アルトがナンパ!?!?
やっとのことでエミリーとミカリアへの日焼け防止オイル塗りを終えたアルトは、グッタリとしながら一息つく。これがウィルなら興奮でテンション爆上がりだったのだろうが、真面目系男子のアルトは緊張しっぱなしで体力を消耗しただけであった。
「お疲れちゃん、アルト。ほれ、飲み物を買ってきてやったぞ」
「ありがとね」
先にシュカへのオイルを塗り終わっていたウィルは、汗ばんでいたアルトを気遣って売店で爽やかな柑橘系ドリンクを買って渡す。普段は男に対してサービス精神旺盛な方ではないのだが、難儀をしている友人の姿が不憫に思えたからの行動である。
紙コップに入ったドリンクを一気に飲み干し、アルトは開放感から腕を上へと伸ばした。
「オマエってばホントにウブなヤツよな。女性慣れした男なら楽しんでヤることだぜ?」
「お婆ちゃんをマッサージするのとはワケが違うし、故郷ではこんなコトしなかったんだもの」
「ま、オレを見習って慣れていくことだな。そんなんじゃエッチする時に困るだろ?」
「ソレとコレでは色々と違うのでは…?」
恋人と愛を交わす状況と、恋人ではない相手と接触する状況は比較にはならないだろう。前者の場合は欲のまま求め合っても良いが、後者の場合は犯罪にならないよう細心の注意を払いつつ適切に動かなければならないのだから。
「そういえばさ、魔法列車での話を覚えているか? クラスメイトと仲良くなろう作戦を」
「え、ああ……」
「シュカとエミリーちゃんはビーチバレー用のボールを借りに行ってるし、他の女子に声を掛けるなら今がチャンスだ」
「けどココで待っていないと二人とはぐれちゃうよ」
「大丈夫だ。何故なら、すぐ近くに丁度良くクラスの女子がいるからだ」
ウィルの指さす先、ほんの十メートル程離れた場所で見覚えのある女子数人が談笑していた。
「ありゃクラス委員長のグループだな。よしアルト、ビーチバレーを一緒にやりませんかと誘ってこい」
「あれ、でもビーチバレーって二人一組のスポーツってさっき言っていたじゃないか。俺達四人で充分な人数なような……」
「大人数で交代しながらやればいいのよ。その方が盛り上がるだろ?」
「まあ、そういうもんか……」
「これで成功すればオマエも少しは自分に自信が付くだろうさ。さあ、レッツチャレンジ!」
言いくるめられたアルトは、仕方なしに声を掛けるべく歩き出す。
だが、相手はクラスメイトとはいえ交友関係はなく、どのように誘えばいいのか悩みながらなので鈍足であった。
「あ、あのさ……」
やっとのことで近づいたアルトは、気弱な声しか出せない。なんだか自分でも情けなくなるほどで、サッサとこの場から逃げ出したい気持ちに苛まれる。
「あら、シュナイド君から話しかけてくれるなんて。今一人なの?」
「実はウィル達とビーチバレーをやるんだけど……一緒にどうかなって」
「いいわね。私達も何で遊ぼうか考えていたところだし、せっかくだからご一緒させてもらうわ」
「よ、よかった。じゃあアッチに」
思いのほかアッサリと事が進み、アルトはホッとして胸を撫で下ろす。もしここで断られていたら、結構なショックを受けていたことだろう。
アルトの様子を見守っていたウィルは、そうも簡単にいくのかと小さく唸る。
「ぬぬぬぅ……やるなアルトめ。オレのようにグイグイいくタイプじゃないのに、ああも上手く誘いに乗せられるのかよ」
「なんの話? アルト君がどうしたって?」
「おわっ!?」
一人呟いていたウィルは、いつの間にか隣に来ていたエミリーとシュカの存在に気が付いておらず、問いかけられてビックリしながら声を裏返す。
「ねぇ、なんの話? ってかアルト君は?」
