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クラス委員長はライバル候補?

 一時間半にも渡り荒野を歩き続けたアルト達ドワスガルの生徒は、遂に目標地点である古代遺跡へと到達した。


「やっと到着したのか……」


 いくら魔力で肉体が強化できるといっても疲労は免れられず、多くの生徒が汗を拭いながら険しい表情をしており、これから始まる遺跡見学ツアーなど早く終えて帰りたいという気持ちになっていた。

 だが、当然ながら帰りも同じように徒歩移動せざるを得ないわけで、それを考えるとゲンナリとして更に意気消沈している。


「なあアルト、オマエ魔法列車の中で羽を生やして空を飛んでみたいって言っていたろ?」


「そんなこと言ったような気がする」


「あの時はバカにしてしまったけどな……今となってはメッチャ気持ちが分かるぜ。飛行さえ出来れば、こんな疲れることもなかったろうからな」


 ウィルは上空を横切る鳥を見上げながら、自分も同じように飛べたのならいいのになと思う。鳥とて飛行するのに体力を使うのは分かっているが、重力に縛られて大地を這いずるように二足歩行するよりは遥かに楽であるだろう。

 

「さて皆さぁん、いよいよ古代遺跡に入りますよぉ。現地の調査チームの方々のご迷惑にならないようにお願いしますねぇ」


 のんびりとした性格のミカリアだが、教師としての矜持は忘れていないようで疲れを全く見せず生徒を誘導する。


「これが古代の……」


 半砂漠化した荒野の一角、そこに存在する広大な古代遺跡。鉄やセメントで形作られた建築物の名残や、セラミック複合材やスチール合金製の道具の残骸などが転がっており、ここで大昔に人が生活していたことを窺わせる。

 しかし、単なる街ではないようだ。普通の生活スペースというよりは、軍事基地として利用されていたような雰囲気がある。


「なんつーか、異質なカンジだよな。昔の人って、こんなトコロに住んでいたんか」


 ウィルは膝を付き、ヒビ割れて今にも砕け散りそうなコンクリート製の地面を指でなぞりながら呟く。


「リンザ先輩にも訊いたことだけど、なんで今よりも発達した文明だったのに滅んだんだろうね」


「あら、シュナイド君も古代文明に興味があるのかしら?」


「ああ、ナリアか」


 崩れかけている建物を観察していたアルトに声を掛けるのは、昨日ビーチで共に遊んだクラス委員長のナリアだ。紫色のロングヘアをサイドポニーで纏めているのがトレードマークで、乾いた風に揺られるのを抑えながらアルトと同じ建物を見つめている。


「今まで勉強してこなかったから古代に詳しいわけじゃないんだけど、興味はあるかな。魔法列車よりも更に高度な技術を使用した魔法道具とかがあったらしいし、リンザ先輩が言うには月にすら到達していたって話だしロマンがあるよね」


「分かるわ。私は以前から古代について調べるのが趣味で、今日の宿泊学習も楽しみにしていたのよ。こうして実物の遺物を見られる機会は少ないし、許されるなら転がっている道具の破片でも持ち帰りたいわね」


「はは、それは調査チームの人に怒られそうだ」


「ふふ、そうね。そういえば、さっき古代文明が何故滅んだのかを気にしていたわね?」


「うん。俺達よりも優れた人々なら、どうして滅亡したのかが分からなくてさ。リンザ先輩が言うには魔物が原因という説が有力らしいんだけど……」


 かつて”地球”と呼ばれたこの星では、幾度となく生物の大量絶滅や文明崩壊が発生してリセットが繰り返されてきた。

 それは巨大隕石の激突や、天変地異など様々な原因によって引き起こされたものであるが、アルト達の示す古代文明が消え去った理由は未だに確定はしていない。


「この分野を研究する者にとっては最大のナゾね。なにせ世界の終末に詳細な記録を残す暇なんてないでしょうし、どのような現象が起きていたのかは不明なの。ただ、リンザローテ会長が仰るように魔物説が濃厚ね。人類に牙を剥いた巨大なヘビのような魔物が厄災をもたらしたという伝承も残っているし」


