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穿て、氷結の尖槍

 魔物に占拠された研究棟内でシュカと会ったアルトは、彼女からリンザローテが囚われの身になっていると聞いて頭を抱える。

 気持ちとしてはスグにでもリンザローテを救出したいのだが、被害者が多数いると思われる現状では、教師ら大人に知らせるのが先決だという理性も働いているのだ。


「でもグロット・スパイダーに捕まっているってヤバいよ、アルト。ヤツら、人間に卵を植え付けて母体とするんだよ。そうして生命力や魔力を奪って栄養源とし、孵化するんだって」


「なんだって!?」


 リンザローテが魔物に卵を植え付けられるシーンなど想像したくもないが、シュカの言う通りならば危機的な状況にある。


「卵はどれくらいで孵化するんだ?」


「植え付けられてから一時間半から二時間だったかな……孵化した後は母体を喰い破って出てくるんだよ」


「リンザ先輩が生徒会室を出てから一時間は経っている……となりゃ時間は無い!」


 アルトは立ち上がり、リンザローテを助け出すべく戦う決意をする。このままではリンザローテの命が本当に危ないわけで、ともすれば他に選択肢などない。


「シュカ、俺はリンザ先輩のもとへと向かう。キミは研究棟から先に脱出して大人に伝えてくれ」


「多分だけど、会長は一階の資材庫だよ。グロット・スパイダーが捕まえた会長を連れて資材庫に入っていくのを見たんだ」


「この部屋から近いか?」


「エントランスを挟んだ廊下の突き当りにあるよ。あそこが敵の巣なのかも」


 その情報があれば充分である。

 アルトは部屋の扉を開いて廊下を索敵し、敵影が無いことを確認して資材庫の位置も確認した。


「俺がエントランスまで援護するから離れるなよ、シュカ」


「待って、ウチもアルトと行くよ」


 シュカもアルトの肩越しに廊下を見て、そう小さい声で言う。


「ケド、大人に伝えないと」


「アルトは卵を無力化する方法を知っているの?」


「いや、知らないな……」


「ウチに任せて。寄生虫を殺す魔法薬を応用した特効薬を作れるから」


「シュカはそんな物を作れるのか。俺は魔法薬を作った事が無いんでイマイチやり方が分からなくてさ」


 いくらリンザローテを助け出しても、体内に埋め込まれた卵を除去しなければ真に救ったことにはならない。

 だが、シュカの言う特効薬を使えば卵を無効化することが可能のようだ。アルトにはその特効薬を作れないし、ともすればシュカに助力を請うしかない。


「じゃあ一緒に行こう。しかし、さすがは魔法薬に精通しているだけはあるね。頼りにしてるよ、シュカ」


「任せなさいよ。幸いにも資材庫には魔法薬を作るための調合台の予備があるし、基礎となる薬草もあるんだ。だけど、一つ問題があって……」


「どんな?」


「特効薬にはグロット・スパイダーの血液が必要なんだよ。しかも新鮮なヤツがね。つまり、あの化け物蜘蛛を捕まえてもらわないといけないの」


「なるほど。リンザ先輩のためなんだから、やってやるさ。俺のS級魔法士の力、こういう時にこそ発揮しないとな」


 そう決まれば後は行動するのみだ。アルトは廊下に出て、シュカを連れて資材庫へと走る。


「どっからでも仕掛けてこい、魔物め。返り討ちにしてやる」


 しかし、アルトの予想に反してグロット・スパイダーは迫ってこない。静まり返った屋内で派手に足音を響かせれば位置を察知するなど容易なはずだが、傷を負ったために敵も慎重になっているのだろうか。


「臆病風に吹かれているのか、敵は…?」


 敵襲に遭わないまま廊下を突き進んだアルトとシュカは、資材庫の扉を少しだけ開いて内部を索敵し、魔物がいないと分かって突入する。


「アレは!?」


 資材庫の中には巨大な蜘蛛の巣が張り巡らされているのだが、その巣に数十人の人間が囚われていた。いずれも全身に糸が巻き付けられてミイラのような状態で、生きているのかすら外観からは分からない。


