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休日の一幕

 コマリはアルトの要望や、予算などを考慮しながらデザインを描き上げていく。さすがは漫画研究部で熱心に活動していることもあり、その画力は並大抵ではない。

 しかも、アルトが口にするフワッとした参考にならないイメージを具体的に取り込み、しっかりと形にしていく想像力も大したものだ。


「ど、どうです…?」


「いいですね。無難なカンジでありながらも、カッコよくまとまっていると思います」


 完成したデザインを覗き込むアルト。

 まず、シャツとズボンは黒で統一されており、これらは一般生徒が着用している制服のカラーリングをチェンジしたものである。アルトはあまり金銭的余裕が無いため、ここは色を変更するだけで値段を抑えたのだ。

 では、どこに力を入れたのかというと、シャツの上に羽織る上着である。普通は濃紺のブレザーを着るのだが、コマリの薦めもあってロングコートタイプにしたのだ。


「こ、こういうのが漫画とかでは定番なんです……」


 というのはコマリの弁だ。どうやら彼女が好きな漫画の主人公の服装をアレンジし、アルトに当てはめているらしい。


「しかし、コートってのは暑そうな気もしますが…?」


「こ、これは保温効果のためではなくオシャレ目的ですので…生地を薄い物にすれば問題ないです多分……」


「なるホド。通気性なんかについてもお店の人に訊いてみます」


 そして問題の色合いは赤系を採用しながらも、アルトの要望通り目立ち過ぎないワインレッドとした。紫みを帯びているため派手さはないものの、名前の通りワインのような深みのある赤で渋いカッコ良さがある。


「本当に助かりました、コマリ先輩。俺だけじゃこんな風には出来なかったので」


「い、いえ……こんなでしかお役に立てませんし……」


「何か一つでも長けた技術があるのって素晴らしいですし、会長補佐の仕事とかでも頼りにさせて頂きますよ」


「は、はい……頑張ります!」


 アルトからの期待の目を受け、コマリは頬を紅潮させながらコクンと頷く。これで少しはアルトと仲良くなれたかなと嬉しさも感じているようだ。

 そんなコマリと対照的なのはリンザローテとエミリーで、ほとんどというか全くと言っていいほど出番は無く横から見ていることしかできなかった。


「……エミリーさん、わたくし達の気合は一体なんだったのでしょう」


「……ダメダメでしたね、私達」


 意気消沈としながら、コマリが描き上げたデザインをアルトに重ね合わせ、新しい制服に身を包んだ彼の姿を想像するしかない。






 滅亡した古代文明においては一週間を七日間と定義し、それを一つの区切りとして生活ペースを築き上げていた。平日とされる五日間で労働や学習をして、残る二日を休養日に当てるのが定例であったようだ。

 そして、その定義は現代においても同じである。古代文明を参考にして社会を再構築しようと画策したのが今のパラドキア王国であり、かつては”地球”と呼ばれたこの星の動きが大きく変わっていないからこそ適応できたのだ。

 だが、これはアルトの知るところではなく、世界の過去に想いを馳せることはなく休日のドワスガルを散策している。


「新しい制服のデザインも提出したし……あとはどうするか」


 先日訪れた衣服店にオーダーメイドの制服を発注したアルトは、商業区画の中で次の予定を考えていた。入学初日から色々と慌ただしかったが、やっと休みとなって時間も出来たのだから有意義に過ごしたいと思う。

 しかし、アルトは無趣味な人間であったし、慣れない環境で何をしたらいいか分からなかった。

 そんな時、聞き慣れた声がアルトの耳に入ってきた。


「アルト君、こんなところで何してるの?」


「あ、エミリーか」


 アルトの背後からヒョコッと現れたのはエミリーで、彼女の手には以前一緒に訪れたレストランのウェイトレス衣装が抱えられている。


「俺はコマリ先輩に描いてもらったデザインを店に出してきたんだ。エミリーこそどうしたの?」


「へへーん! 実はね、あのレストランでアルバイトすることになったんだよ」


「もう採用されたの?」


「昨日面接しに行ったら、人手不足だってんでスグに採用になってさ。今日は初出勤なの」


 ウェイトレス衣装を見せびらかしながらも、しかし多少の緊張があるようだ。


「今までアルバイトなんてしたことなかったし、接客なんて出来るのか心配はあるんだよねぇ」


「なんでも初めてってのは緊張するものだよ。でも一度経験しちゃえば案外こんなものかと自信が付くさ」


「それ、エッチの話?」


「違うわ!」


 ニヤニヤとしてからかうエミリーに反論しながらも、アルトは普段のエミリーの感じが出ているなと安心していた。緊張で凝り固まっていては出来る事も出来なくなるし、いつもの明るいエミリーならば接客だって対応可能であろう。


「ねぇねぇ、このあと用事が無いならレストランに来てよ」


「それもいいな。エミリーのウェイトレス姿を見てみたいし」


「えっへへ。じゃあ早く行こう!」


 エミリーに手を引かれ、アルトはレストランの待機列に並ぶのであった。




 昼時を過ぎていたということもあり、あまり長い時間並ばずとも入店できたアルトは、受付のウェイトレスに案内されて厨房に近いカウンター席へと案内される。店内のほとんどは複数人用のテーブル席であるのだが、お一人様にも対応していた。

 

「お待たせ、アルト君」


 席に着いたアルトに声を掛けつつ水の入ったコップを出すのはエミリーだ。


「ルーキーでも水出しや注文を取ってくるくらい出来るでしょってさ。実戦式研修だっていうけど、いきなり過ぎる気がするよね」


「オーダー取るってのも大変だよな。そりゃメモに書けばいいとはいえ、メニューとかの把握もしなくちゃスムーズには出来ないし」


「ね。ま、それはともかくとして……私のウェイトレス姿はどう?」


 クルリと一回転してみせるエミリーは、ヒラヒラとしたスカートを翻す。薄いオレンジ色が特徴的な衣装は可愛らしく、エミリーの子犬のような愛らしい見た目にマッチしている。


「凄く似合ってる。可愛いよ」


「そ、そうかな。えへへ、よかった」


 照れくさそうにニコッと笑うエミリー。この笑顔を振りまいていれば、彼女にファンが付いて看板娘のような扱いになりそうだなとアルトは思う。


「じゃあ注文をお伺いしましょうかね」


「そうだな……ハンバーガーセットで」


「おっけー。厨房に伝えてくるから待っててね」


 アルトの注文を受けたエミリーは、小さなメモ紙に書き記して厨房へと下がる。この調子なら仕事に慣れるのもスグだろう。


「エミリーも頑張っているし、俺も何かアルバイト探してみるかな……制服の出費でなかなか厳しいし……」


 特待生には毎月生活費が支給されるが、その生活費の多くをオーダーメイドの制服に費やしてしまったので、今の彼の手持ちは残り少ない。これでは来月まで相当に節制した暮らしをしなくてはならなかった。

 後で日雇いのアルバイトでも探してみるかと考えているうちに、エミリーが再びアルトのもとを訪れる。


「ご注文のハンバーガーセットですよ、アルト君」


「ああ、ありがとうね」


 品物を受け取ったアルトは、次のお客へと急ぐエミリーを視界の端で追いつつ質素なハンバーガーを口に運ぶ。

 学生としての初めての休日は、これはこれで忘れられない大切な思い出の一幕となるのであった。

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