「ヘビの形をした魔物? それが世界を滅ぼしたというの?」


「直接的な原因かは分からないわね。ただ、古代においては人工的に作り出した魔物が暴走して甚大な被害をもたらしたともされているし、そうした異形の存在が大昔の人類を脅かしていたのは事実よ」


 魔法学と生物学を融合することで、人工の魔物を作成するプロジェクトが古代では進められていたというのは文献で確認できることだ。

 そうした事実や言い伝えなどを照らし合わせて、歴史を紐解くのが歴史学の真骨頂であり、ナリアも学生でありながら研究者のように古代の勉強に熱心に取り組んでいるらしい。


「……ねえ、シュカちゃん。いつの間にアルト君はナリアちゃんと仲良くなってるの?」


「あちゃー……昨日遊んで距離感が縮まっちゃったか」


 アルトとナリアが熱心に話し込んでいるのを、少し離れた場所の物陰からエミリーとシュカが観察している。これまでアルトとナリアが会話する機会など少なかったのだが、昨日のビーチバレーを通じて交友を深めたことにより、自然と会話できるくらいには仲が良くなってしまったようだ。

 これは、エミリーにとっては頭の痛い問題である。エゴと言われてしまえばそうなのだが、少しでもアルトを独占したいという気持ちがあるためだ。


「しかしエミリー、相手がクラス委員長でもビビることはないよ。というか、リンザローテ会長を敵に回せる度胸があるのだから、こんな程度で怖気づくなんてないよね?」


「勿論! てか、ナリアちゃんは別にアルト君が好きってわけじゃないだろうしさ。多分だケド……」


「うんうん。さ、行ってきなさいエミリー!」


「任せぃ!」


 エミリーは意気揚々と物陰から飛び出し、アルト達に合流する。ナリアからも邪険にされることはなく、会話に交ざることができたようだ。

 どうやら上手く溶け込めたようだと安心するシュカは、胸を撫で下ろしつつホッと一息つく。大切な友人が悲しい目に遭うのは御免だし、誰が相手であってもエミリーを応援すると心に決めているのだが、クラスメイトとバチバチに敵対するような展開は可能ならば避けたいものだ。


「よぉシュカ、こんなトコロに居たのか。なぁ見てくれよ、このゾウに似たジョウロを。水が出る部分が鼻になっていてさ、昔の人って面白いモンを思いつくものだよな」


「ハァ……あんたは平和そうでいいわねぇ」


 ゾウを模ったジョウロを見つけてきたウィルは、子供のような純真さで母親に見せびらかすように抱えている。


「あんたが余計なことをしたから、エミリーの心労が増えたのだと分かっていないのかねぇ……」


「え、なんの話?」


「なんでもないわ、アホ!」


 能天気にハテナマークを頭の上に浮かべているウィルをどつきながら、シュカも遺跡見学を再開する。魔法薬以外の勉学には乗り気ではない彼女だが、せっかくの機会なので見て回るのも悪くはない。


「魔法薬に関する資料でも残っていればいいんだけどな~」


「知ってるか? この遺跡には地下もあるらしくて、そこで結構貴重な遺物が発見されているんだってよ。もしかしたら、魔法薬の事が記された本とかだってあるかもしれないぜ」


「へ~。ウィルのクセに有益な情報じゃないの」


「見直したか?」


「全然」


「オイ」


 遺跡見学自体は自由に動けるので、シュカはウィルに教えてもらった通りに地下へと赴こうとする。おそらくは専門家による調査チームもいるだろうし、邪魔にならない程度に魔法薬関連の何かが見つかったか質問してみるのも悪くはないだろう。

 そんなシュカにウィルもついていく。どうせなら、まだ知り合っていない女子に声を掛けるのもいいのだが、この二日間でシュカに怒られてばかりなので、大人しくしておこうという心理が働いていたのだ。

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