リンザローテVSキシュ! 新たなる恋敵との邂逅!
アルトは一晩ぐっすりと眠って、次に目を覚ました時には午前九時を過ぎていた。
今日は休日なので問題ないが、これが普段通りの登校日であれば遅刻ものである。
「思ってたより疲れていたんだな、俺……」
制服から着替えることもなく、帰宅してスグにベッドに横になっていたのだ。これではせっかくの特注品なのにシワが付いてしまうと、脱ぎ去ってパンツ一丁のまま手入れを行う。
そうした後で浴室で身体を洗い、普段着を着用する。簡素な白いシャツと黒いズボンの安物で、これらは先月エミリーに衣服店で選んでもらったものだ。
「さてと……キシュ、生きているね?」
一通り身なりを整えたアルトは、仲間にしたフェアリーの容姿を思い浮かべながら名前を呼ぶ。
すると、アルトの体から淡い光が放出され、眼前で収束していった。それは使い魔が魔石から飛び出す時と同じ光景で、田舎出身の自分如きが本当に使い魔を得たのだなと改めて実感している。
「そりゃフェアリーの休眠は仮死状態みたいなモンだけど、死んじゃいないよ」
光が形作るのはフェアリーのキシュで、ピンクの髪と半透明の翼がフワッと広がりアルトの視界を埋める。その様は聖なる天使の降臨にも見えるが、キシュはかなり俗っぽい性格であり、それを知っているアルトは友人を出迎えるようなラフさで緊張はしていない。
「ちゃーんと呼び出せたね、偉い偉い! 忘れられちゃってたらどーしようかと思ったよ」
「忘れるわけないよ。俺の命を救ってくれた恩人なんだしさ」
「ふっふーん、そーよね! ところで、昨日の夜は自慰をしたの?」
いたずらな笑みを浮かべ、アルトをからかうキシュ。
このように平然と下品なコトを口にするのはどうかと思うが、ある意味で近い距離感で話せるので悪くはない。
「し、してません!」
「なーんだ。せっかく気を利かせて休眠してあげたのに~。だったらダーリンと添い寝すりゃよかったなぁ」
アルトへの好意を隠すことなく表明しているキシュは、本当ならばいつでも一緒に居たいのだ。
しかし、男子特有の欲求不満を慮って一人の時間を作ってあげたわけで、それを有効に使っていなかったと知ってガッカリしている。
「キシュはちっこいんだから、添い寝なんてしたら潰してしまいそうで怖いよ」
「そこは気を付けなさいよ。壊れ物を扱うように、丁寧に繊細に」
「無茶を仰る……それより、俺は出かけるけどキシュも行く?」
「当然! パートナーでしょ!」
せっかく外に出たのに置いてけぼりは御免だと、キシュはアルトの肩の上に乗る。傍から見ればペットを連れているようで、微笑ましい光景だ。
「ねえダーリン、用事が済んだら学校も案内してよね」
「ああ、勿論いいよ」
「やった! わくわく!」
この時代の学校を見て回りたいと思っていたキシュは、ウキウキ感に満面の笑みを浮かべながらアルトと共に寮を出るのであった。
…が、アルトの目的地を知ってキシュは一気に顔を引き攣らせる。
「ダーリン、女子寮と書いてあるように見えるケド…? まさか、ココに用事が?」
「うん。リンザローテ・ガルフィアという生徒会長が住んでいてね、俺の上司に当たる方だし色々と報告しなきゃだからさ。生徒会室とか商業区に行っている可能性もあるけど、とりあえず訪ねてみないと」
「ふーん、へ~、あっそう……どんな女か確認してやるわ」
真っ先に会いにいく相手が女と知り、キシュは不満たらたらな眼差しで女子寮を睨みつけた。アルトが言うには上司だかららしいが、乙女としてのセンサーが嫌な予感を知らせているのだ。
ムスッとしたままのキシュを連れながら、アルトは女子寮へと遠慮なしに入っていく。
「あら、アルトさん!?」
