一心同体、光の翼
闇魔法士と交戦したビルを出たアルトは、古びた道路沿いに走って地上への階段を目指した。
この地下都市から出るための経路は他にもあるのかもしれないが、今日初めてココに来たアルトは把握しておらず、仕方なく少々離れた場所にある階段を使用するしかないのだ。
だが、その道中で一つの人影が揺らめき、アルトの前に立ち塞がる。
「キミが連れているそのフェアリー、返してもらおうか。それは私が見つけたものだからねぇ」
優雅な佇まいでありながらも、顔に付けた純白の仮面のせいで不気味さも醸し出すのはナイトであり、アルトの肩に乗っているフェアリーのキシュを返還するように求めてくる。
「ダーリン、まさかと思うけどアイツにあたしを引き渡すなんてしないよね?」
「キシュが望まないことはしないよ。それに、アイツは危険な男だ……なんとなくの直感だけど、他の闇魔法士以上に警戒しなければいけない相手だと思う。そんなヤツの力を、これ以上増幅させるようなマネはしちゃダメだ」
キシュを渡しても見逃してはくれないだろう。恐らくは、ナイトとベルギュミスの連携による全力攻撃を受けることになるはずだ。
そんなことになれば、いくらアルトであっても無事では済まない。
「愚かしいねぇ。私に歯向かえば苦しんで死ぬことになるんだよ?」
「本当に気に食わないヤツだな……悪いけどキシュは渡さないし、アンタは倒させてもらう」
「フッ……その度胸は評価してあげよう。キミの名はなんという?」
「不審者に名前を教えてはいけないとお婆ちゃんに言われているんでね」
「こういう時はお互いに名乗りを上げるものだよ、アルト・シュナイド」
その言葉にアルトは無意識のうちに眉を動かす。怪しさ満点の闇魔法士に個人情報を知られているというのは不愉快でしかない。
「…俺を知っているのかよ」
「グレジオに教えてもらったのでね」
「ならワザワザ訊くな」
「そうカッカしないでおくれ。人生の最期に自己紹介をする機会を与えてあげたんだよ。だってキミはこれから私に始末されるわけだし、二度と自分の名前すら口にできなくなるんだから、これは親切心というものだと理解してもらいたいね」
「なに言ってんだコイツ」
イチイチ苛つかせる男だとアルトは更に機嫌を悪くしていく。
普段は温厚だし怒ることもないアルトなのに、こうも気分を害して態度に出すのは珍しく、ナイトやヴァルフレアといった性悪な人間とは徹底的にソリが合わないのだろう。
「ねぇダーリン、あのキモいのサッサとブッ飛ばしてよ」
「そうする。もう声も聞きたくないし」
キシュに促されたアルトは、魔力を滾らせて攻撃の姿勢に移る。ナイトと不毛な会話をする気力などもう無いし、すぐに決着を付けてエミリー達と合流したかったのだ。
「待て、私はまだ名乗りを上げていないんだが?」
「オマエのことなんかどうでもいい」
アルトは得意とする魔法の一つ、フレイムバレットを放って先制攻撃を仕掛けた。
夕刻時にも似た薄暗い空間を真紅の炎が照らし、猛スピードでナイトへと迫りゆく。
「まったく、せっかちな人間はモテないよ」
しかし、焦る様子もなくナイトはフレイムバレットを防ぎ切る。彼のバリアフルシールドの耐久性は極めて高いようで、全く傷付いていない。
「私はナイト・ストライカー。秘密結社ヨーツンエイルのメンバーであり、この世を下す者である」
「本当に何言ってるんだ、コイツ」
更に連撃を叩きこむアルト。フレイムバレットが続けざまにナイトに襲い掛かり、まるで多連装ロケット弾による砲撃の如く爆裂する。
だが、ナイトには一撃も到達していない。
「グレジオや大抵の闇魔法士よりは強いようだね。でも私には及ばない。惜しいねぇ」
