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決着、グロット・スパイダーの最期

 研究棟の地下に降りたアルトは、最後の一体が潜んでいると思われる魔物研究部の部室の前に立つ。以前訪れた時とは違い、どこか不気味な雰囲気が部屋から漏れ出しているように感じ、緊張しながら生唾を呑む。

 そして、部室の二枚開きの大きな扉をゆっくりと開いた。


「やはりココか…!」


 内部には蜘蛛の巣が張り巡らされており、グロット・スパイダーを運び込んだ時とは様相が大きく変わっている。完全に魔物の拠点として作り替えられていて、人間の侵入を拒むような異質感を醸し出しているのだ。

 アルトは魔法道具であるランタンを部室の中に放り込み、様子を探ろうとする。


「そこかッ!」


 投げ込まれたランタン目掛けてグロット・スパイダーの糸が飛んだ。巣を荒らそうとする異物を攻撃しようとしているのである。

 だが、ランタンに飛んだ糸の射線を目撃したアルトは敵本体の位置を視認し、一気に突入して部室のヌシと化した大柄な蜘蛛へとフレイムバレットを発射した。


「当たれ!」


 しかし、グロット・スパイダーの動きは素早い。囮のように使われたランタンから瞬時にターゲットをアルトへと移して、フレイムバレットの火炎弾から逃れる。先程戦った二体とは違い、慎重にアルトとの距離を保ちながら戦況を見極めようとしているようだ。

 この状況で有利なのは断然グロット・スパイダー側だ。他の生物が身動きが取れなくなる巣の上を自在に移動し、優位な立ち位置から敵を襲撃できるからである。

 そうなれば、いくらS級魔法士のアルトでも苦戦は免れられないだろう。先の資材庫における戦いでは、相手から突撃をしてきたので迎撃すればよかったのだが、今回はそうはいかない。


「闇雲に巣を攻撃しようにもな……」


 魔物研究部の部員が巣に捕らえられているため、慎重に狙わなければ部員に攻撃魔法の被害が出る可能性がある。

 アルトが逡巡をしていると、隙を突こうとしたのかグロット・スパイダーが再度糸を吐き出す。


「……狙いは俺じゃない…!」


 糸は床に落ちたままのランタンを絡め取り、振り回して壁に激突させる。そのせいでパリンと砕け散ってしまい、部室内は暗闇に包まれて視界が効かなくなってしまった。


「チッ……目を潰されては……」


 敵の位置を見失っては打てる手立ても限られる。これではコチラから狙い撃ちにするのは不可能だ。

 しかし、暗所を好む傾向のあるグロット・スパイダーにとっては、真っ暗な空間はむしろ自分の得意とするフィールドだ。アルトにプレッシャーを感じさせながら、着実に攻撃のチャンスを狙っている。


「どうする……いや、むしろ敵のやり方を利用するか」


 多少焦りながらも、アルトは一つの案を思い浮かべていた。それは危険な懸けにはなるものの、現状を打破するには他に方法は思いつかなかった。


「こいよ、俺はここだ!」


 あえて声を張り上げ、敵を挑発する。魔物には人語を理解する能力は無いだろうが、怒気の感情を含む言い方によって敵意は伝わっただろう。

 それに呼応するようにグロット・スパイダーは勢いよく糸を放つ。狙いは正確で、アルトの左腕に巻き付いた。

 このままでは餌食になってしまうが、しかしこれはアルトの作戦通りである。


「そうやって俺を引き寄せろよ…!」


 グロット・スパイダーは糸を吸い込むようにしてアルトの体を自分の目の前に引き寄せた。

 そして、他の人間達のように糸で全身を巻こうとするが、


「待ってたぜ、この瞬間を!」


 コチラから近づけないのなら、相手の技を利用して近づける機会を待とうというのが作戦であった。

 この暗闇でも視認可能な超至近距離まで接近出来たアルトは、グロット・スパイダーの顔面にフレイムバレットを叩きこむ。もはや狙い定める必要もなく、ほとんどゼロ距離で火炎が吹き荒れた。


