アルトの気遣い心意気
アルトとリンザローテは女子寮から場所を変え、管理棟の生徒会室にて話の続きをすることにした。
もともとリンザローテは残っていた仕事を片付けるべくココに来る予定だったようで、今日は休日であるにも関わらず真面目な人だとアルトは感心している。真面目さで言えばアルトも相当ではあるが。
「にしても、アルトさんは本当に無茶をなさる。ヨーツンエイルという秘密結社はわたくしも聞いたことがありますが、闇魔法士を束ねる危険な組織だと……そんな相手と戦うなんて」
「そんな相手と知りませんでしたので……それに、知っていたとしても俺は戦いましたよ。エミリー達を守るためなら、誰が敵であろうと関係ありません」
「ふふ、アルトさんらしいですわね。ご自身の危険よりも皆のために……」
その気概にリンザローテは惚れたのだ。出会った時も、そして今も変わらず優しさと勇気を併せ持って、リンザローテを何度もときめかせるのである。
が、一つ引っかかるのは”エミリー達のためならば”とアルトが発言したことだ。今回の事件はエミリーらと遭遇したものなので仕方がないが、そこは”リンザローテのためならば”と置き換えてほしいとワガママを抱く。
「あのぉ、エミリーさんだけでなく、わたくしがピンチの時でも同じようにしてくれますわよね…?」
かなり女々しい問いかけだと自覚しているが、訊かざるを得なかった。そして、返ってくる言葉と内容は想像出来るものの、アルトの声で直接聴きたいのである。
「勿論です。俺にとってリンザ先輩は大切な方ですし、命懸けで戦いますよ」
「うふ、アルトさんったら……」
このような事でもさらっと言えてしまうのがアルト・シュナイドであり、リンザローテは想定通りの返答にウットリとして惚ける。
それを聞いていたキシュは当然ながら面白くなく、アルトの頭の上であぐらを組みながらプンプンと怒っていた。
「まったくダーリンめ、こうやって女をたぶらかしているんだな……」
しかしアルトは、そんなキシュの呟きは聞こえていないようで、リンザローテがサインした書類を部門別にまとめて補佐としての仕事に取り組んでいる。入学から一ヵ月と少ししか経っていないが、リンザローテの手伝い程度であれば難なくこなせるようになっていた。
「あ、そういえば、お土産を買ってくるのを忘れてしまいました……出発前にお約束したのに申し訳ありません……」
「いえ、気になさらないでくださいな。緊急事態に巻き込まれたわけですし、そんな余裕なんてなかったのでしょう?」
「ええ……でも繁華街に行くタイミングはあったので、その時に買えばよかったな……」
一日目にビーチで遊んだ後と、遺跡から戻った後とで二度繁華街に行っていたのだが、エミリーへのプレゼントに集中していたために忘れてしまったのだ。
それを一生の不覚のようにアルトは後悔し、うーんと唸っている。
「ん…? じゃああの時、ダーリンは何しに繁華街へ?」
話を聞いていたキシュは、フと疑問に思っていたことを問う。宿での夕食会が始まる前、アルトは皆と別行動を取って繁華街に向かったのだ。
その際、キシュも一緒に街を訪れたのだが、久しぶりに目覚めたこともあって散策を優先し、アルトの用事が何だったのか訊いてはいなかった。
「もしかして、エッチな店に行っていたとか!? そんでスッキリしてきちゃったんでしょう!?」
「なわけないでしょ! あれはエミリーへのプレゼントを買いに行ってたんだよ」
「「えぇ!?!?」」
アルトの返答に、二つの悲鳴が重なる。
キシュ、そしてリンザローテまでもが驚愕の表情のまま絶句してしまった。
「どどどどどど、どーいうことなのダーリン! あたし以外にプレゼントを贈るなんてさ!」
「そうですわ! わたくしへのお土産を買わずに、何故にエミリーさんにはしっかり渡しているんですの!?」
キシュはアルトの髪の毛を引っ張り、リンザローテは机から身を乗り出して唾がかかる距離まで肉薄し詰問する。まるで重犯罪者の如き厳しい取り調べを受けているような状況で、魔法保全省での聴取とは比較にならないくらいの圧を受けていた。
「そ、それは……あのまま、ガッカリしたままで宿泊学習を終えてほしくなかったんですよ。あんな大変な目に遭いましたけど、せめて最後は笑って帰路に就いてほしかったから……俺は器用な人間ではないので、あの時はそれだけしか考えられなかったんです」
これは嘘偽りない、正直なアルトの想いであった。せっかくの宿泊学習が嫌な思い出だけで塗りつぶされるのはイヤだし、エミリーの沈んだ気持ちを少しでも上向きに出来るならばとアルトなりに考えての行動なのだ。
アルトに真剣な顔でそう言われれば、キシュもリンザローテもこれ以上騒ぎ立てる気など起きない。むしろ、反省するようにシュンとして追及の手を引っ込めた。
「申し訳ありません……わたくしったら、事情を考えずにはしたないマネを……」
「ダーリンの優しさだったんだね」
と落ち込む両名を見たアルトは、アワアワとしながら彼女達を元気づけようと言葉を続ける。
「そういえば……来週の休日って予定空いてますか、リンザ先輩? もしよかったら、宿泊学習に出発する前にした約束通り、リンザ先輩オススメの飲食店に一緒に行きませんか?」
「あの約束、憶えていてくださったのですね!」
出発前の駅にて、エミリーの煽りを受けて地団太を踏んでいたリンザローテに対し、なだめようとしてアルトが提案したのだ。
お土産は買い忘れたが、せめてその約束だけは果たそうと誘ったのである。
「はい。”今度こそ二人きりで”というリンザ先輩の要望もちゃんと記憶しています」
「嬉しいですわ。来週の予定なら空いていますし、是非ご一緒しましょう」
さっきまでの落ち込みはどこへやら、リンザローテはテンションを最高潮まで高めて鼻息を荒くしていた。この数日離れ離れになっていたこともあり、久しぶりのデートというイベントがたまらなく楽しみなのだ。
「ねえ、ダーリン。あたしには何かないの?」
「うーんと……じゃあ、添い寝するのはどう? 今朝残念がっていたでしょ?」
「それいーね! 今晩はイチャイチャナイトフィーバーだ!」
アルト・シュナイドという男は、相手の希望を汲む才能に関しても大したものだと言えよう。会話した内容をキチンと記憶して、そこからベストな回答を導き出すのは結構難易度の高いことなのに、平然とやってのけるのだから。
実際にキシュが喜ぶ的確な案を提示し、キシュはアクロバティックなハイマニューバ機動を披露しながら空中に舞っている。
「そ、添い寝など羨ましい……わたくしもベッドインな約束をしておけばよかったですわ…!」
先月にベッドを共にしたことを想起しつつ、もう一度アルトと安らぎの時間を得たいと欲望するリンザローテ。
しかし、ふしだらな女だと思われたくないという乙女心と理性が働き、ギリギリのところで衝動を抑制して口をつぐむ。
「ねーねー、ダーリン。そろそろ学校案内してほしいんだケド」
「分かった。リンザ先輩、少し外出してもよろしいでしょうか? 案内が終わり次第、戻りますので」
「ええ、構いませんわよ」
本当はリンザローテも付いていきたかったのだが、ここに帰ってくるという確約を得ているので落ち着き払っている。
「よくぞご無事で……」
アルトの後ろ姿を見送りつつ、再び彼と学校生活を送れる幸せを噛み締めるのであった。




