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不穏な気配、再びの闇魔法士

 就寝時刻がもう間もなくと迫る中、入浴を終えたアルトは一人で宿の中を散策していた。今まで故郷の貧乏田舎から外に出る機会などなかった彼にとって、他の地方で見る物全てが新鮮で好奇心が抑えられなかったのだ。

 古代文明における和風文化を再現した宿の雰囲気を堪能しながら歩いていると、見慣れた女子二人の姿が目に入った。


「おや、アルトも探検ですかな?」


 その片割れであるシュカは、手を振りながらアルトを誘う。


「まあね。旅行とかしたことなかったし、こういう宿に来るのは初めてで色々と見ておこうと思って」


「そっか。ウィルは?」


「ああ、ウィルなら……女子用温泉の入口の前で待ち構えてナンパするって言ってた」


「あの変態阿呆め……」


 呆れるようにシュカはため息をつき、うな垂れる。こんな場所でも節操なく女子の尻を追いかけているなど、もはや残念でしかなかった。


「ウチはウィルを半殺しにしてくるね。エミリーはアルトと探索の続きをしなさいな」


 エミリーが満足に繁華街でデート出来なかったのを知っているシュカは、再び空気を読んでエミリーとアルトの二人を残して去って行く。

 こういう思いやりの出来るシュカがいるというのに、ウィルは何が不満なのかとエミリーは思わざるを得ない。


「シュカちゃんも大変だよね~。好きな人がアレじゃあね」


「まったくウィルのヤツめ……シュカに気苦労を掛けるのはいい加減にヤメなさいって言ってやりたいよ」


「アルト君はシュカちゃんみたいな女の子がタイプ?」


「好きなタイプとかは考えたことはないけど、シュカはイイ娘だとは思うよ」


 シュカを褒めるアルトの後ろ姿に、エミリーは少々頬を膨らませる。

 このような場合、”エミリーの方がいいかな”とか気の利いた一言を言ってもらいたいものなのだ。


「そろそろ就寝時間だし、部屋の方に帰りながら色々見て回ろうか」


 複雑な女心など全く理解していないアルトは、無邪気な子供のようにワクワク感を醸し出しながら探索を続行する。

 だがエミリーからしたら、もはや宿などどうでもよかった。


「ねえアルト君……リンザローテ会長とは付き合ってるの?」


 二人きりになれば、普段は鳴りを潜めている恋心が暴発しても仕方がない。

 前々から気にしていたリンザローテとの関係について、どんな返答が来るのかドキドキしながらも問いたださざるを得なかった。


「はは、ウィルにも同じようなコトを聞かれたけど、俺とリンザ先輩は付き合っていないよ。確かに仲が良い方ではあるけれど、あの人と俺じゃあ格が違い過ぎる」


「ふーん……じゃあさ、もし釣り合うのなら付き合いたい?」


「どうかな……難しい質問だな」


 リンザローテは魅力的だとは思うが、畏れ多いという感情が強すぎて、そんな仮定すらしたことがない。あまりにも自分とレベルが違う相手であるため、もはや妄想だとかの対象にすらならないのだ。


「ゴメンゴメン。妙なコト訊いちゃって」


「いや、いいさ。しかし、年頃の学生は恋バナが好きっていう噂は本当だったんだね?」


「そりゃあ思春期なんですから、恋愛とかエッチなことを考えるのが役目みたいなもんですよ。アルト君だって、今日ビーチで何人もの女の子と遊んでムラムラしちゃったんじゃないの?」


