反撃とエミリー達の勇気
アルトは右手の手甲に現れたフェアリー族の紋章を見つめ、無断で使い魔を得たことに罪悪感を感じながらも、現状を打破するべくグレジオを迎え撃つため魔力を漲らせた。
そんなアルトの傍に滞空していたキシュは、新たな主の名前を訊いていなかったなと彼の眼前にフワッと移動する。
「そーいえば、アナタのお名前は?」
「俺はアルト・シュナイド。ドワスガル魔法高等学校の一年生だよ」
「アルトっちか。改めてヨロシクね」
「う、うん」
アルトっちなどという初めての呼ばれ方をして困惑するが、それについて言及している余裕はない。
四階まで昇ってきたグレジオら闇魔法士は、奇襲を警戒しながらアルトを探しているのだ。
「アイツらの注意をあたしが引き付けてあげよっか?」
「そうしてくれると助かるけど、いいの? アイツらは危ない連中だし、見つかったら何されるか分からないよ」
「大丈夫大丈夫。任せて!」
「じゃあキシュが敵の気を引いてくれたら、俺がヤツらを強襲する。そうして一気に勝負をつけよう」
頷いたキシュは光の尾を引きながら飛び立ち、ビル内を捜索するグレジオへと近づいていく。
それを見送るアルトは、腰を低くして見つからないよう動き、敵の背後を取れる位置を目指してゆっくりと進む。
「はろはろ~。こんなトコロまであたしを探しにきたの?」
「あ、テメェ…!」
「そんなに怖い顔しちゃってどうしたん? 話聞こうか?」
「フザけんなよ、テメェ! 人のこと散々バカにしやがって!」
「顔真っ赤でウケるんですケド~!」
と、煽り散らかすキシュ。人を苛立たせる才能はピカイチのようだ。
そんなキシュにグレジオは激怒して拳を震わせ、まんまと彼女の陽動に引っかかる。アルトが傍にいる可能性など忘れたかのように、キシュにだけ意識を向けて注意散漫になっていた。
このチャンスを逃すアルトではなく、敵の背後を取る。
「これで…!」
アルトはフレイムバレットを三連射し、闇魔法士三人を同時攻撃した。
「なんとッ…!?」
狙い定める余裕があったこともあり、フレイムバレットは的確に闇魔法士達に直撃する。グレジオの両側に控えていた二人の闇魔法士は重症を負って気絶し、爆煙の中に倒れた。
だが、グレジオは負傷しながらも耐えきる。全身に魔力を漲らせていたため身体が強化され、防御力が向上していたことからダメージを軽減できたのだ。
「チッ、アルト・シュナイドめ…!」
グレジオは目眩に襲われながらも反撃に移ろうとする。右手を差し向け、攻撃魔法を放とうとした。
しかし、
「ざ~んねん。あたしのダーリンに手は出させないよーん」
今度はキシュがグレジオに接近し、両手を突き出す。
「ウインドインパクトォ!」
そして近距離戦用の風系魔法、ウインドインパクトを唱えた。
キシュの両手に魔法陣が展開され、そこから衝撃波のような突風が吹き荒れる。人体をも容易に吹き飛ばせる威力があり、負傷して動きの鈍っていたグレジオは防御する暇もなく突風に巻き込まれた。
「うわっ…!」
そのままグレジオはビルの床に叩きつけられて、ボロボロに経年劣化していたこともあって床が崩落し、残骸と煙と共に下の階へと落下していく。
ビルの内部には静けさが戻り、アルトは敵を制圧したことを確認してからキシュを呼び戻した。
「キシュも魔法が使えるのか」
「だって魔法生物兵器なんだもの、こんくらいは朝飯前よ」
「兵器……そうは見えないけど」
「可愛く見えても意外と怖いのよ~、フェアリーって」
ニッと愛らしく笑うキシュは兵器らしからぬ見た目だが、実際のところ彼女の魔力は並みではなく、インパクトウインドの性能もアルトと同等のレベルにあった。
