リンザローテの推理、事件の真犯人は…
アルトとシュカが年頃な恋バナをしている中、リンザローテは眉間に皺を寄せながら管理棟を出て学生寮を目指しゆっくりと歩き出す。
今回の一件を脳内で整理し、だんだんと考えはまとまってきたのだが、その推測が示す真犯人の名前に更に心が沈んでいき歩調が乱れる。
「ご、ご無事だったのですね会長」
そんなリンザローテの後ろから声を掛けたのはコマリである。少し息を切らした様子で、どうやら走って追いかけてきたようだ。
「こ、こっちに歩いていく会長の姿が見えましたので……だ、大丈夫なのかなと気になりまして」
「コマリさんも心配してくださったのですね。ふふ、わたくしは良い仲間に恵まれましたわ」
「せ、生徒会の仕事仲間ですし、何より……と、友達なので」
「ありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいですわ」
アルトを巡るライバルではあるが、そもそも二人は友人関係でもあるのだ。だからこそ魔物の餌食になったと聞けば心配もするし、こうして慣れない駆け足をして追いかけもする。
「こ、校長室で今回の事件について会議があったそうですけど……な、何か分かったことはあるのですか?」
「明確な事実はまだ何も。しかし、わたくしなりに推理をして一つの可能性が思い浮かんだのです。少々突拍子もない内容ではありますけれども……」
「も、もしよかったら聞かせていただけませんか? だ、誰かに話せば気持ちが楽になるともいいますし」
「そうですわね。ではまず、コマリさんに聞いていただこうかしら」
リンザローテは一人で思考を巡らせる中で、今回の事件とホランを結ぶラインが見えたのだ。
しかし、彼女の推理には証拠もないし、それは単なる推測でしかない。
だからこそ他人に聞いてもらって、馬鹿げているか判断してもらうのも悪くはないだろう。
「わたくしの部屋に来て下さいな。まずは体を洗いたいので」
自室へ来るよう促し、リンザローテはコマリを連れて学生寮を目指すのであった。
特待生の寮は一般学生用の寮より豪勢な作りになっているが、リンザローテの部屋は尚更である。元から備え付けられている家具ではなく、実家から取り寄せた私物の高級調度品を使用しており、貴族の住まう豪邸のような雰囲気を醸し出していた。
しかも、目に付くのは天蓋付きのベッドだ。平民にはおよそ縁の無い代物であり、コマリは目を丸くして観察している。
「こ、今度描こうと思っている漫画の参考になるかも……」
素人とはいえ漫画研究部に所属するコマリは、資料という観点で見ているらしい。
「お待たせしましたわ」
バスルームから出てきたリンザローテは、いつものドレスのような制服ではなく、シックなデザインのシャツを着込んでいる。これも特注制服の一つで、グレーカラーのスカートと相まって落ち着いた様相だ。
普段あまり着用することはないのだが、ドレス型を洗濯している時などの予備として用意していたものである。
「やっと汚れを落とせましたわ。あの魔物の唾液はベットリとして気持ち悪かったんですのよ。これでアルトさんとの夜も自信を持って過ごせるというものです」
「ア、アルトさんとの夜!? ど、どういうコトなんです!?」
「あ、えっと、それは……」
誤魔化そうとするも、もう遅い。コマリは聞き捨てならないと、興奮したように詰め寄ってきていた。
「白状しますわよ……実は、明日の緊急ミーティング用の資料を徹夜してアルトさんと作ることになったのですわ」
「こ、この後アルトさんと合流すると?」
「アルトさんは商業区に特注制服を受け取りに行っておりまして、その後で生徒会室にて集合し作業する予定ですわ」
「あのあの、私もお手伝いさせてください! し、資料作りならばお役に立てますので!」
「そうですわね。お力を借りますわ」
本当ならばアルトと二人きりが良かったのだが、こうなれば仕方がない。リンザローテ自身が万全な体調ではないし、コマリの協力があった方がスムーズに作業も進むだろう。
「まぁそれはともかく……事件について、わたくしの考えをお伝えしますわ」
