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エミリーとの時間、アクセサリーショップにて

 観光客で混雑している繁華街を歩くアルトは、人の熱気が気温を上昇させているのではと思いながら額の汗を拭う。実際に湿度が高いように感じられ、陽が傾いたのにも関わらず真夏そのものの暑さに少々参っていた。

 だが、隣のエミリーはビーチバレーの疲れすらも感じさせない元気さで、アルトに更に密着してくる。腕だけでなく、体の全てでアルトとくっつきたいと言わんばかりだ。


「アルト君、あのアクセサリーショップに行こ」


 エミリーは小さなアクセサリー店を指さし、頷くアルトを連れていく。


「アルト君もさ、こーいうのでオシャレしようよ」


「俺が…?」


 今までオシャレに無頓着だったアルトにとって、アクセサリーなどという着飾るためのアイテムは無縁の存在であった。

 一応は特注の制服もオシャレの一環ではあるが、これを用意するキッカケを作ったのはリンザローテで、デザインをしたのはコマリだし、アルトだけでは作成しようという発想にすら辿り着かなかっただろう。

 そんなアルトは店内に並ぶキラキラとした装飾品の数々を見ても、自分に合うとは思えずにウーンと唸るしかない。


「ウィルなんかはジャラジャラとしたネックレスだとかを付けてるけどさ……ああいうのがウケがいいのかな?」


「いや、正直ダサいと思う」


 身近な例としてウィルが思い浮かび、彼が身に着けている幾つものアクセサリーは女子ウケがいいのかとエミリーに問うが即答で否定される。感性は人それぞれなので一概に悪いとは言えないものの、エミリーが良く思わない格好をしたくはない。

 

「似合うのを探すってのは大変だな……その点エミリーは可愛いし、何でも似合いそうでいいよね」


「そ、そうかな?」


「うん。そうだ、何か気に入ったのがあれば言ってよ。俺が買ってあげるからさ」


「え、でも悪いよ」


「いいっていいって。いつもお世話になってるし、ささやかなプレゼントってことで」


 リンザローテと並んで接する機会が多いエミリーにはアルトも親近感が湧いているし、こういう特別な行事の時にはプレゼントの一つくらい送りたくなるものだ。


「えへへ、じゃあお言葉に甘えて……どうしよっかなー」


 商品を吟味するエミリーは、シルバーのバングルに目を付けた。細いながらも表面は波のように美しくうねって、デザイン性のある形状をした逸品である。

 だが、これはエミリーの可愛らしさとは相反する物であり、アルトに合いそうだなと注目したのだ。アルトのスタイリッシュなワインレッドの特注制服に、ワンポイント加えてカッコ良さを演出しようと考えたのだった。


「ねえ、コレなんかさ……」


 と、アルトにススメようとしたのだが、


「あ……」


 近くにいたカップルの男女も同じ商品を見ていたようで、彼女が彼氏にと手渡したのだ。

 そして気に入った彼氏が会計まで持っていき、残り一個だったために品切れとなってしまった。


「エミリー、さっきのがよかったの? なんなら俺が交渉してこようか?」


「あ、いやそこまでは……」


 少々残念ではあるものの、わざわざアルトに交渉してもらうのは腰が引けるので、他の何かを選び直そうとするエミリー。

 しかし、またしても予想外の邪魔が入ってしまった。


「あらあらぁ、こんなところに居たのですねぇ。もう間もなく宿でのお食事の時間になりますからぁ、今日のところは戻ってくださいねぇ」


 そう声を掛けて来たのは担任のミカリアだ。教師陣は生徒が迷子になったり、時間に遅れたりしないよう見回りをしていて、アルトとエミリーの姿を見つけて夕食の時間が近づいていることを教えてくれたのだ。