と、わざわざ部屋まで赴く必要もなく、リンザローテとエントランスで出くわした。彼女もどこかに出かけるところだったらしい。
「あ、おはようございます。実は、昨日の深夜に帰ってきまして……」
「アルトさん!!」
「うわっ!?」
アルトの姿を見たリンザローテは、両目に涙を溢れさせながらバッグを放り捨てて駆け寄った。まるで死んだ人間が帰ってきたかのようなオーバーなリアクションだが、本気で心配していたので当たり前の反応ではある。
「良かった……逮捕拘留でもされて、もう帰ってこられないのではと最悪の想像をしていたものですから……」
「使い魔の件ならば魔法保全大臣から正式に所持の許可が出ましたし、お咎めはありません。ですから、また学校に通えます」
「まったくもう、心配をかけさせるのですから……」
恋人に抱き着くようにリンザローテはギュッとアルトの背中に腕を回し、全身で密着する。それは、アルトの感触を存分に味わいたいという無意識の欲がさせた行動であった。
その抱き着かれたアルトも、リンザローテの柔らかな肢体にドキドキとしながら、彼女の肩を抱こうとする。
しかし、
「ちょっと! いつまでダーリンとくっついてんの!」
もう限界だと喚きながら、キシュが両者の間に割って入る。勝手にアルトを彼氏認定しているキシュにとって、自分以外のオンナとイチャコラしているシーンなど見たくないのだ。
「な、なんなんですの!? このちっこいのは!?」
キシュに纏わり付かれたリンザローテは振り払おうとするも、素早くちょこまかと動き回るフェアリーに翻弄される。ハエにたかられているようにも見えて、少々滑稽な姿だ。
「小さいからってバカにすンなぁ! あたしは古代文明の英知の結晶ことフェアリーなんだから!」
「フェアリー!? あなたが例の!?」
「そうよ! そして、アルトっちのコイビトなのよ!」
「!?!?」
言っている事が理解できないと、リンザローテは混乱したように頭を抱える。
「ど、どういうコトなんですの!? アルトさん、あなたこのフェアリーと交際を始めたんですの!?」
「誤解です! キシュが勝手に言っているだけでして……彼女は確かに俺の使い魔になりましたが、恋愛パートナーになったわけじゃありません」
浮気がバレたかのように、必死になってアルトは釈明する。まさかこんな修羅場のような展開になるとは思ってはいなかった。
「あたしとダーリンは契りを結んだのよ? これは”実質夫婦”みたいなものでしょ?」
「その実質夫婦のセリフ、なんだか聞き覚えがありますわね……ともかく、適当を喋るのはヤメることですわ。キシュさん、アナタは使い魔であるのならば、主たるアルトさんを困らせるような言動は慎むべきです」
「なにおぅ! じゃあアンタはダーリンのなんなのさ!」
「わたくしは……アルトさんの良き理解者であり、最も彼の身を案じる者ですわ!」
「あっそ! この金髪巨乳女め、さてはダーリンに気があるな…!」
キシュは、リンザローテがアルトに恋しているのだと見抜き、これは面倒なライバルだなと唇を噛む。
しかも、アルトは身を案じていると言われて嬉しさを隠せないようにニヤついていて、それが気に入らずキシュはアルトの頭を小突く。
「いててっ! なにするのよキシュ!」
「ふーんだ! いやらしくニヤニヤしてるんだもの、あたしのパートナーならばシャキっとしなさいよね」
「俺そんなに情けない顔してた…?」
「してました! 変態一歩手前ってカンジに」
「あら反省……」
ここは女子寮のエントランスであり、通りすがっていく女子生徒達から注目を集めているのだ。
それなのに変態のような顔をしていたのでは、さすがにアルトとて恥ずかしいと思い気持ちはあるし、キシュの忠告通りに頬をパンと叩いて取り繕おうとする。




