逆転のアルト、紙一重の勝利
当初の不利をキシュと共に覆し、アルトは遂に逆転した。
翼を用いた機動戦で優位に立って、ナイトを追い込む形になり攻勢を強めていく。
「ここからいなくなれ!」
別に打倒しなくても、この古代文明の遺跡から撤退させられれば戦術的勝利となるのだ。そうすればドワスガルの生徒達の身の安全は確保されるし、ナイトさえ対処できればグレジオや他の闇魔法士など物の数ではない。
「くそっ! こんなバカな話があるかっ! 私はナイト・ストライカーなんだよ!」
何発目か分からないレイ・ルクスの一撃を余裕に回避され、アルトが目の前まで迫ってきた。
ナイトは憎き敵の顔を凝視する。地下都市の光源は魔石のみであったこともあり薄暗く、こうして至近距離でなければハッキリとは見えなかったのだ。
そして、アルトの顔をしっかりと確認したナイトは、仮面の下で驚きの表情を浮かべていた。
「なに…! まさか、こんなことが……」
どうやらアルトに見覚えがあるらしい。
しかし、名前を聞いた時点では反応していなかったので、名前は知らなかったが顔だけは知っていたのだろう。
その驚愕が致命的な隙となり、アルトは見逃さない。
「そこだ!」
最大火力のフレイムバレットが撃ち出され、ナイトのバリアフルシールドに直撃する。
「しまった…! 魔力も残り少ないか……」
レイ・ルクスの多用によって魔力量が大幅に減少しており、バリアフルシールドの耐久値も減少してモロくなっていた。
そのため、フレイムバレットの着弾によって砕け散ってしまい、再度展開しようにも充分な出力を得られない。
『ここは退いたほうがいい、ナイト・ストライカー。今のキミではアルトという魔法士には勝てんよ』
劣勢を感じ取ったフェアリーのベルギュミスは、ナイトの脳内に直接話しかけて退却を促す。このままではベルギュミス自身の命が脅かされるし、この場に留まるリスクを冒す気はない。
ならばナイトから離反してアルト側に付けばいいとも思うが、ベルギュミスはアルトを好いていなかった。どちらかというと破壊的な混沌を好んでいるようで、邪気を含むナイトの方が合っているようだ。
『…まあいい、キミの言う通りにしよう。あの男と私は、ある意味特別な運命の輪の中にいるのと同義だし、また必ず会う事になるだろうからね』
そう呟き、フレイムバレットとスプレッドウインドで牽制しながらナイトは後退していく。彼は何かアルトとの縁を感じて、再びの邂逅は遠からず来ると考えて決着を先延ばしにしたのだ。
「行ったか……」
アルトは疲労を感じながらもナイトの追撃に入ろうか逡巡したが、ウィルやエミリー達が心配になって降下していき、低空飛行しながら友人達の姿を探した。
ウィルとシュカへの攻撃を敢行しようとしていたグレジオだが、仲間の闇魔法士に肩を叩かれて仕方なく振り返る。
「なんだよ!? 用があるならガキどもを始末した後にしてくれ!」
「アレを見ろよ、グレジオ。ナイトがアルトに負けて退却していくぜ」
「なんじゃとて!? あの秘密結社マンめ、俺達を見捨てる気なのかよ!」
「どうする?」
「俺らも帰るぞ! ヤツが抑えていたアルト・シュナイドがコッチに来る前に!」
グレジオは魔法の発動を中止し、路地から大通りに出て走り出す。
こんな無様な逃走など屈辱でしかないのだが、生存本能を優先したのだ。
「ったく、アルトとかいうクソガキが絡むとロクなことが無い……なんなんだよ、アイツはよ!」
これでアルトに対して二連敗になってしまった。今回は直接的に戦ったわけではないものの、アルトの存在が計画の障害となったのは間違いない。
地上への階段目掛けて全速で走っていると、グレジオは道中で三つの人影を捉えた。それはエミリーとナリア、逃げ遅れていたドワスガルの生徒である。
「よし、アイツらを利用するぞ」