「エミリーやナリア達が心配だ。仮面の男も見つけなきゃだし、ここから出よう」
アルトはキシュを連れてビルから脱出し、地上へ続く階段の方向へと振り向く。
だが、この時のアルトは気が付いていなかった。
崩落した床の残骸を突き破り、復讐の炎を瞳に宿らせたグレジオが再起していたことに……
一方その頃、エミリーはナリアと合流して、ドワスガルの学生や調査チームの面々の避難誘導を行っていた。
こういう場合、大人である調査チームの魔法士が率先して動くべきなのだが、残念ながら対人行動は得意ではないらしく、しかも戦闘も無理なために任せられなかったのだ。
「先生達も地下には来ていなかったし、こうも私達が頑張らないといけないなんて」
「まったくね。でも、シュナイド君に比べたらこの程度どうって事はないわ。彼は今、命懸けで闇魔法士と戦っているわけだし」
「そうだね……けど、アルト君なら大丈夫。めっちゃ強いもん」
エミリーはアルトに全幅の信頼を寄せていて、それはアルトが魔物やグレジオを圧倒した場面に立ち会って見守ったからである。今度も絶対アルトが勝つと確信して、だから恐れずに皆を地上へ誘導する役割を買って出たのだ。
「おーい、そっちはどうだ? もう全員避難できたか?」
と、ウィルとシュカも合流する。この二人は闇魔法士がいない区画にて、逃げ遅れた人がいないか捜索していたのだ。
「さっき最後の一人を見送ったところなの」
「そうか。じゃあエミリーちゃん達は先に地上へ行ってくれ」
「ウィル君はどうするの?」
「オレはアルトの支援に行く。アイツ一人で無茶やってるのに、友達のオレが見捨てるなんてできないからな」
ウィルは心の友であるアルトを手助けするべく、戦闘音の鳴り響く地区へと向かおうとする。戦いは物量差で勝る方が有利なものであり、一人でも多くアルトの味方をすれば勝率は更に上がるはずだ。
「ウィル、ウチも行くよ」
「何言ってんだ! シュカはエミリーちゃん達と行くんだよ。ここから先は命のやり取りとなるんだから、そんな危険な場所に連れていくわけないだろ」
「ウィルと一緒なら怖くない。それに、ウチだってウィルが危ない事をしようとしてるのに、それを見送るだけなんて無理だよ」
「シュカ……分かった、オレの傍から離れるなよ」
どう言ったところでシュカは引き下がらないだろう。
それを察したウィルはシュカの腕を掴み、自分から離れないよう指示する。
「私も行くかんね。もしかしたら、恐怖のあまりに隠れた場所から移動できていない人もいるかもだし、まだ捜索してない場所を探すよ」
「ったく、アルトが言いそうなことだよ。だけど無理はするなよ、エミリーちゃん。戦闘している場所には絶対に近づくな」
「うん。アルト君の足を引っ張りたくないもの、出来る限りでやってみる」
入学式の日、上級生に襲われたエミリーは体が恐怖で強張り、意思通りに動かせずにいた。もしアルトが助けてくれなかったら、されるがままだっただろう。
その時のように、闇魔法士の攻撃に遭遇して足が竦み、逃げ出せない人がいるかもとエミリーは心配しているのだ。
だからこそ、今度は自分がそうした人を助けたいとエミリーは思っている。これは間違いなくアルトの影響でもあった。
「私も皆の手伝いをさせてちょうだい」
「ナリアちゃんも?」
「クラス委員長でもあるわけだし、クラスメイトが残っているのに私が先に行くなんてダメでしょう?」
「じゃあナリアちゃんは私と逃げ遅れた人を探そう」
ウィルを先頭として、アルトの身近な者達が道を引き返していく。
遠くからフレイムバレットの爆発音が耳に届くが、誰一人として恐れを抱いておらず、今するべき事に取り組むだけだという気合に満ち溢れていた。