と余裕を見せるナイトは、今度は自分の番だとアルトにレイ・ルクスを放つ。
「チッ…! やっぱり素の魔法力は相手が上か」
攻撃の気配を察したアルトは防御に転じており、レイ・ルクスの光線が到達する寸前にバリアフルシールドを展開していた。
S級ゆえの無詠唱でなければ間に合わず、A級以下の魔法士とは絶対的な差があると評されるのはこうした点からでもある。
「ふっふーん。いよいよあたしの本気が必要な時みたいだね、ダーリン」
「キシュ、ヤツを上回れる術か何かがあるの?」
「あるよ~。さ、あたしと一つになるのだ!」
「え、それはどういう…?」
「あたしに任せてちょーだい。ダーリンはそのまま動かないでね」
いたずらな笑みを浮かべるキシュは、アルトの額に手を当てる。
すると、キシュが眩く発光して、その光が粒子のようになってアルトに降り注いだ。
「一体何が…?」
と困惑するアルトだが、異変はすぐさま起こる。
両足首のくるぶし付近から光の翼が生えて、フワッとアルトの体が浮遊を始めたのだ。
この翼はキシュの背中に生えていたモノに酷似していて、フェアリーの能力そのものをアルトに注入したらしい。
『ダーリン、聞こえてるー? アナタの脳内に直接話しかけてまーす』
「キシュ!? てか、脳内に直接ってどうやって?」
『一つになろうって言ったでしょ? あたしとダーリンは同化してるんだよ~。ダーリンも考えるだけであたしに言葉を伝えられるから試してみて』
『こ、こんな感じに思考すればいいのかな? しかし、凄いなコレは』
『自らの主を強化する、これこそが他の使い魔とは違うフェアリーの真骨頂なんだよ~』
キシュとアルトは一心同体になっていて、口を動かさずともテレパシーのように思考するだけで意思疎通が可能なようだ。
驚くアルトだが、キシュの力を取り込んだことによって能力が大きくアップしたように感じ、実際に体内を流れる魔力は普段よりも活性化していた。
『体が軽い! しかも力がこみ上げてくるような感覚だ』
『これなら、あのキモ仮面に勝てるよ』
『けど、アイツもフェアリーを所持している。同じようにやってくるのでは?』
『アイツは魔法力を過信して、力押ししか考えられないヤツだよ。機動性とか戦術を駆使すれば、ダーリンなら勝てるよ!』
『キシュを信じてやってみる!』
力と共に勇気も湧き上がり、アルトは格上に思えるナイトに再び攻勢に打って出る。
「ナイト・ストライカー、覚悟!」
「ふん……フェアリーはキミだけのモノではないよ。私にもいるんだよ……いくぞ、ベルギュミス!」
ナイトはアルトの魔法を弾き、ベルギュミスを呼ぶ。
そして、キシュがしたようにベルギュミスも光の塊へと変化し、ナイトに吸い込まれるように一体化していった。
「ナイトめ、ヤツも同じくやってきたか…!」
「ふふふ、キミはフェアリーを使えば対等になれると意気込んだようだが、甘ちゃんだな! 私を超えようだなと、笑止千万! いや、むしろ失笑ものだ!」
「言わせておけば腹の立つ男…!」
くるぶしから光の翼を生やしたナイトもアルトのように地面から浮上し、対空迎撃をしながらも一気に飛び上がった。
「上を取ったぞ、アルト・シュナイド!」
「だからどうした!」
急旋回をしてレイ・ルクスを回避したアルトは、自らの機動力に感嘆する。地上を二足歩行していた時など比較にならない自由さで、しかも立体的に動けるので回避行動が更にしやすくなっているのだ。
「そんな光線程度で調子に乗るなよ!」
アルトはフェイントも交えつつ複雑な飛行をして、焦りを見せ始めたナイトに迫っていく。
二人のS級魔法士の戦いは、新たな局面に入った。