「あそこを見てみ。クラス委員長のナリア達をナンパしてんのよ」
「なんじゃとて!?」
こちらもまた仰天のあまりに目を見開きながら、アルトを凝視する。その近くにクラス委員長ナリアと友人らが囲んでおり、エミリーは驚愕の表情のまま固まって顎が外れそうになっていた。
そんなエミリーの頭をヨシヨシと撫でつつ、シュカが非難の目をウィルに向ける。
「ウィル、これはアンタの差し金ね? アルトが女の子に積極的にいくわけないものね」
「いやまぁ、そうなんだけど」
「まったくアンタってヤツは……エミリーの気持ちを考えなさいよ。これだからデリカシーの無い無粋な男は……」
「そ、そんなに怒られるとは……」
ため息をつきながらも、シュカはエミリーのために思考を巡らせた。
いくら参加人数が多くなったとはいえ、ビーチバレーの二人一組という基本的なルールを適用するのならば、やりようはまだある。
「大丈夫よ、エミリー。当初の計画通りアルトとペアになっちゃいなさい」
「それしかないね」
「ウチが上手く流れを作るから、任せなさいな」
アルトが引き連れて来たクラスメイトの女子達と合流し、一同はビーチ内に設置されたコートへと移動する。この場の使用許可もボールの借用と同時にシュカが行っており、支度は万全であった。
「さて…じゃあまずはウチとウィル、アルトとエミリーのペアで対戦するね。で、キリのいいタイミングでナリア達と交代するってカンジでオーケー?」
「いいわよ。実はバレーという競技自体をやったことがないから、参考にさせて頂くわね」
宣言した通り、自然な形でエミリーとアルトを組ませることに成功したシュカ。ウィルとはまた違った社交性が彼女にはあり、それが発揮されていた。
「ウィル、敵は三人いると思いなさい」
「え、オレとシュカはペアなんだから相手は二人だろ?」
「エミリーを不安な気持ちにさせた罰は受けてもらうわ。背後からのボールにも気を付けることね」
「オイオイ……」
ウィルは背筋が凍るような恐怖感を感じながらも、仕方がないかとコートに立つ。
「エミリーもウィルにダイレクトアタックしていいからね」
「待てシュカ、そーいう競技じゃないだろ!」
「問答無用!」
この試合、ピリピリとした背後からの敵意と、前方からの明確な怒りの両方をまともに受けることになったウィル。
ビーチバレーとは、生きるか死ぬかを懸けた壮絶な戦争なのだなと理解した瞬間、エミリーの強烈なスパイクの一撃が顔面に直撃して、ウィルは地面へと崩れ落ちるのであった。
そうして夕刻頃まで遊びつくしたアルト達は、海を離れて繁華街へと赴く。
ここには観光客向けのお土産店などが立ち並んでいて、もう間もなく陽が落ちるというのに人でごった返していた。
「夕食までに宿に戻ればいいんだろ? あまり時間は無いけれど、せっかくだからこの辺を見て回ろうぜ」
「じゃあウィル、ウチにちょいと付き合ってちょうだい。コッチよ」
「お、おい……」
シュカはウィルの腕を掴み、半ば強引に先導しようとしている。
「エミリー、あとは二人だけで楽しみなさいな」
とシュカはエミリーにウィンクし、雑踏の中に消えていった。
浜辺でエミリーがアルトと二人きりになれなかったことに心を痛めていて、気を使っての別行動のようだ。
これはチャンスとばかりにエミリーもシュカのマネをしてアルトの腕に自らの腕を絡めた。
「こんなに混雑してるんじゃ迷子になっちゃうからね!」
何も言われていないのに言い訳をして、エミリーはウキウキとした足取りで商店街の道を進んでいく。
夏の熱気の中で恋心も燃え上がり、アルトを独占している今この瞬間を全身で味わうのであった。




