魔法保全省から来たりし者達
突如現れた十人程の白いローブを纏う大人達は、懐から何かを取り出す仕草をし、アルトは更に警戒しながら魔力を全身に充填させる。もしかしたら武器を手にして襲ってくるかもしれず、瞬時にバリアフルシールドを張れるよう準備を整えた。
「そう警戒をしないでくれたまえ。我々はこういう者だ」
「…魔法保全省ですか。えっと、この王国における魔法全般を統括している組織ですよね?」
白ローブ達が警官のように提示してきたのは、魔法保全省と記されたバッジだ。
この魔法保全省とは、王国内における魔法関連を取りまとめる公的組織であり、王都に本拠地を構えている。あまり表に出てくることは無く、普段は事務的作業ばかりをしていて戦闘は専門外だ。
「我々は秘密結社のメンバーを追って王都からやって来たのだ。キミは、今日の古代遺跡における戦いで接触したのではないかね?」
「確かに秘密結社のヨーツンエイル所属だとかいうナイト・ストライカーに会いましたが…?」
「そのナイト・ストライカーについて聴かせてほしい。ついでに……キミが仲間に引き入れたというフェアリーについてもね」
「キシュのことですか? そういえば、キシュはどこに行ったんだ…?」
古代に製造されて長らく封印されていたキシュは、久しぶりに覚醒したということもあり、現代の世界を見て回りたいと街へと飛んでいってしまったのだ。
どうやって連れ戻そうかと考えていると、天空から光の尾がアルトのもとへと舞い降りた。
「ダーリン、呼んだ?」
「ちょうど探していたところだよ。もしかして、俺の声が聞こえたとか?」
「ううん、なんとなく。ダーリンがあたしを求めてくれている気配を感じちゃってね~」
キシュはアルトの頭上に乗り、大きなアクビをしながら羽を休める。飛行が得意とはいえ、無限に飛べるわけではないので、鳥のように止まり木となる存在が必要らしい。
「では、そのフェアリーを連れて我々と同行をしてもらう」
「どこまでです?」
「王都の魔法保全省までだ。学校には我々から通達をしておくから、荷物をまとめなさい」
わざわざ王都まで行かなくても、最寄りの警察機関で事情聴取なりを行えばいいのではとも思うが、フェアリーという特異体を無断で使い魔としたことが大きな問題なのだろう。認可された者以外が使い魔を所有するのは違法であり、本来ならば強引に拘束されても仕方がないのである。
だが、アルトに悪意があるとは判断していないため、穏便な方法で接触を図ってきたのだ。
「エミリー、ごめんだけど行かなくちゃ」
「あ、うん。このまま学校に戻ってこられないなんて、そんなことないよね?」
「そう願いたいね。じゃあ、また」
不安そうなエミリーに軽く手を振り、アルトは魔法保全省の職員に囲まれて宿の屋上を去っていった。
一人になって寂しさを感じながらも、エミリーはプレゼントされたシルバーのバングルを腕に嵌める。
この流麗なデザインはカッコ良さや美しさを醸し出し、愛くるしい可愛らしさが特徴のエミリーにマッチしているとは言い難いが、アルトとの繋がりの証であるので着用しないなど有り得ない。
月光を反射する銀色を指でなぞり、アルトがすぐに学校に帰ってこられますようにと祈るのであった。
翌日の夕刻、ドワスガル近郊の駅舎にて。
生徒会長であるリンザローテは、今日の職務をサッサと終わらせて、アルトの出迎えのために駅のホームを訪れていた。
その姿は夫の帰りを待つ貞淑な妻のようで、今この瞬間は生徒会長ではなく一人の女として立っているのである。
「おや、やはりアナタも来ていましたか」
と少々遅れてやって来たのは、教頭のアネットだ。彼女は学校の代表者として、校長に代わって生徒や付き添いの教師を迎えるべく現れたのだ。
重役という立場こそ同じだが二人の目的は対極的で、プライベートと職務と完全に正反対であった。
「お帰りの際はお迎えにあがりますと約束いたしましたので」
久しぶりに、といってもたった数日ぶりなのだが、再会に期待するリンザローテは今か今かと待ち焦がれる。
しかし、一抹の不安もあった。エミリーなどの女子と仲を深め、恋人でも作って帰ってきたらどうしようかというものである。
「あ、この音は…!」
そんな複雑な心持ちのリンザローテの耳に、魔法列車が搭載するマギアエンジンの駆動音が聞こえてきた。独特の重低音がホームと駅舎に轟き、もう間もなくという距離まで近づいているのだ。
リンザローテは一歩前に出て、途切れた線路の先に目を向ける。
すると、低空飛行をしていた列車が降下し、線路に車輪を乗せて減速を始めた。
「予定通りの帰還ですね。途中で事故などに遭わなかったようで良かった」
アネットは停車した列車から生徒達が降りてくるのを見て、滞りなくスケジュールを消化して宿泊学習を終えられたのだなと安堵する。
が、すぐに生徒らの様子に違和感を覚えた。単純に長旅に疲れているといったのではなく、どんよりとした暗い雰囲気を感じたのである。
何かあったのかと心配になったアネットは、ミカリアが降りてきたのを確認して彼女のもとに寄る。
「ミカリア先生、お疲れのところ申し訳ないのですが……」
「うわ~ん! 教頭先生~、会いたかったですぅ……」
「ど、どうしたというのですか!?」
急に泣き出したミカリアは、教師の威厳などお構いなしにアネットに抱き着いた。年が離れているので親子の感動の対面のようにも思えるが、お涙頂戴のシーンではない。
「アルトさんがぁ…ひっく……闇魔法士に魔法保全省がぁ……うぅ……」
「落ち着いてください、ミカリア先生。アナタも大人の社会人なのですから、大事なことは要領よく確実に伝えなさい」
涙と嗚咽で説明が全く進まず、困惑するアネット。
だが、そのやり取りを聞いていたリンザローテは、ただならぬ何かがアルトの身に起こったのだなと直感して表情を一変させる。
「アルトさんが…? あ、エミリーさん! アルトさんはどうしたというのです!?」
リンザローテはエミリーを見つけ、その肩を掴んで問いただす。
「実は……」
エミリーはざっくりと宿泊学習での出来事をリンザローテに話す。
古代遺跡での闇魔法士による襲撃、その際に使い魔として従えたフェアリーのキシュ、そして事情聴取のため魔法保全省の本部にアルトが連行されていったことを。
「そのようなことが……では、アルトさん自身はご無事なのですね?」
「はい、アルト君はちゃんと生きていますし、怪我をしたとかもありません」
「良かった……」
リンザローテは、まずはアルトの無事を知って胸を撫で下ろす。先程のミカリアの悲痛な姿から、もしかしたらアルトが犠牲になってしまったのかと気が気でなかったのだ。
「それとアナタ達も。アルトさんもですが、無茶をなさってまったく。闇魔法士を相手にするなど、命を投げ捨てるのと同義だと自覚をしてほしいですわね」
「おや意外な……ライバルがいなくなった方が会長的にはプラスだったんじゃ?」
「バカなことを仰らないで。例えライバルであっても、そんな不幸を期待するような畜生ではありませんわ。わたくしは、正々堂々とした勝負で決着を付けたいと望んでいるとお忘れなく」
それを聞いて、エミリーの中にあったリンザローテへの苦手意識は消えていった。出会い方が悪かったせいで悪い印象を抱いていたのだが、今となってはリンザローテは良き好敵手という認識に切り替わったのである。




