目覚めし古代の魔法生物
地下でナイトと合流したグレジオは、アルトの姿を探して周囲を見渡す。
ドワスガルに所属しているS級の学生はヴァルフレアとアルトのみであり、どうやら一学年の宿泊学習であるようなので、この場でナイトと交戦したのはアルトで相違ないと確信していたのだ。
「グレジオ、キミはあのS級の学生を知っているのかい?」
「ああ、知っている。俺の邪魔をしてドワスガル襲撃を失敗させた張本人だ……アイツだけは許せない」
「へぇ。ま、私の敵ではなかったし、また攻撃してきたとしても瞬殺してやろう」
「フン……侮らないほうがいいと思うがな」
グレジオの忠告を無視し、燕尾服の襟を正しながらナイトはテントへと歩き去る。
いくら相手がS級だとしても、自分は特別な強者であるという自負があるので、負けるはずがないと余裕の心持ちであった。
ウィルの援護を受けて撤退したアルトは、ひとまず崩落しかけている建物に身を隠して敵の様子を窺う。
あの燕尾服の魔法士はグレジオやヴァルフレアよりも強いようで、アルトの実力をもってしても勝つのは厳しそうな相手であり、安易に攻撃に打って出るのは危険なので慎重に動く必要があった。
「シュナイド君、無事?」
と、暗がりから声を掛けてきたのはナリアだ。アルトが戦っている隙に、ここに逃げ込んでいたらしい。
他にも調査チームの大人や、数人の学生が隠れていた。
「俺は大丈夫。けれど厄介な魔法士だよ、敵は。アイツを倒すのは簡単じゃない」
「なら戦いは避けてやり過ごした方がいいわね」
「そう思うけど……」
アルトは軍人ではないので、ここで闇魔法士と交戦する義務はない。
しかし、相手の出方次第では戦わざるを得ないのだ。例えばエミリー達が襲われたとなれば、ただ見ているだけなどアルトの性格が許さないだろう。
「どうしたものかな……逃げるにしても一筋縄ではいかないな」
地上へと続く階段には見張りとして闇魔法士二人が立っている。アルトならば排除できるだろうが、騒ぎを起こせばすぐにナイトらが駆け付けるだろうし、どう対処したものか逡巡していた。
「てか、アイツらはテントで何をしているんだ?」
「きっと古代の物品を物色しているのよ。闇魔法士は貴重な遺物を強奪したりもするの」
「盗みを働いて海外にでも売り捌く気なのか」
「それもあるけど、戦闘で有効な道具は自分達の戦力としても活用するの」
「うーん、そいつはマズいね。ヤツらがこれ以上強くなってしまうのは」
どちらにせよ、闇魔法士の力を増幅させる結果になるのは間違いない。
アルトは相手の姿を見失わないよう、物陰から身を乗り出して闇魔法士達を観察する。
調査チームが設置したテント内には布製のシートが敷かれて、その上に回収した遺物が幾つも置かれている。それらは現代人には用途が不明な品ばかりだが、古代ではありふれた道具だったのかもしれない。
「ん…?」
しゃがんで遺物を手に取りながら確認していたナイトは、シートの隅にあった小さな木箱を見つけて持ち上げる。
そしてゆっくりと木箱を開くと、中には二つの魔石が仕舞われていた。
「…フフ、コレは面白いねぇ。わざわざ来た甲斐があるというものだよ」
魔石の一つを取り出して眺めつつ、ナイトは仮面の下で満足そうに呟く。
その拳よりも少し大きな魔石の内部には、人型の小さな生命体が封印されていた。少女のような姿をしているが、背中には翼が生えていて、人間とは異なる種族であることを窺わせる。
「なんなんだ、ソレは。小人が入っているのか?」
グレジオも今までに見た事が無い生命体に興味をそそられ、ナイトが手にしている魔石を注視した。
内部に封じられている少女の銀色の頭髪は腰に届く程に長く、とても神秘的な雰囲気を醸し出しておりグレジオは息を呑む。
「知っているかい、フェアリーを」
「いや、知らないな」