「人質にするんだな?」
「ああ。後ろから来ているヤツらを巻くためにな」
少し遅れてウィルが追ってきているのを確認したグレジオは、悪鬼のような笑みを浮かべてエミリーらにバインドロープを発射した。
その魔法のロープはエミリー達の足を絡め取り、転倒させて動きを止めさせる。
「オマエ達には人質になってもらうからな」
「アナタはあの時の、食堂に現れた闇魔法士…!」
「テメェは……アルト・シュナイドに協力した女かっ!」
グレジオはドワスガル襲撃を思い出し、サイクロプスが撃破されるキッカケとなった武器を錬成したのが目の前のエミリーだと確信した。
「このクソアマがぁ! テメェのせいでサイクロプスを失うはめになったんだ! この償いはしてもらうからな!」
怒りがぶり返したグレジオは、エミリーへと掴みかかる。相手が女子であろうと容赦する気などなく、どのようにしてサイクロプスの埋め合わせをさせようか考えたほどだ。
「ともかく、テメェには人質になってもらう」
「こんな卑怯なマネをしないとアルト君に勝てないなんて、情けないとは思わないの!?」
エミリーは怖気ることなくグレジオに食って掛かった。アドレナリンの大量分泌によって恐怖心が鈍り、相手が闇魔法士だと理解しながらも挑発してしまったのだ。
「うるせェ! 闇魔法士ってのはなァ、汚いやり方をしてこそなんだよ!」
と返すグレジオは、羽交い絞めにしたエミリーの首に腕を掛け、そのまま窒息させようとする。何かしらの魔法を使うのではなく、自らの手で物理的に苦しめてやろうという気持ちからの行動であった。
非力な女子生徒を痛めつけて愉悦感に浸っているグレジオだが、すぐさま彼の優位性は失われることになる。
「…フザけんな。その汚い手でエミリーに触れてんじゃねぇよ」
「あ?」
聞こえてくるはアルトの声。
しかし、見回すグレジオの視界にアルトの姿は無く、幻聴かと疑った。
その時、
「なんとっ…!?」
突如としてバインドロープが上空から飛来し、グレジオの頭に巻き付く。そのせいで視界が塞がれ、しかもキツく縛ろうとしてくるため痛みもあり、慌てて手で掴んで引き剥がそうとしている。
グレジオはS級なので、無詠唱でアンチバインドを使用しロープを消し去ることも容易に出来たのだが、それを忘れてしまったのは軽いパニックに陥ってしまったからだ。
「アンタは許さないんだから! フレイムバレット!」
体に密着してきたり、首を絞められて憤慨するエミリーはフレイムバレットを唱える。まだ攻撃魔法に慣れておらず、しかもC級の彼女では火力は低いのだが、こうも許せない相手には直接反撃したかったのだ。
弱弱しいとはいえ、一応は火球が形成されてグレジオの胴体にヒットし、不愉快な闇魔法士は後方に飛ばされて道路脇の瓦礫の山に叩きつけられる。
「くそが…! こんなバカなことが…!」
腹部に火傷を負いながらも、大ダメージとはなっておらず、グレジオはバインドロープを除去した後に治癒魔法を自らに掛ける。
しかし、プライドには更に深刻な傷が刻まれて、苛立ちながら瓦礫に拳を叩きつけた。
そんなグレジオを完全に無力化しようとするアルトであったが、ここにきて目眩に襲われる。
『ダーリン、残念だけどあたしの補助はここまでだよ』
『まだ敵は残っているのだから、手を貸してほしいんだけど』
『そうしたいんだけどね、これ以上はダーリンの体が危険なの。フェアリーとの同調は三分から五分が限界なんだ』
『そういうものなのか……』
アルトの体からキシュが飛び出し、同調が解除される。
いくらフェアリーに認められた優秀な魔法士であっても、無限に力を扱えるわけではなく、身体の限界を超えての運用は不可能なのだ。
グレジオはこの隙を突き、アルト達の視界から外れた瞬間に身を翻して、大通りの道路から外れて別ルートでの逃走を図った。