「今日はここまでだね、エミリー。最終日にも自由時間はあるし、そこでまた買い物しよう」


「うん。また付き合ってよね!」


「勿論」


 ここで交際の意味で付き合って欲しいと言えたなら、どれほどよかったであろうか。

 だが、今の関係値を壊してしまうことを恐れるエミリーは、これ以上踏み込むことができなかった。






 アルト達ドワスガルの生徒が宿泊する宿は、古代文明における和というテイストを全面的に押し出しており、どこか心が安らぐ落ち着いた雰囲気である。


「なあ知ってるか、アルト。古代文明には”ニッポン”という島国があったらしくてな、和風という独自の文化を築いていたんだと」


「へー。この宿はそのニッポンという国の伝統スタイルを模倣したものなの?」


「らしい。まあ残されていた文献とかから再現したらしいから、完璧な模倣品ってわけじゃないんだろうけどさ」


 滅亡して久しいとはいえ、古代文明に関する記録や書物は各地に残されており、それを参考にして再現しようという活動が盛んである。

 実際にこの宿泊学習の目的は、新たに発見されて発掘作業が進められている古代遺跡の見学であり、現代と古代は切っても切り離せない関係なのだ。

 割り振られた部屋に戻ったアルトとウィルは、部屋に備え付けられていた浴衣という衣服を手に取る。


「これも和風ってヤツ?」


「そうなんじゃない? 涼しそうでイイ感じな服だな」


 ウィルは早速と制服を脱ぎ去り、シンプルな浴衣へと着替える。もともと顔立ちと体格がイイこともあり、風情ある姿になってアルトも感嘆した。


「ウィル、サマになってるよ」


「ふっ、オレってば何を着ても似合っちゃうんだよなぁ」


「マジでそう思う。羨ましいよ」


 と言いながらアルトも浴衣を羽織るが、服側のサイズが少々大きいために不格好で、鏡を見ながら調整する。


「エミリーちゃん達もコレ着てるんかなぁ。だとしたら楽しみだよな!」


「そ、そうだね」


「エミリーちゃんの大きな胸がいつも以上に強調されて……うおーッ、早く見たいぜ!」


「本人を前にしてイヤらしい目でジロジロ見ちゃダメだぞ」


「安心しろ。盗み見るカンジでいくから」


「むしろ変態じゃねーか」


 シュカの言うようにウィルにはデリカシーが欠けているが、分かっていないのは当の本人だけである。

 が、アルトとてウィルにどうこう言える立場にはない。なにせ、アルトもエミリーの浴衣姿を妄想していたからだ。


「よっしゃ、早速食事の会場へ行こうぜ!」


 ワクワク感を隠せないウィルに肩を抱かれたアルトは、その勢いのままに大広間へと向かうのであった。






 ドワスガルの生徒で埋め尽くされている大広間には多数の座席が用意され、特にクラスで区切られているわけでもなく自由に座っていいとのことであった。

 アルトとウィルは、その中でエミリーとシュカを探す。


「おーい、アルト君コッチだよ!」


 と聞き慣れた声で呼ばれ、そちらに振り返るとエミリーとシュカが座席を確保していた。


「ああ、待たせたね」


 女子は着替えに時間が掛かると思っていたが、逆に彼女達の方が早く到着していたようだ。

 アルトはエミリーに誘われるがままに隣に座る。


「アルト君も浴衣っていうのに着替えたんだね。その…カッコイイよ」


「あ、ありがとう」


「私はどうかな…?」


 腰を落ち着けたアルトは、失礼を承知で浴衣のエミリーを観察する。

 白を基調としながらも、赤や黄色の花がアクセントとして描かれており、華やかさと可愛らしさを併せ持ったデザインはエミリーにピッタリと合っていた。


「凄く…可愛いと思う」


 あまりの美少女っぷりにアルトは語彙力を失い、ただ感じるままに呟くことしかできない。

 が、エミリーにはそれで充分で、アルトの視線を独り占めしているという事実だけでも嬉しかった。


「良かった。で、でも胸のところが少し苦しくて……」


 エミリーもまたサイズが合っていないのだが、それは彼女の豊かな胸のせいだ。

 我慢していたが限界で、エミリーは胸のあたりを少し緩める。


「!?」


 アルトは部屋でウィルに対して、エミリーをイヤらしい目で見るのはダメ、と発言したことなど忘れているのだろう。


 彼女の露わになった胸元の双丘から、目が離せなかった。

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