「は、はい。お、お願いします」
「今回の事件、魔物研究部の部長は何者かに催眠魔法を掛けられて、無意識の内にグロット・スパイダーを解放してしまったんですの。ここで問題なのが、誰が彼に魔法を掛けたかという点ですわ」
「た、確かに……し、真犯人ということですもんね」
「ええ……そして、わたくしは真犯人はホランではないかと疑っているのですわ」
リンザローテの示す名前に驚きを隠せないコマリ。ホランは生徒会の副会長であり、責任のある立場の彼女が何故このような大事件を引き起こしたのか見当が付かなかった。
「ど、どうして副会長の仕業だと思うんです?」
「わたくしの考えすぎかもしれませんが……まず、部長さんの証言によると、彼に魔法を掛けたのは女性とのことですわ。しかも、声に聞き覚えがあると……」
「ま、魔物研究部の部員さんとかの可能性は…?」
「それはないですわ。彼自身が部員の声ではないと仰っていましたもの。しかし、知っている相手のような気がすると」
部長は人間に興味は無いのだが、部員は同志として歓迎しているため部活内での対人関係は良好であるらしい。そのため部員の名前は勿論、声もキチンと把握しているのだ。
「では、彼の部員以外の人間関係はというと、かなり稀薄であるとの話ですわ。我が生徒会に部長さんと同じクラスのメンバーがいるのですが、クラスメイトや同学年の学生とは交流を持つ気がないようだと以前話をしておりましたもの」
「そ、そうですか……じゃあ二年生である副会長は尚更接点は無いのでは……?」
「いえ、定期的に開催される部活動報告会において、部長さんとホランは必ず会うことになるのですわ。しかも、副会長のホランには予算申請書と活動計画書を受理する役目があるのです。この時、書類の内容について話し合いも行われるのですわ」
「な、なるほど。そ、そこで副会長と部長氏は会話をする機会があって、だから聞き覚えがあると感じたのですね」
しかし、この程度で疑うには無理がある。リンザローテの知らないところで、接点のある女性がいるかもしれない。
「他にもありますわ。催眠魔法のヒプノシス・コントロールはA級以上でなければ扱えませんが、ホランの魔法力はA級ですので条件は満たしてます。一つのクラスに二、三人ほどと数が少ないA級魔法士で、しかも部員以外で部長さんと関わりのある者となれば相当に犯人候補を絞ることができますわね。そもそも、グロット・スパイダーが搬入される予定を知っていたのは教師陣と魔物研究部と生徒会のみです。セキュリティの観点から、他言無用とされていましたから」
「な、なら犯人は教師って可能性も……」
「確かにゼロではありませんわね。ですが、一番の理由があるのですわ」
リンザローテが思い起こすのは許可証の一件である。
「実験許可証は、わたくしが間違いなく部長さんに渡しておりましたわ。なのに、ホランは他の書類と一緒にあったと言って突き出してきた……これは完全なる矛盾ですわね」
「そ、そうではありますが……」
「わたくしは思うのです。ホランは、わたくしが研究棟に向かう口実を作るために許可証を盗んだのではないかと。あらかじめグロット・スパイダーを解き放ち、魔物の巣窟と化した研究棟に誘い出す……それが彼女の計画だったのではないでしょうか」
被害妄想にも聞こえるが、コマリは妙に納得したような顔をしていた。リンザローテに対する敵意をホランが持っているとコマリも知っていたからだ。
「か、会長を暗殺するため、副会長は魔物と部長氏を利用したと……た、確かに突拍子もない話ではありますけど、あの人の会長に対する異常な敵意を考えればあり得ないとは言い切れませんね」
「単なる推測にしか過ぎませんが、これらの事実を合わせるとホランが真犯人である可能性が高いように思えてしまうのですわ」
リンザローテは窓越しに外を眺めつつ、深くため息を漏らす。
いくら関係が悪いとはいえ、同じ生徒会のホランを疑っている事自体が心苦しくはあるのだ。
しかし、疑いの目を向けざるを得ないほど、状況的に彼女が怪しいのも事実である。




