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アルト激昂、炸裂のインパクトウインド

 リンザローテの窮地を知らないアルトは、レストランに寄るというシュカと別れて衣服店を訪れていた。注文していた特注制服の受け取り日が今日であり、カウンターに立つ店員に要件を伝える。


「お待たせしました、アルトさん。コチラがご注文の品になります」


「おお。コマリ先輩のスケッチがそのまま実体化したようだ」


「是非、着用してみてください。サイズは完璧だと思いますが、もし違和感があったら仰ってくださいね」


 通常制服の物をカラーチェンジした黒いシャツやズボンもいいのだが、なにより目を引くのはワインレッドの上着だ。コート状のソレはスタイリッシュで、デザインを合わせたズボンと組み合わせればカッコよさも倍増する。

 試着室を借りて着替えたアルトは、鏡に写る自分の姿に少し恥ずかしくなりながらも、見事に体にフィットしていて満足もしていた。


「ど、どうでしょうかね?」


「おお、とてもお似合いですよ! 魅力マシマシって感じです!」


 ヴァルフレアやウィルといったイケメン程ではないが、アルトとて顔は良い方である。そんなアルトをファッションで着飾ることにより、より魅力的になるのだ。

 事実、店員の女子生徒は試着室から出てきたアルトにドキッとして、鼓動を速くしながら息を荒くしている。


「仕上がりは完璧ですね。ありがとうございます」


「いえいえ、コチラこそ良いモノを見られましたので、ごちそうさまってカンジですよ!」


「そ、そうですか」


 アルトは元々着ていた制服を差し出された紙袋に入れ、興奮冷め止まない店員に軽く会釈をしながら店を出る。

 目的は果たしたので、後は生徒会室へと行って資料作りを手伝うだけだ。


「リンザ先輩や皆にも見せないとな」


 リンザローテやエミリー、そしてなによりデザインをしてくれたコマリには見せる義務があるだろう。

 アルトは新しい制服を纏って新鮮な気持ちに包まれつつ、管理棟のある地区へと差し掛かった。

 すると、何やら慌てた様子の人影がアルトへと近づいてくる。


「ア、アルトさん! よ、よかった会えて……」


「コマリ先輩? どうしたんですか、そんなに息を切らして」


 肩を上下に激しく上下させながら呼吸するコマリは、目に大粒の涙を溜めながらアルトに縋るようにしがみつく。

 その何かに怯えたような姿を見て、ただ事ではないなとアルトにも緊張が走った。


「か、会長が大変なんです! お、襲われて殺されてしまいます!」


「殺され…!?」


「び、備品倉庫に急いで! は、早く!」


 必死に訴えかけるコマリ。焦り過ぎて説明内容は要領を得ないが、リンザローテが危機に瀕していることだけは分かる。

 そして、アルトにとってはそれで充分であった。


「これを預かっていてください!」


 古い制服の入った紙袋をコマリに渡し、アルトは言われた通りに備品倉庫へと全速力で駆けだす。

 詳細は不明だがリンザローテの命が失われようとしているとなれば、アルトが持てる全ての力を動員して救出に向かうだけの理由になるのだ。


「なんでリンザ先輩がこんな酷い目にばかり遭わなければいけないんだ…!」


 リンザローテはグロット・スパイダーに襲われて死にかけ、更に非常事態に巻き込まれたわけで、一日のうちに二度も窮地に陥ったことになる。戦場に繰り出す兵士ならともかく、ただの学生がこんな体験をするなど普通では有り得ない。

 そんなリンザローテに同情しつつも、とにかく急ぐ。幸いにもアルトは体力や身体能力が高い方であり、しかも魔力によって肉体を強化することで、離れた位置にある備品倉庫にすぐに辿り着いた。


「この中か……しかし無暗に入るのはな……」


 正面の扉に手をかけようとするも、このまま突入していいものか逡巡する。リンザローテを取り巻く状況がどのようなものか不明であるため、不用意に突撃すれば逆に彼女を危険に晒す可能性があるのだ。