「いやぁ、そんなことは……」


 この男、誤魔化しが下手である。

 水着を纏った同年代の女子に囲まれてテンションが上がっていたのは事実で、ほとんど半裸のような彼女達に視線が誘導されてしまっていた。

 それを思い出しながらも、変態だと言われたくない一心から否定したのだが、アルトをずっと観察していたエミリーには通用しない。


「ほほお? でも、クラス委員長のナリアちゃんのオッパイをガン見してたよね?」


「うっ……」


「ビーチバレーしてる時、凄く揺れてたもんね~。見ちゃうよね~」


「うぅ……」


 アルトは呻くだけで反論できず、これでは女子に嫌われても仕方がないと猛省する。


「俺もハレンチな男なのかもしれない……反省するよ」


「そ、そんなに落ち込まなくても。私のであれば存分に見ていいしさ」


 トボトボとした足取りのアルトを気遣うエミリーは、もう間もなくで客室棟に差し掛かるという時になって何やら騒々しい声を耳にし、そちらに目を向ける。

 すると、客室棟の廊下で男子が女子に追いかけられている様子が視界に飛び込んで来た。


「アレって、シュカちゃんにウィル君じゃないの」


 追い回されているのはウィルで、怒りの表情のシュカは鬼のような気迫だ。

 女子風呂の近くでナンパ待機していたウィルを見つけ、宣言通りに半殺しの制裁を加えようとしているらしい。


「た、助けてくれアルト!」


「アルト! その阿呆を捕まえて!」


 二人から要請が飛んで来たアルトは迷わない。


「お、おいアルト!? なんでオレの前に立ち塞がる!?」


「すまない、ウィル。諦めてシュカに反省の態度を示した方がいいと思うんだ」


 シュカを敵に回すのは憚られたので、ここは彼女に加勢することを決めたアルト。

 以前のグロット・スパイダー騒乱事件でリンザローテを助けてもらった恩もあるし、何より怒ったシュカと相対するなど恐ろしく、本能的な自己保存本能が働いた結果であった。


「うわっ!?」


 アルトが放ったバインドロープが見事にウィルを捕らえ、その場に転がる。


「ありがと、アルト。さて……ウィルにはお仕置きが必要よね?」


 ジタバタと暴れるウィルの上に跨り、シュカは悪女のように見下しながら強烈なプレッシャーを纏う。

 そんな姿を見ればウィルも大人しくなって、冷や汗をかきながらプルプルと震えている。


「ヒェッ…! オ、オレがそんなに悪いのかよ!?」


「アンタは声を掛けた女子の尻を触ろうとしていたでしょーが!」


「しかし未遂であるのだからセーフだろ!?」


「アウトに決まってるでしょ、バカ! ウチが止めなかったら正真正銘の犯罪者になってたって分からないのかね、この男は!」


「お、おい、頭を振るのをヤメなさいよ……オエェェエ」


 襟首を掴まれてブンブンと頭を振り回されるウィル。脳が揺れて吐き気を催し、目をクルクルと回している。

 そんな夫婦芸のような二人のやり取りを見て、恋人を作るならこのような楽しい時間を共有できる相手がいいかなと思うアルトであった。






 アルトらが宿泊している宿から少し離れた山岳地帯、そこに立つボロボロの山小屋の中に人影がいくつか揺らめく。灯りも点けずに無人を装っているようで、となればマトモな集まりでないのは分かる。


「おい、例の秘密結社からの使者とやらはまだ到着しないのかよ?」


 紫色のローブを羽織る男が、屋内の椅子にふんぞり返って座る仲間の男に問いかけた。


「さぁな。今日には合流する予定だったが、道にでも迷ってるんじゃねぇの」


 と、答える男はグレジオであった。一ヵ月ほど前にドワスガル魔法学校を襲撃した闇魔法士であり、アルトの妨害を受けて逃亡していたが、再び表舞台に戻ってきたのだ。


「あーあ、待つってのは性に合わねぇんだけどなぁ。グレジオよぉ、俺達だけで古代遺跡の襲撃をやっちまおうぜ? 夜の方がやりやすいだろう?」


「そうではあるが、闇魔法士のスポンサーである秘密結社サマの要望だから無碍にはできんのだ。ヤツらがいなきゃ無法者の俺達は衣食住に困って立ち行かねぇってのは、頭の悪いオマエでも分かるだろ?」


「へっ、バカで悪かったな」


「いいから外を見張ってろや」


 グレジオは苛立たしそうに配下の闇魔法士に見張りを命じ、自分はアクビをしながらも菓子をつまむ。

 彼ら闇魔法士の狙いも新たに発見された古代遺跡のようで、再びの波乱が巻き起こるのは確定事項のようだ……

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