「これで終わりだ!」


 顔の半分を失いながらも抵抗を続ける相手に対し、トドメとしてアイスランスを撃ち込んだ。これによって胴体が粉砕されて、その生命活動を停止する。

 

 アルトの活躍によって三体のグロット・スパイダーの暴走は食い止められ、研究棟には再び静寂が訪れるのであった。






 それから三十分後、午後六時という時間である。

 アルトはリンザローテと共に校長室を目指して管理棟の階段を昇っていた。

 あの後、地下を含めた計三つの巣に囚われていた人間全てを救出し、シュカの作成した特効薬による治療が行われたことにより、卵が孵化して命を落とす者は一人もいなかった。ただし、衰弱が激しいために入院せざるを得ない者は少なくない。


「リンザ先輩は大丈夫なのですか? もし体が不調なら、今日は休まれたほうが……」


 アルトは隣を歩くリンザローテを気遣って、そう声を掛ける。いつもの覇気や気力が感じられず、弱っているように見えたからだ。


「いえ、問題ありませんわ。多少ダルさは残っていますが、動けないほどではありません。真っ先にアルトさんがわたくしを助け出してくださったからですわね」


 声のトーンも普段より落ちているリンザローテ。卵に生命力を吸われていたのだから仕方がないが、トラウマを植え付けられたことによる心理的なダメージの方が大きいようである。

 そんなリンザローテに事件の報告をさせるのは酷だろうと、アルトは校長室で行われる予定の緊急会議への出席をヤメるように促した。


「リンザ先輩、研究棟の件なら俺が校長先生や皆さんに話します。ですから、リンザ先輩がイヤな記憶を思い出す必要はありません。やっぱり部屋で休んでいてください」


「ご心配ありがとうございます。ですが、わたくしは生徒会長なのですわ。この学校での問題をキチンと把握する義務がありますし、わたくし自身が当事者ならば尚更です」


 リンザローテは学生のトップに立つ生徒会長であり、自らの職務に対する責任感は強い。だからこそ、こういう非常事態にこそ立ち上がらなければならず、リンザローテは欝々とした気持ちを無理矢理押し込めているのだ。

 そんなリンザローテを立派だと思うアルトは、何でもいいから彼女の役に立ちたいと願う。


「本当に尊敬できる方ですよ、リンザ先輩は」


「アルトさんにそう言って頂けると自信も付きますわね。でも、わたくしも弱い人間ですわ。こうやって自らを鼓舞できるのも、アルトさんが居てくださるからです」


「俺が…?」


「ええ。あなたはわたくしに勇気をくれる……出会ってからというもの色々とわたくしの中で良い方向へと変わり始めて、今まで以上に頑張れているのもアルトさんのおかげですわ。ですから、今後とも傍に居てくださると嬉しいです」


「俺でよければ」


 そんな会話をしている内に校長室へと辿り着く。二人きりの時間が終わることにリンザローテは名残惜しそうにしつつも、ふぅと一呼吸おいてから校長室の扉をノックした。


「リンザローテとアルト・シュナイド、ただいま到着いたしましたわ」


 リンザローテの声に反応するように魔石が取り付けられた扉が自動で開き、二人を招き入れる。


「呼びたててしまってすまないね。こんな事態が起きれば招集を掛けないわけにはいかなくてね」


 扉を魔法で操作していたオブライアン校長は、見事に着こなしたタキシードの襟に片手を当てつつそう言う。


「遅くなってしまい、申し訳ありません」


「いやいや、むしろ謝るのはコチラだ。リンザローテ君は被害者であるのに、こうして会議に出てもらうのだからね」


「いえ……これが、わたくしの仕事ですもの」


 校長室にはオブライアンの他に、数人の教師が立っている。皆険しい表情で空気は重苦しく、アルトは言葉を発せず黙っているしかない。

 だが、そんなアルトが気になったのは部屋の隅に立つ一人の人物であった。

 それは生徒会副会長であるホラン・キューミーであり、彼女もまた唇を硬く閉めているのだが、そこには不安だとかとは違う別の感情が含まれているようにアルトは感じていた。

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