キシュとアルトは公認カップル!?
魔法保全省なる国家機関を束ねる人間でありながらも、傲慢さとは無縁の実直な人間であるジェハイムが聴取担当で良かったと思いつつ、アルトは気になっていたことを問いかける。
「あの、そもそも秘密結社ヨーツンエイルってどのような集まりなのですか? 俺はナイト・ストライカーの口からその名を聞いて、初めて存在を知ったのですが…?」
アルトが対峙した白仮面の男、ナイト・ストライカーはヨーツンエイルのメンバーだと口にしていた。
だが、王国から見放された貧しい田舎出身であるため情報に疎く、秘密結社がどうとか言われてもピンとこないし、どのような脅威なのかイマイチ理解していないのだ。
「その全容は未だ掴めていないのが現状だ。闇魔法士達のスポンサーとして支援をしているのは確かではあるが、なかなか尻尾を掴ませない狡猾さを持っている」
「そうなのですか……でも闇魔法士の手助けをしているのなら、摘発するべき対象ではありますね」
「ああ。ただ単に社会を攻撃したいだけなのか、他に何か目的があるのかは知らないが、善良な一般国民にとって害悪であることに違いはない。我々も全力を挙げてヨーツンエイルを追い、いずれは壊滅させるべく捜査は続けていくさ」
実際にナイトは危険人物そのものであったし、あのような不届き者が暗躍しているとなれば気味が悪い。もう二度と会いたくはないが、先月のドワスガル襲撃のように、向こうから仕掛けてくる可能性もあると考えれば早急に逮捕してほしいものである。
アルトと同じ考えを抱いているのか、オブライアンも難しい顔をしながらジェハイムの話を聞いていた。
「キミがナイトという男からヨーツンエイルについて何か聞いていないかと思ったのだが……やはり、簡単には情報を漏らしはしないか」
「申し訳ありません……まさか、そんな相手であるとは知りませんでしたので、何か聞き出すという発想に至りませんでした」
「いやいや、キミが謝ることではない。戦闘でそれどころではなかったろうしな」
実際、死の光線を避けるのに必死で敵の正体だとかを気にしている余裕は無かった。気を抜けば一瞬でレイ・ルクスの餌食となっていたろうし、フェアリーから授かった翼の制御にも意識を向けなければならなかったのである。
「ではヨーツンエイルの話はここまで。次は、キミの使い魔の件についてだが……」
いよいよ使い魔についての聴取かとアルトは身構える。先程の魔法保全省の職員は緊急避難処置の一環であったと理解してくれてはいたが、最終的な処分を決定するのは目の前にいるジェハイム大臣であり、彼の意思次第では法の元に裁かれる可能性があるのだ。
そのアルトの緊張した視線を受けるジェハイムがパチンと指を鳴らす。
すると応接室の扉が開かれて、部屋の外で待機していたジェハイムの秘書が入室してくる。手には鳥カゴを持っており、その中には……
「あーっ! やっと会えたねダーリン!」
「キシュ!?」
フェアリーのキシュが、まるでペットのように収まっていたのだ。彼女は鳥類ではないが、背中に生やした翼のせいで鳥カゴとセットでも違和感はない。
ジェハイムの指示を受けて秘書がカゴの扉を開ける。と、キシュはパッと飛び立ってアルトの頭の上にしがみつく。
「あんな狭いトコロに閉じ込めるなんて失礼しちゃうよ! あたしはね、魔法学や生物学の知識と技術の結晶であるフェアリーなんよ!? ちょー凄い生き物なんだって、もっと尊敬してもらわなくっちゃ困るんだよねー!」
早口にまくし立てるキシュは相当にお怒りの様子だ。
「キミを自由の身にしておくのは色々と問題があったのだと承知をしていただく。それはともかくとして、使い魔の件についてアルト・シュナイドを罰しようとは思っていない。ナイトという男に対処するには他に方法が無かったと理解できるからだ」
「そ、それは良かったです」
一番の懸念事項であった使い魔の無断使用は不問となって、晴れて無罪放免となることが決定したのだ。
アルトは一安心して胸を撫で下ろすが、しかし新たな疑問が湧いてくる。
「あの、これからキシュはどうなるんですか?」
フェアリーという種族は古代文明が生み出した魔法生物兵器なのだ。今となっては希少であるし、普通の魔物とは異なる彼女がどのような扱いを受けるのか心配になっていた。
「それなのだが……実は、キミに預けようと思っている」
「え、つまり俺の使い魔としてということですか?」
「そうだ。というのも、彼女がキミ以外の人間には協力しないと宣言しているのでな」
どうやらキシュはアルトから離れる気は無いようで、ジェハイム達も困っているらしい。
「フェアリーは希少な魔法生物であるし、どのような力を秘めているか未知数なので魔法保全省で預かりたいのだ。だがキシュは、アルト・シュナイドと別れさせるのであれば、人とは関わりのない世界の果てに姿をくらますと……」
「とーぜんでしょ! あたしのダーリンはアルトっちだけなの! ずーっと一緒にいるんだい!」
キシュは語気を強め、更にアルトの髪をギュッと握った。
となれば、貴重な存在のフェアリーであるがアルトに託し、この国に留まってくれた方が都合が良いとジェハイムは考えたのだ。そうすればアルトにキシュを観察させるなりして、情報を得られるからである。
「これはオブライアンからの提案でもある。キミは優秀で善良な学生なので、フェアリーを悪用するようなマネはしないだろうとね」
「こうして直に会ってみて、ワタシの言葉に納得してもらえたのではないかな、ジェハイム? アルト君の素直さと真面目さは、この短い時間でも分かっただろう?」
「ああ。オブライアンのお墨付きともなれば、僕としても信頼するしかあるまい。多くの学生を見てきたキミの、その人間性を見抜く観察眼は僕以上だからね」
友人としてもだが、オブライアンの教育者としての意見にジェハイムは絶大なる信用を置いているようだ。だからこそ、彼の意見を求めるべく魔法保全省に召喚したのである。
「ということだ、アルト・シュナイド。キミには使い魔所持の許可を与えることにする。だが、あくまで特例処置だ。オブライアンを通じ、我々にフェアリーに関する報告を行うことを義務付ける」
これによって、合法的にアルトはキシュを使い魔として所持できることになった。
それを喜ぶのは他でもないキシュで、アルトの頭の上で機嫌を良くしながら奇妙な踊りを踊っている。
「ダーリンとあたしは晴れて公認カップルになったってことだねっ! やったやった!」
そして飛び降り、羽で滞空しながらアルトの頬にキスをした。
「カップル…? まあ今後とも宜しくね。使い魔を持つのは初めてだから、どのように付き合っていけばいいのか手探りになるけれど、大切にするのは約束する」
アルトにとってもキシュが一緒に居てくれるのは心強い。ナイトに対抗できたのも彼女の特殊な力があってこそであり、今後また闇魔法士と戦うような事態になっても、キシュと共闘すれば勝率はグッと上がるはずだ。
「一件落着して良かったですな。ワタシとしても、アルト君のような学生が所属してくれているのは鼻が高い。さ、我がドワスガルへと帰るとしましょう」
これにてアルトへの聴取は終了し、懸念された処罰もなく学校へ帰還できることになった。
アルトはホッと胸を撫で下ろして、宿泊学習に端を発した騒動がやっと終わったのだなと一息つくのであった。