 例えば、アルトの侵入を感知した相手がリンザローテを人質にしてしまうかもしれず、確実に救出するためには一瞬で決着を付けなければならない。


「探ってみるしかない」


 レンガ作りの壁には窓が無いので、アルトは内部の様子を探るべく聞き耳を立ててリンザローテの位置を特定しようとするのであった。




 一方、備品倉庫内の奥まった場所にて、不良生徒は運んできた木箱からリンザローテを抱え出す。魔法で強制的に眠らされた彼女はまだ意識を取り戻しておらず、ぐったりとしたまま動かない。


「なあ、もうヤッていいだろ?」


「待ちなさい。コイツを起こしてからにしてちょうだい。そうじゃなきゃ反応を楽しめないじゃないの」


 アルトが接近してきているなど想像もしないホランは、余裕そうに不敵に笑みを浮かべつつリンザローテの頭に触れる。


「ウェイクアウェイク」


 意識覚醒を促す魔法を掛けると、リンザローテの瞼がゆっくりと開く。

 そして取り囲まれている現状を理解し、何かを訴えようとするも声が出ないことに気づく。というのも、沈黙魔法のカース・サイレンスの効果が切れていないからだ。


「アンチカースで沈黙も解いてあげるけど、叫んだり魔法を使ったりするんじゃないわよ。もしフザけたマネをしたら速攻で殺すから」


 ホランは脅しながらリンザローテのカース・サイレンスを解除し、彼女の首を掴みながら睨みつける。


「ずっとこうしてやりたかったのよ。念願叶うというのはこうも高揚するものなのね」


「ホラン、なんでそんな……こういう行いがバカげているとアナタなら分かるはずでしょう!」


 苦しそうにしながらも、リンザローテはホランを諭そうとした。

 だが、これは逆効果だ。怒りを糧にして行動しているホランに言葉はもう通用しないし、むしろ説教をするつもりなのかと余計に力が籠められる。


「私をこうさせたのはオマエよ。オマエさえいなければ、私は幸せな学校生活を送れたのよ!」


「言いがかりですわ! 何がアナタの幸せに繋がるのかは分かりませんが、共に模索する道だってあったはず!」


「喋るな!」


 本当に何も分かっていないと、ホランはリンザローテの頬を平手打ちした。静かな倉庫内に乾いた音が響き、一瞬の気まずい静けさが支配する。


「もういいわ。オマエとこれ以上話す気などない」


 そう言ってバインドロープを発動し、リンザローテが抵抗できないよう手首を縛り上げる。


「あとはアンタ達で好きにしなさいよ」


 ホランは倉庫内にあったボロい椅子に腰かけ、配下の不良生徒達にリンザローテを突き出す。ここからはリンザローテが徹底的に穢される場面を特等席で飽きるまで見るつもりであった。

 獲物を手に入れた不良生徒達は、まるで飢えた獣のように興奮しながらリンザローテを取り囲む。


「ぐへへ、この時を待っていたんだ」


 一人が下品な笑い声と共に、リンザローテの胸に手を伸ばした。

 その時、


「なんだっ!?」


 ”バン!”と激しい爆発音が轟き、彼らの近くの壁が破壊される。レンガが粉々になって砕け散り、粉塵が煙のように吹き荒れて一同は目を細めた。


「許さねぇ……こんな事しやがって!」


 強烈な敵意を乗せた怒声と共に、月光を背にするシルエットが揺らめく。

 その人物は粉塵を突破すると、リンザローテに触れようとした不良生徒に一気に接近して、インパクトウインドと呼ばれる風系攻撃魔法を発動した。


「リンザ先輩に触れるな」

 

「なんだコイツ…うわっ…!?」


 これは掌に展開した魔法陣から、まるで衝撃波のような突風を放つ魔法だ。近距離戦用であるため射程距離は極めて短く威力も低いが、直撃すれば人間をフッ飛ばせるだけの力はある。しかも、瞬時に発生させられるという利点もあった。

 インパクトウインドのターゲットとなった不良生徒は後方に盛大に飛ばされ、積み上げられていた古い机の山に突っ込み、崩れた机達に埋もれて身動きが取れなくなる。


「アルトさん…!」


 ワインレッドカラーの新たな制服を纏い、絶体絶命の窮地に駆け付けてくれたアルトを見たリンザローテの目に光が宿る。まさしくヒーローが如くコートの裾がマントのように翻って、とても頼もしく思えた。


 そのアルトは倒した生徒に目もくれず、すぐさまリンザローテを抱き寄せて保護し、敵と相対する…!

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