水着イベントとアルトのドギマギ
一日目の自由時間でビーチを訪れたアルトとウィルは、水着へと着替え終わったエミリー、シュカの女子二人と合流する。
「ウィル、アルトお待たせ!」
快活なシュカは恥じらったりせず、スポーティなタンクトップ・ビキニを惜しげもなく披露する。胸を覆うトップス部分は飾り気こそ無いものの、スタイルの良いシュカのボディラインをより魅力的にしている。
そしてボトムはビキニタイプで布面積が少なく、普段は制服に隠れている引き締まった太ももが眩しい。
「シュカの元気なイメージに合う水着だね。凄くスタイリッシュなカンジでイイと思う」
「ありがと、アルト。どこかのアホと違ってちゃんと評価してくれるし、この際だからアルトに乗り換えようかしら」
などと冗談を飛ばすシュカだが、すかさずエミリーが割って入った。
「ダメだよ、シュカちゃん!」
「ウソだから落ち着いてエミリー」
「むぅ」
頬を膨らませるエミリーをなだめ、シュカはその背中を押してアルトの前へと誘導する。これはエミリーの恋を応援するべくのアシストであった。
「ほら、エミリーにも何か言ってあげなよ」
しかし、好きな相手に面と向かって肌を晒すのは普通は恥ずかしいと思うものだ。シュカくらい度胸があるのなら別だが、エミリーは男慣れもしていないし赤面しながら視線を逸らす。
「うん、そのフリル付きの水着は可愛い系のエミリーにはピッタリだよ」
エミリーが着用しているのは典型的なピンク色のビキニであるものの、ヒラヒラとしたフリルのオマケ付きで可愛らしさを倍増させている。もともとエミリーには愛くるしさがあるのだが、そんな彼女には最適な逸品であると言えよう。
アルトの言葉に耳まで真っ赤にし、エミリーは恥ずかしさに沸騰しそうになりながら俯く。
「いやぁエミリーちゃん最高だよ! オレと水の掛け合いでも……」
「ウィル! アッチでウチに日焼け防止のオイル塗ってちょうだい」
「え、んなもん自分で塗りなさいよ」
「いいでしょ、ホラ早く」
「はいはい、分かりましたよ」
ビーチパラソルとシートを借りて、シュカはそこにうつ伏せになりながらオイル入りのビンをウィルに渡す。こうして少しでもウィルの意識を自分に向けさせようという作戦なのである。
それを見たエミリーはシュカのマネをしようとアルトの手を引く。
「じゃあ私にも。ね、アルト君」
「お、俺も…!? それはつまり俺に身体を触られることになるんだぞ…?」
「イヤだと思う相手に頼むわけないでしょ」
「そりゃ道理だけど……」
エミリーは強引にアルトを連行し、シュカの隣のシートを借りる。
「シュカちゃん、ゴメンだけどオイルを拝借願いたいの。あとでお返しするからさ」
「お返しなんていいから、気にせずお使いなさいな。ウィル、アルトにも渡してあげて」
ビンを受け取ったアルトは、中身のドロっとした液体を手に落とす。その感触は悪くはなく、むしろ手触りが良いなと楽しむように両手の掌に広げていく。
が、問題はここからだ。このオイルをエミリーの柔肌に塗り込んでいかなければならないのである。
「なぁウィル、どんな風に……」
「どんなって、こうやるんだよ」
さすが慣れているのか、特に緊張もせずにウィルはシュカの背中に手を這わす。その様子は熟年の夫婦のようで、どうしてこの二人が交際していないのかアルトは疑問に思わざるを得ない。
「アルト君、早く早く」
「わ、分かった……」
しかし、これはリンザローテの言う不純異性交遊に該当するのではと、アルトは躊躇い手を出せずにいる。
普通に考えて、恋人でもない異性の身体を撫でるように触るのはご法度だし、色々とマズいだろうという常識的な感性が働いているのだ。
とはいえ、ここで拒否するというのはエミリーに対し失礼に当たるだろう。必死になって断ればきっとエミリーは傷つくはずだ。
「いくよ…!」
意を決したアルトは、エミリーの背中に触れる。
「ひゃん!」
「だ、大丈夫かエミリー?」
「ちょっと驚いただけ! ささ、続けて」
催促に頷き、ウィルのマネをするようにしてエミリーの肌に掌を滑らせていく。
オイル越しでも分かる女子特有の柔らかさにアルトの心臓は鼓動を速くしており、ウブな彼は息すら荒くなりそうになっていた。
「あっ……」
「ご、ごめん嫌なトコ触っちゃった?」
「ち、違うの。心地よくて声出ちゃっただけだから……」
「そ、そう」
エミリーの声は妙に色っぽく、普段の元気っ娘な彼女とのギャップにアルトはドキッとする。
「アルトってば以外とテクニシャンなんだね。ガサツなウィルとは大違い」
「おい、オレだって丁寧にやってるでしょうが」
「これで…? オンナのコの身体は敏感なんだから、繊細に扱ってくれないと困るのよね。それこそ、エミリーみたいにキモチよくしてほしいんだけど?」
「へ、ヘンなコト言うなよ」
幼馴染の誘うような言い回しに、いやでも意識をせざるを得ない。
女子との付き合いには慣れているとはいえ、ウィルにとってもシュカは特別な存在なのだ。
「これでいいかな、エミリー?」
アルトはエミリーの背中に充分にオイルを塗れたなと、額の汗を拭いながら問う。緊張しっぱなしだったせいで、気が付けば全身が汗に濡れていた。
「うんうん、オーケーだよ。あ、でも……アルト君が望むならお尻とかも……」
リンザローテという邪魔者もいないことだし、大胆に迫ろうとしたエミリーであったが、
「ぴぴーッ! いけませんよぉ、エミリーさん! えっちなのは厳禁ですぅ!」
と、止めに入るのは担任教師のミカリアだ。どうやら見回りをしていたようで、エミリーの言葉を聞きつけてスッ飛んできたらしい。
「そんなぁ、ミカリア先生……私のチャンスなんですよぉう」
「ダメなものはダメですぅ! ところでアルトさん、先生にもオイルを塗って頂けますぅ?」
「あー! ズルいんだ!」
「生徒とコミュニケーションを取るのは教師として大切な仕事なのですぅ」
などという方便を使い、ミカリアまでもがアルトにねだる。
いくらなんでもこの状況はオカシイのではと、アルトは抗議したくもなるが聞き入れてもらえそうになかった。
「いいなぁ、アルトったらよ~。ミカリア先生のナイスバディに合法的に……」
「ほんと、ウィルは変態なんだから。そーいう欲求ばかり表に出していると嫌われるよ」
「これがオレという人間なんだから仕方ないだろ」
「…そんなに触りたいなら、ウチのことを触ればいいのに嫌なの?」
「い、嫌じゃないけどよ……いいのかよ」
「他の女の子が迷惑を被る前に、ウチが防波堤になってアンタの欲求不満を解消してあげようという善意なのよ。べ、別にアンタのことが好きだから触られたいとかじゃないから勘違いしないでよね!」
古臭い典型的なツンデレ口調のシュカと、平静を装うようにオイル塗りを続行するウィル。
その二人の独特なイチャつきを傍目に、アルトはミカリアの要請通りにするしかないと覚悟を決める。エミリーからの抗議の意思を籠めた視線が突き刺さるが、もうどうにでもなれの精神だ。
「ああ、リンザ先輩にも怒られるような気がする……」
ここには居ない敬愛する先輩の顔がチラつき、ウィルが羨むような状況なのにアルトはちっとも楽しめなかった。




