エミリーの笑顔と溢れる想い
古代遺跡の地上へと帰還したアルト達一行は、駆け付けた教師四名と合流して状況を訊く。地下での戦いは制したものの、地上で何が起きていたのかは知らず、グレジオ一派以外にも闇魔法士がいて被害が出ていたのではと心配していた。
「…なるほど。では、ミカリア先生や皆は無事なのですね?」
「ああ。闇魔法士から逃れて、街に向かって退避している。しかし、何人かの生徒が地下に残っていると聞いて、戦闘経験のある我々が救助を試みようと引き返してきたんだ」
闇魔法士が地下へ侵入した後、ドワスガルの生徒や遺跡調査チームは街への避難を開始して、難を逃れたようだ。
それが分かってアルトはホッとする。ナイトのような強敵と戦って引き付けた甲斐があるというものだし、犠牲となった者がいなかったのは不幸中の幸いだ。
「地下にはもう生徒は残っていないんだね?」
「恐らく……エミリーとナリアが発見したクラスメイトが最後の一人だったと思いますが、地下都市には幾つもの建造物と死角もあったものですから、全部を見て回れていないんです」
「そうか。闇魔法士はどうなった?」
「何人かは無力化して倒れています。しかし、少なくとも二名が逃走して行方知れずに……もしかしたら、この周囲にまだ潜伏している可能性もあります」
ナイトとグレジオの撃破には至らず、どこかへと逃げ去ってしまった。既に遠くへと行ってしまっているとは思うが、地上の遺跡内に隠れている可能性は排除できないので、完全には安心できない。
「分かった。にしても、キミは本当に凄いなアルト・シュナイド君。以前の闇魔法士による学校襲撃や、ホランの事件の時もキミが解決したそうだけど、今回も大活躍だな」
「いえ、俺だけの力じゃありません。皆で協力した結果です」
「噂の通り、謙虚で真面目なんだね。そういうS級は珍しい」
在校生ではヴァルフレアもS級だがアルトとは対極的な存在であり、教師間でも両者の評価は天と地の差がある。アルトは有望で期待できるが、ヴァルフレアは腫物のような扱いで関わることさえ躊躇われているのだ。
これは、ヴァルフレア自身の傲慢と虚栄心が招いたもので、いくら平等に接しなければならない教師らであっても無理な話だろう。
「それと、さっきから気になっていたんだが……そのキミの肩に乗っている小さな生物は一体…?」
「ああ、この娘はフェアリーのキシュといって……古代文明の魔法生物らしいです」
「伝説上の存在をも手懐けるなんて、はやりキミはタダ者ではないね」
キシュは完全にアルトに懐いているようで離れようとしない。もう長年の相棒であるかのように肩の上でふんぞり返っている。
「さ、ひとまず我々も街に戻るぞ。ミカリアからの通報を受けた軍がここに来てくれるだろうし、後始末は彼らに任せよう」
アルト達は教師らに促されて、他の生徒のように街を目指す。
道中で闇魔法士に襲われることもなく、波乱の遺跡見学ツアーはようやく終わりを告げたのであった。
ドワスガルの生徒に被害は無かったが、恐ろしい体験をしたことや疲労が相まって一同に元気は無く、大広間での夕食会は黙々として気まずい雰囲気となっている。
「アルト君、ドコ行っていたの?」
その大広間での夕食会に途中で参加したアルト。遺跡から宿に帰ってきた後、どこかに出かけていたようで先程まで不在だったのだ。
アルトはエミリーに問いかけられながらも、はぐらかして隣の席に座る。
「ちょっと用事があってね。ってあれ、手を付けてないのに俺の分のおかずが減っているんだけど…?」
「あ、わりぃ。来ないのかと思って、オレがちょいと頂いちまった」
「おーいおい……ウィル、じゃあそのデザートを頂戴よ」
「仕方ねぇな、オマエには助けてもらったからな。でも、ちゃんとありがたく思えよ?」
「なんで俺が感謝を強要されなきゃいけないんだ……」
フルーツデザートが盛られた皿を対面席のウィルから受け取りつつ、アルトはエミリーに向き直る。
「あのさ、この後って時間あるかな?」
「わ、私のですかい!?」
「う、うん。食事が終わったら、ちょっと二人で会えないかなって」
「いいですとも!! ちょうど暇だったし!!」
まさかアルトからお誘いが来るとはと、エミリーは大興奮で喜び声を裏返している。そのせいで、静かな空気が広がっていた会場に響き渡っているが、本人は全然気にしていない。
「おやおや、こりゃオメデタになるかもだよウィル! 二人の子供の名前、ウチらで決めておこう」
「気が早いと思うぜ。多分だけど、シュカが想像しているようなコトは起こらんよ」
「分からないじゃないの! あんなピンチを共に乗り越えたからこそ、燃え上がるものがあるんだよ!」
「そうかねぇ……」
アルトがいよいよエミリーに迫るのかとシュカもまた興奮しているが、ウィルは冷静であった。この一ヵ月少しでアルトの性格は理解しているし、告白だとか子作り展開はあり得ないと分析している。
しかし、女子二人組は事件など忘れたかのように色めき立って、”その時”を今か今かと待つのであった。
アルトに誘われたエミリーは、彼と共に宿の屋上へと足を運ぶ。優しい夜風が通り抜けて、火照った身体には心地よい。
「それで……なにかな?」
今にも破裂しそうな心臓の音が耳障りだが、エミリーにそれを止める術はなく、とにかく呼び出した理由を問いかける。
同時に、答えを聞きたくないという気持ちもあった。エミリーは勝手に愛の告白をされるものだと期待しているのだが、そうなるとは限らないし、よく考えれば唐突な呼び出しだと感じてもいるのだ。
「実はね、コレをエミリーにと思って」
「え、コレって……」
アルトが差し出してきたのは、シルバーカラーのバングルであった。細いながらも表面部分は波打つようにくねっており、デザイン性の高いアクセサリーである。
このアクセサリーは前日に訪れた店でエミリーが見つけた物で、アルトに似合うと思って薦めようとしたのだ。
が、先に他の客に買われてしまい、しかも商品棚に一点しかなかったために断念したのであった。
「ほら、あの時エミリーが目を付けていたでしょ? でも売り切れになっちゃってさ……そこでね、お店に行って在庫が残っていないか確認してきたら、バックヤードにあったので売ってもらったんだ」
それがアルトが外出していた理由のようだ。このバングルをエミリーが欲しがっていたと勘違いしたまま、買いに行っていたのである。
だが、アルトの善意を無碍にするわけにはいかず、エミリーは真実は伏せたままにしようと決めた。
「ありがとう、アルト君。大事にするよ」
「やっぱりエミリーは笑ってる時が一番可愛いよ。今日は大変な一日だったけど、いつも通りのエミリーの笑顔が見られて良かった」
「アルト君……」
もうエミリーは我慢できなかった。想いは募り燃え上がり、この場の雰囲気に流されるまま、逆に告白しようと言葉を続けようとする。
”好きです”と口にしようとした、その時、
「失礼、アルト・シュナイド君はキミかね?」
屋上に複数の人影が現れ、エミリーとアルトの二人きりだけの時間は急に終わりを告げた。
「あの、どちら様で…?」
ホワイトカラーのローブを纏うその人達は、軍人や警察には見えない。
アルトは怪訝そうに問いながら、エミリーを庇うように立ち位置を変える。もしかしたら敵かもしれず、どこかお堅い印象を与える相手に警戒心を持ったまま相対するのであった。




