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ミカリアの自慢の教え子

 宿泊学習での事件から約二か月が経ち、前期習業カリキュラムがそろそろ終了するという時期である。

 筆記試験や魔法試験の結果に学生達が一喜一憂する中で、アルトも担任のミカリアに呼ばれて管理棟にある彼女の個室を訪れた。


「失礼します、アルト・シュナイド入ります」


 教師には一人一部屋が与えられ、事務作業などは基本的にそこで行っている。そのため放課後の職員室は閑散としており、用がある場合はそれぞれの部屋に赴く必要があった。


「お待ちしてましたよぉ、アルトさん。試験結果とぉ、あとは個人面談も兼ねての呼び出しなのでぇす」


 おっとり具合というか、のほほんとした性格は相変わらずだ。少々頼りなくはあるが、生徒想いの立派な教師だとアルトは知っているし、ミカリアが担任で良かったと思っている。


「俺の成績、どうですか?」


「筆記、魔法共に申し分ない結果ですよぉ。さすがアルトさん、優秀なんですねぇ」


 ミカリアから手渡された成績表には、SとAの判定がいくつも並んでいる。これは相当な高評価であり、学年順位も一桁台とトップクラスだ。

 特に魔法試験は文句無しの一位で、さすがは希少なS級魔法士だと言えよう。


「勉強面はリンザ先輩のお力添えがあったからですよ。俺は今まで学校に通っていませんでしたし、最初は全然ちんぷんかんぷんだったのですけど、リンザ先輩が根気よく教えてくださったので」


「それでもぉ、アルトさんの努力があってこそですよぉ。いくら教えたとしてもぉ、本人に意欲が無ければ何事も上達しないのですからぁ。うふ、まさに模範的な学生ですねぇ」


 実際、アルトの勉学に対する意欲は高く、普段の授業は勿論のこと自主学習も欠かさず行っているのだ。リンザローテとの勉強会も今でも続いているし、高校から学生を始めたとは思えないレベルで学力が向上していた。

 アルトはミカリアからの称賛に照れながらも、壁に掛けられたとある物品に目を留める。


「ミカリア先生、壁のあの短剣って……俺が初日に錬成魔法で作った物ですよね?」


 それは白銀の刀身を持つ短剣で、アルトにとって人生初めてとなる授業であった錬成魔法学で製作した一品だ。

 素材にはオリハルコンという希少金属を使用していて、この金属はS級の中でも特別な才覚のある魔法士にしか扱えない。そのため、アルトがオリハルコンを加工した時にはミカリアも驚いたものである。


「そうですよぉ。本当なら学校の所有物として大切に保管される予定だったのですがぁ、教頭先生に頼み込んで譲ってもらったんですぅ」


 そもそもオリハルコンは参考資料として寄贈された物であるため、所有権はドワスガル校にあるのだ。

 しかし、記念品として近くに置いておきたかったミカリアは、無理は承知のうえでアネット教頭に掛け合い、学校外に持ち出さないことを条件に譲り受けたのであった。


「アルトさんは先生にとって自慢の生徒ですよぉ。アナタが卒業して学校を去った後でもぉ、ずぅっと語り継ぎたいですねぇ」


「もっとミカリア先生の自慢の教え子になれるよう、更に精進します」


 夕焼けを反射する刃を見つめつつ、アルトはそう返す。

 この学校に来てから称賛は何度か受けているが、増長しないのがアルト・シュナイドという男で、学ぶべき事はまだまだ多いという自覚があるからこそ意欲的なのだ。






 成績表を受け取ったアルトは、その足で生徒会室へと向かう。今日はミーティングがある日ではないものの、リンザローテが資料作りをしているとなれば、会長補佐であるアルトが手伝いとして行く理由になる。


「お待たせしました、リンザ先輩、コマリ先輩」


 生徒会室にはリンザローテの他、アルトと同じく会長補佐であるコマリ・ラスペンが作業を行っていた。文章とおおまかなレイアウトを決めるのがリンザローテで、分かりやすいようイラストと図を書き込むコマリとで役割分担をして製作をするのだ。

 そんな中でアルトが出来ることなど無いが、しかしリンザローテとコマリにとっては居るだけで気力に繋がるのである。


「あら、もう面談は終わったのですね。それで、試験の評価はどうでしたか?」


「こんな感じです」


 言葉で伝えるよりも、直接見せた方が分かり易いだろうとリンザローテに成績表を渡すアルト。

 普通ならば同じ学生相手に見せるものではないのだが、仕える上司相手に隠し立てするつもりは全く無いので一切躊躇していない。


「おや、やりますわね」


「ア、アルトさんは学業面も凄いんですね」


 覗き込むコマリも感心していて、頑張った甲斐があったなとアルトは思う。

 もしこれが最低評価のDランクが並んでいたら、情けなさのあまりに逃亡したくなっていただろう。


「お二人のおかげですよ。勉学の面倒を見て下さって、ありがとうございました」


「いえいえ、それがわたくしの償いでもありますので……」


 ヴァルフレアのためにアルトを学校から追放しようとした罪を、今でもリンザローテは背負い続けている。未遂に終わったとはいえ、一人の生徒の将来を潰そうという考えを持ったのは許されることではない。

 その罪に対する贖罪の機会を与えてくれたのは他でもないアルト本人で、彼の勉強の面倒を見ることが引き換えであったのだ。


「これならば夏休み期間中の補習とは無縁ですわね」


「その夏休みっていうのが、約一ヵ月間にも渡る長期休みなんですよね?」


 学校自体が初めてとなれば、当然ながら夏休みという長期休暇を得るのも初めてである。大抵の学生にとって最も楽しい期間だとも言えるが、無趣味で遊びを知らな過ぎるアルトにとっては虚無なように感じていた。


「ええ。生徒の多くは地元に帰って親御さんと会う時間としていますわ。アルトさんにもそうして頂きたいところですが……参加をお願いしたいイベントがあるのです」


「以前仰っていた、全国デュエル大会ですよね?」


「そうですわ。全国にある魔法高等学校がそれぞれ代表選手団を構成し、大会を通じて交流を深めながら優勝を目指すのです。我がドワスガルの選手として、アルトさんに参加して頂きたいと校長先生が」


 デュエルとは魔法を駆使して戦う競技であり、実際にアルトはリンザローテやウィルを相手にデュエルを行った事がある。

 そのデュエルの全国規模大会が夏休み中に開催されるらしく、アルトはドワスガルの代表選手団に加わるよう校長であるオブライアンから要請が来ているのだ。


「俺でよければ是非。己惚れるわけではありませんが、俺のS級魔法士としての力を役立てるでしょうし、期待に応えられるよう全力でやってみます」


「アルトさんなら、そう仰って頂けると思いましたわ。ちなみに、わたくしも選手として参加するので共に戦うことになりますわ」


「リンザ先輩も一緒なら心強いですよ。知っている人と共闘できるのなら俺も戦いやすいですし」


「そうですわよね! わたくしこそ、アルトさんと背中を合わせて戦うに相応しい魔法士ですわぁ!」


 大きな胸をポンと叩いてドヤ顔になるリンザローテ。

 心強いと言われて有頂天になっており、俄然やる気が湧いているようであった。

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