「これは古代において人工的に作り出された種族の一種だ。人間と魔物の遺伝子を用い、そこに魔法学を組み合わせることで超常的な力を持つ生命を完成させようとしたのさ」
「へぇ、じゃあフェアリー族のソイツはメチャクチャ強いのか?」
「いや、計画通りには進まず、中途半端な能力しか発現できなかったらしい。しかし、そんなフェアリーとはいえ貴重だし有用だよ。私のような魔法士にはね」
ナイトは魔石の封印を解き、フェアリー族の少女を掌に寝かせる。
すると、フェアリーは目を覚まして、自身の置かれた状況を確認しようと周囲に視線を巡らせた。
「我はどれ程眠っていた?」
そのフェアリーは子供のような容姿をしながらも、口調は落ち着き払った老人のようで、外見からのイメージとはかけ離れている。
「キミがいつ頃封印されたか知らないから私には答えようがない。が、キミを製造した文明は大昔に滅び去っているし、相当な年数を魔石の中で過ごしたようだね」
「そうかい。で、貴様がワタシの新たな主か?」
「ああ、そうだよ。私に力を貸してくれ」
「…いいだろう。貴様にはワタシを扱うだけの能力があるようだ」
「ふ、認めてもらえて嬉しいよ。私の名はナイト・ストライカーだ」
「ワタシはフェアリーのベルギュミス。退屈させるなよ、このワタシを」
ベルギュミスと名乗ったフェアリーはナイトを主と認めたようで、彼の掌の上で不敵に微笑む。
二人の様子を間近で見ていたグレジオは、木箱のもう一つの魔石を取り出した。その中にもフェアリーが封印されていて、ナイトと同じように封印を解いて付き従わせようと話しかける。
「おい、オマエもフェアリーなら俺に従え」
と命じるが、魔石から解放されたフェアリーは気怠そうにアクビをしながら無視をする。
「はー、ダルいわ~。てか、ここドコだし」
「おい、俺の話を聞け」
「アンタ、誰? あたしに命令するなんて何様?」
「なんだ、コイツ…!」
生意気な態度で睨みつけるフェアリーは、ナイトのベルギュミスとは大違いの性格のようだ。
見た目にしてもピンクカラーのセミロングヘアだし、神秘性というよりは悪童みを感じさせる。
「つーか、アンタ程度のショボい魔法士があたしのダーリンになろうなんて一万年と二千年くらい早いってーの」
「俺はS級の魔法士だぞ!」
「でもあたしを制御できるレベルじゃないじゃん。アンタの魔法力を解析してみたけど、すっごい雑魚いよ」
「ガキが俺をバカにするのか…!」
「ざぁ~こざぁ~こ! 家に帰ってママに泣きつけ!」
煽るだけ煽って、ピンク髪のフェアリーは飛び去っていく。半透明の翼をはためかせて光跡だけを残し、その姿は見えなくなってしまった。
「クソが……なんなんだよ、フェアリーってのは!」
「フェアリーを従えさせるには、相応の才能を持つ魔法士でなければならないんだよ。そう、私のようにね」
「S級ってだけではダメなのかよ」
「ダメだね。S級の中でも、更に選ばれし存在だけが彼女達と手を取り合えるんだ。単純に魔法力に優れているのは勿論、フェアリーとの相性などといった特別な資質がなければいけないのさ」
フェアリーには魔法士に従属する使い魔としての役割があるのだが、高い能力を持つ者にしか従わないようだ。S級であってもグレジオではフェアリーの満足する域には達しておらず、使い魔とするには相当な才覚が必要らしい。
「さ、逃げたフェアリーを追うんだ。せっかくの貴重な遺物をみすみす失うわけにはいかない」
「あのアルト・シュナイドとかいうクソガキに奪われるわけにはいかないしな」
「そういうことだよ」
ナイトはグレジオや闇魔法士に命じ、ピンク髪のフェアリー捜索を始める。
「もう一体も私のものとすれば、ますます私は強くなるね……古代の生物兵器を解析する丁度良いサンプルにもなるし……」
近くを飛ぶベルギュミスにも聞こえないほどの小さな呟きは、地下世界の暗闇へと消えていく。




