ナイトの焦り、グレジオの激昂
フェアリーの翼を得たアルトは、高速で飛行しながらナイトに接近をかける。
遠距離戦ではレイ・ルクスを使えるナイトの方が有利であり、近づかなければ一方的に撃たれてしまうので、アルトの射程に敵を入れるためにも肉薄しなければならないのだ。
そのアルトを迎撃しようと狙いを定めるナイトだが、ことごとく避けられてしまい苛立ちを募らせていた。
「ちょこまかと小賢しいヤツだね!」
ナイトの得意とするレイ・ルクスは、基本的には防御も回避も不可能な一撃必殺の魔法である。魔力を凝縮したビーム光線でターゲットを蒸発させ、一瞬にして戦いを終わらせられるのだ。
そうやって勝利を重ねてきたナイトなのだが、今回の敵であるアルトには通じず、今はもう完全に見切られてしまっていた。
「避けるんじゃないよ!」
「当たるものかよ! 力を貸してくれたキシュのためにも、オマエのような闇魔法士には負けられない!」
「避けるなと言っている!」
戦闘開始前までは優雅な立ち居振る舞いをしていたのに、ナイトは怒りの感情を露わにしている。
これまで苦戦というものをしたことがなく、自分こそが絶対的な強者と信じて疑わなかったが、その自信さえも崩されそうになって呼吸も荒く乱れる。
「この私が瞬殺できないなどと…!」
冷静さを欠き、余計に照準が定まらなくなっていることに本人は気が付いていない。
『体と翼の使い方はダーリンの方が断然上だから頑張って!』
一体化したキシュの励ましの言葉が脳内に直接響き、アルトを鼓舞する。
『それに、レイ・ルクスは魔力の消耗が激しいの。いくら保有魔力が多い魔法士でも、乱射していればすぐさまパワーダウンに陥るハズ!』
『そこに付け入る隙ができるというものだな!』
強力な魔法ほど消費する魔力量も多く、多用すれば枯渇してしまう。
短期決戦で勝負を決めてきたナイトに継戦という言葉はなく、魔力残量の調整が下手であり、これこそが欠点だとキシュとアルトは見抜いたのである。
勢いづいたアルトは反撃をするべく、更にナイトへと距離を詰めていく。
そんな激しい空中戦が行われている中、瓦礫の山から這い出て来たグレジオは仲間の一人と合流して戦闘地点を目指していた。
「グレジオ、あの二人は飛んでいるけど、一体どんな魔法を使っているんだ?」
「分からん。けどもありゃ普通じゃない……フェアリーの能力なのか…?」
「アルト・シュナイドとかいう男もフェアリーに選ばれたってことか」
「であるのならば……俺よりも、あのクソガキのほうが優秀だってのかよ!」
認めたくない事実を突きつけられたグレジオは、嫉みの感情を膨れ上がらせて憎悪へと転化させる。
キシュに能力不足と言われて心に傷を負っていたのに、そこに追い打ちをかけられた状態となって精神が破壊される寸前であった。
「殺してやるぞ、アルト・シュナイド!」
アルトは目の前のナイトに集中していて、グレジオの存在に気が付いていない。
これならば側面から魔法で奇襲するのも可能であり、撃ち落としてやると意気込んでグレジオは魔法の発射体勢に入った。
だが、
「なんだ…?」
妙なプレッシャーを感じたグレジオは攻撃を中止し、プレッシャーの圧が来る方向へと振り向く。
と、そこには二人の学生、ウィルとシュカが立っていて、グレジオ目掛けて魔法を放ってきていたのだ。
「チッ、邪魔をするなよガキどもがァッ!」
間一髪でウィル&シュカのフレイムバレットを防御し、グレジオは叫ぶ。
こうも何度も学生如きに妨害されるのは我慢ならないし、それがドワスガル所属ならば尚更である。退学になったのはグレジオが完全に悪いのだが、逆恨みによって学校も学生も全てが忌み嫌うべき相手になっていた。
「テメェこそアルトの邪魔をするんじゃねぇぞ。アイツが全力で戦えるように、テメェらの相手はオレがしてやるよ」
「ちょっとウィル、あんまり挑発しないほうが……」
