティング中だった生徒会室を見渡す。
と、長机の先、会長席に座っているリンザローテを見つけて無遠慮に足を踏み入れた。
「今はミーティング中ですわ。部外者は出ていってくださるかしら」
「知るかよ。俺はテメェに用があるんだ。話を聞いてもらう」
「後にしてくださいな。それに、それが人に話を聞いてもらいたい人間の態度なんですの?」
「口答えするんじゃねぇ! ブチのめすぞ!」
語気を強めて恫喝するヴァルフレアに対し、生徒会のメンバーの多くは萎縮してしまって、何も言えずに黙っているしかなかった。
だが、一人だけヴァルフレアに立ち向かう男がいた。
そう、他でもないアルト・シュナイドである。
「ここはアンタの来る場所じゃないし、リンザ先輩に迷惑を掛けるのは俺が許さない。さっさと出ていけ」
椅子から立ち上がったアルトはリンザローテを庇うように立ち、ヴァルフレアが接近しないように割って入った。
その姿は姫を守る律儀な騎士のようで、ヴァルフレアは鬱陶しく思いながらアルトと相対する。