「リンザ先輩!」


 そんな人々の中からアルトはリンザローテを発見する。彼女のロールを巻いた金色の髪が身を縛る糸の隙間からはみ出ており、一瞬でリンザローテだと確信したのだ。


「アルト、ウチは調合台の準備を進めるね」


「頼む。俺はまずはリンザ先輩を……」


 と、アルトは巣からリンザローテを切り離そうとしたのだが、


「敵か!?」


 再びの敵意がアルトを襲う。

 しかも今回は一体だけではなく、二体のグロット・スパイダーが資材庫の天井を怪力で剥がし、アルト目掛けて突進を掛けてきたのだ。エントランスでの邂逅戦でアルトの攻撃を受けた個体が、仲間に支援を要請したらしい。


「アルト!」


「ヤツらのターゲットは俺だ。俺が引き付けるから、ソッチは任せる!」


 シュカはアルトの言葉に頷き、調合台の準備を始める。

 そんな彼女の邪魔はさせまいと、アルトは戦闘態勢に入って敵の体当たりを回避した。


「チッ、二体が相手というのは厄介だが…! 一体は生け捕りにするとして、もう一体には本気で魔法を叩きこませてもらうぞ!」


 反転して再度襲撃してきたグロット・スパイダーに対し、アルトは右手を差し向ける。

 そして得意技でもあるフレイムバレットを発射、グロット・スパイダーの胴体にダメージを与えた。


「致命傷ではないけど…!」


 弱点に当てたわけではないものの、肉が抉れて皮膚が燃える。人間であれば重症だろうが、生命力の強い魔物にとっては軽傷だ。

 しかし、痛みを感じないわけではない。本能的に怯んで動きが大きく鈍っていた。


「今ッ!」


 右手でもう一体のグロット・スパイダーに牽制のフレイムバレットを撃ちつつ、左手にも魔力を滾らせる。そして、ダメージを与えた個体に対して追撃を行う。


「これで!」


 左手の掌に青白い魔法陣が出現し、発射されるのは槍のような形状をした氷塊であった。鋭い先端部は殺気すら感じさせ、確実に敵を仕留めるという確固たる意思表示のようでもある。

 これは、攻撃魔法の一つであるアイスランスだ。形成に少々時間が掛かるため、咄嗟の攻撃や機動戦には向いていない。

 だが威力はお墨付きで、全力の魔力を用いれば殺傷能力はピカイチな魔法である。


「悪いが仕留めさせてもらう!」


 強烈な敵意を乗せ、その氷の槍が飛翔した。重量があるため速度はフレイムバレットよりも遅いが、しかしグロット・スパイダーは回避できない。


「やったか……」


 アイスランスは顔面に直撃し、肉を貫き骨を砕く。そうして貫通したまま体を串刺しにして、血を噴き出しながら瞬時に絶命した。

 前に戦ったサイクロプスほどではないにしても、グロット・スパイダーとて弱い魔物ではない。その相手をこうも上手く撃破できたのは、さすがS級の力を持つだけのことはある。


「オマエは捕まえてやる!」


 今一番重要なのはグロット・スパイダーの新鮮な血液だ。先程倒した個体の血でもいいのだろうが、生き血の方が素材としては優良だろう。

 仲間の死に動揺したのか、もう一体も動きの精細さに欠けてアルトと距離を離そうとする。蜘蛛の巣を移動し、天井の穴に向かっているようだった。


「逃がすか!」


 後退をした相手を追うアルトは、逃げ道を塞ぐべくフレイムバレットを放つ。巣の一部が焼き切れて、グロット・スパイダーが想定していた逃走路が潰された。

 床に落下したグロット・スパイダーは、脅威となるアルトをどうにか排除しようと考えるも、反撃に移る前に足元を掬われる。


「敵を縛り上げるのはオマエだけの特権ではない!」


 敵が着地する地点を予測したアルトは、そこにバインドロープを先に展開していたのだ。

 虹色に光る魔力のロープがグロット・スパイダーの脚を絡め取り、頭と体もグルグルと巻き付いて拘束する。


 こうして二体の化け物蜘蛛を制圧したアルトだが、余韻に浸っている場合ではない。

 リンザローテを救うべく、魔物に目もくれず彼女のもとへと急ぐのであった。

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