「こうすればヤツらの注意は嫌でもオレ達に向くからな。でも安心しろ、シュカはオレが必ず守る」
ウィルはシュカの前に立ち、グレジオともう一人の闇魔法士に相対する。
「さあ、こいよ。ぶちのめしてやるぜ」
「調子に乗りやがって! 俺に喧嘩を売ったこと、後悔させてやる!」
グレジオはウィルを警戒しながらも、フレイムバレットを放つ。オーソドックスながらも扱いやすいこの魔法は小手調べに過ぎないが、手加減ナシのS級の魔力で形成されているため、かなりの火力を秘めてウィルらに飛んでいく。
「甘いな! そんなんでオレを倒せるとは思わないことだ!」
しかし、ウィルも並み大抵の魔法士ではない。A級でグレジオより魔法力は下なのだが、その差を感じさせない気合いでバリアフルシールドを展開し、見事防いでみせたのだ。
だが、着弾時にバリアフルシールドは砕け散ってしまい、爆風がウィルとシュカを襲う。
「ウィル、大丈夫?」
「ああ。けどヤツはS級だ、次も防げるとは思えない。直撃を避けるやり方に変えて、逃げ回りながら攻撃するしかないな」
たった一撃でバリアフルシールドを破ってくるわけで、もう一度展開しても連撃を加えられれば耐えられるものではない。
ウィルは戦力比を自覚し、グレジオに劣っていることを受け止める。この潔さが生き残るための秘訣でもあった。
こうなれば、敵の魔法を受けないことを前提とした逃げの戦法を取るしかなく、シュカに促しながら古代文明の道路の上を走る。
「腰抜けどもめ、逃がすか!」
「グレジオ、あのショボいガキなんて放っておこうぜ。アルト・シュナイドとかいうS級をどうにかしないとならんのだろ?」
「アルトは後回しだ。ナイトとの戦いで消耗したところを一気に叩き潰す。それよりも、先にさっきのガキをブッ殺さなければ気が済まねぇ」
アルトにプライドを傷つけられていたが、ウィルの挑発の方が今のグレジオを怒らせていた。格下に煽られて黙っていられるほど大人ではなく、こういう短気な性格が彼を不幸にしているのだが、それが生の感情を持った人間故のサガなのかもしれない。
「へっ、あのマヌケ野郎め追ってくるぜ」
狙い通りにグレジオ達が追ってくるのを確認しつつ、ウィルはシュカを連れて路地へと入る。とにかく時間さえ稼げればよく、その間にアルトが事態を解決してくれるだろうという信頼があってこその作戦であった。
そして、アルトやウィルらが闇魔法士を引き付けている中で、エミリーとナリアは逃げ遅れた人間を探して未捜索の地区へと足を踏み入れていた。
先程までは、この近くに闇魔法士がいたため近寄ることが不可能な場所だったが、今ならば敵の目に付くことなく探せる。
「この辺りが最後だね。ちゃっちゃと確認してこよう」
地下都市中央部にある半壊したビルへと入り、エミリーは声掛けをした。
「おーい、誰か残ってたりしない? 逃げるなら今のうちだよー!」
と、エミリーの声に反応するように一階エントランスの物陰で何かが動く。崩れた壁の瓦礫が散乱して、その後ろ側に隠れるようにしゃがんでいるようだ。
もしかしたら闇魔法士の可能性もあるので、警戒しながらエミリーはナリアと共に近づき、瓦礫を覗き込む。
「もう大丈夫だよ。私は敵じゃないから」
「た、助けに来てくれたの?」
そこに居たのは、エミリーとナリアのクラスに所属しているドワスガル一年生の少女だ。あまりの異常な状況に恐怖し震えている。
「そうだよ。アルト君達が闇魔法士を相手にしてくれているから、早く行こう」
「う、うん。でも怖くて足が動かなくなっちゃって……皆は先に逃げていって、わたしだけ置いていかれちゃったんだ……」
「そっか。じゃあ私とナリアちゃんが肩を貸すね。私達は見捨てたりしないから安心して」
「ありがとう……」
ナリアを呼んでクラスメイトに肩を貸し、三人はビルから脱出。
少し離れた場所で巻き起こっている戦闘の推移は見えないが、アルト達が勝っていることを祈りつつ地上への階段へと急いだ。




